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ヘンデル メサイアより「ハレルヤ」(Handel, Hallelujah)

2013 DEC 27 14:14:47 pm by 東 賢太郎

ライト・クラシックのクリスマス定番が「そりすべり」なら、本格派はこれです。ジョージ・フレデリック・ヘンデル作曲のオラトリオ「メサイア」です。

年の瀬の第九は日本の年中行事です。欧米では第九はなくて、まず「メサイア」ハイドンのオラトリオ「四季」、「天地創造」、それからチャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」フンパーディンクの歌劇「ヘンゼルとグレーテル」あたりが定番でしょう。後者2つは子連れOKなのでドイツ時代にヴィースバーデン歌劇場に行きましたが下の娘はねずみや魔女が怖くて大変でした。メサイアはメシア(Messiah、救世主)の英語読みで、もちろん子供向けではなく宗教曲です。

僕はこの曲の大ファンであり、コンサートで第九と重なれば100%こっちへ行きます。家で聴きはじめると2時間半はあっという間に過ぎ去りますが、オラトリオというのは聖書の教えを広めるためにできた中世の音楽劇が歌詞と音楽だけになったものです。だから聖書の文句による讃美歌集という感じであり、クリスチャンでない僕には日本語でも意味が分からない部分がけっこうあります。それでも聴きたくなるのだからキリスト教伝播にオラトリオの果たした役割は小さくなかったでしょう。

z00052v50lu                               1685年ドイツのハレで生まれたヘンデル(Georg Friedrich Händel)はJ.S.バッハと同い年、同期ということになります。バッハが一生ドイツにとどまった純ドメス派だったのに対し、ヘンデルはドイツ国外でも有名なグローバル派であり、英国に渡ってゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデルからジョージ・フレデリック・ハンデルとなって活躍しました。そのまま英国に骨をうずめ、ウエストミンスター寺院にお墓があります。だから英語名で呼ぼうと思いますが、「ハンデル」では誰も分からないので「ヘンデル」とします。

メサイアは1742年にアイルランドのダブリンで初演され、歌詞は英語です。英語のクラシック音楽でこんなに世界的に大ヒットした曲はあとにも先にもないでしょう。宗教音楽はラテン語(レクイエム)、ドイツ語(バッハ)のイメージがありますから、最初のころメサイアの英語はロックを連想して妙な感じがしました。我が国の一世代前の音楽評論家、教育者にはドイツ楽派が多くて英米人の作曲家や演奏家を大いに馬鹿にする傾向があり、僕もその影響で初めのころは英語ということだけでこの曲を軽く見ていました。

たしかに大作曲家の国籍比率を見れば仕方がないのですが、オペラ発祥国イタリアでさえ下に見られていましたから英米蔑視に加えて明白なドイツ偏重でした。その栄えあるドイツのゲオルグからジョージになってしまったヘンデルは彼らの感性からすれば脱藩浪人の格下げものだったでしょう。英米風の名前はクラシック界では重みがないという印象は日本だけの現象ではないらしく、指揮者のマイケル・トーマスはミドルネームの「ティルソン」を入れているし、ピアニストのスティーブン・ビショップは「コヴァセビッチ」を最後に加えているのはそのせいかなと思います。本人はどう説明しているか知りませんが・・・。

これはどこか漢方薬のネーミングに似ています。有名な「男宝」をご存知の方も多いでしょうが「だんほう」じゃだめですね、読み方が。効く気がしない。なんといっても「ナンパオ」と中国風に読まないと。こういうのは理屈じゃありません。フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、カイルベルト、クレンペラー・・・・う~ん、ジワッと効きそうですね、ベートーベンに。ニューマン、ハリス、スミス、ジャクソン・・・・どうも、効かなさそうに感じてしまいます。ジョン・スミスのベートーベンはいいぞなんていうと(そんな指揮者いませんが)それだけで通っぽくなくてかっこ悪いと感じてしまう。特に日本人はです。

こういうつまらないイメージバイアスは音楽鑑賞の邪魔です。矛盾した話ですがそれは学校教育でもあって、みなさん教科書にバッハが「音楽の父」、ヘンデルは「音楽の母」とあったのをご記憶と思います。僕の場合この「母」というのが妙にひっかかって、長いこと何となくバッハの方が偉いんだろうと勘違いしていました。父>母という儒教的バイアスもありますが、作曲家に女性がいませんからね。大相撲の母とかいわれたようなもんです。だから、力士が慕う国技館の弁当屋のおかみさんみたいなニュアンスまで混ざっていました、僕の場合。2人は同期だし並んで覚えさせようという本邦教育者の苦心の作だったかもしれませんが裏目でした。

全曲について書きたいのですが、この曲をよく知らないとつまらないでしょう。そこで今回はメサイアの中で最も有名である天下の大名曲「ハレルヤ」をいくつか聴いていただき、さわりからメサイアのミラクル・ワールドにお立ち入りいただきたいと思います。これを初めてロンドンで聴いた時、ハレルヤのところで聴衆がみんな起立するので驚きました。ロンドン初演の時に国王ジョージ2世が起立したことが習慣化したといわれ、確かにこの曲がメサイアのハイライトでもあるのですが、くどいようですが、これが気にいったら全曲を聴かれることをお薦めします。全部が天下の大名曲だからです。

 

まずは正統派からいきましょう。どう正統派か?女性がいません。少年合唱です。教会の聖歌隊は女人禁制で、その伝統は世俗化したオペラにもひきつがれて去勢したカストラートという男性歌手が高音パートを歌いました。イタリア語でソプラノ、アルトという単語は男性名詞であることが、それらのパートを歌うべき者たちが男性歌手であったことを証明しています。キングズ・カレッジ合唱団によるケンブリッジ大学チャペルでの演奏です。

次は現代のスタンダードなブリティッシュの名演を。指揮のサー・コリン・デーヴィスは今年亡くなった英国を代表する名指揮者です。CDもそうですが骨太で男性的な解釈はいいですね。最後の部分のティンパニ強打はブラームス4番第1楽章そっくりです。

このメサイアにはあのモーツァルトによる編曲版(K.572)があります。彼はスヴィーテン男爵のライブラリーでバッハ、ヘンデルの楽譜を広範に研究しましたがその成果のひとつがそれです。歌詞はドイツ語に、オーケストラは大胆に増強されていてシューマンのマーラー版を思い出します。彼のレクイエムにはメサイアの明白な引用があり、魔笛やドン・ジョバンニの合唱にもエコーが聞こえます。僕はモーツァルトは気質的にもバッハよりヘンデルを好んでいたと確信しています。ヘルムート・リリング指揮シュトゥットガルト・バッハ・コレギウム、ドイツ人によるドイツ流演奏です。モーツァルトの要求より少なめの編成ですが、それでも大変シンフォニックです。

次はだんだん国籍不明になります。ニューヨークのラジオ・シティでの演奏。アーチストは誰も知りません。最初のケンブリッジ大学と比べてください。女人禁制?なにそれ?ですね。こりゃあもうロック・ミュージカルです。めちゃくちゃアメリカンでけっこう笑える。音楽は比較文化人類学にもなるんです。

東洋人がいなかったようなので最後にご登場願いましょう。来年の日韓の経済交流円滑化を祈って、ハングル版ハレルヤです。

Bravoティンパニのお姉さんのプレイが素敵です。合唱もオケも活気があって大変すばらしい。

5つお聴きいただきました。どれがお好きでしょうか?底抜けに明るく、祝典的で、高貴で、生きるエネルギーに満ちあふれた音楽!こういうのを毎日聴いて暮らせば鬱病にはたぶんならないでしょう。

 

Categories:______ヘンデル, ______作品について, クラシック音楽

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