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ピケティは間違っている

2015 FEB 3 13:13:25 pm by 東 賢太郎

ピケティの講義を聴いて唖然としたのはもうひとつある。

「中国に投資すれば高い利回りが得られるだろうが、あなたが銀行に10万ユーロ預金しても銀行はそれを中国に投資して得た高い利回りをあなたには少ししか分配しない。そういう社会の仕組みになっている」

と堂々と講義していることだ。中国で大儲けしているのは資本家だけだ、資本のない者はそれに縁がないから格差が生じるのだと学生に教えている。

前世紀の共産国の学者かと耳を疑うばかりだ。

中国株を買えばいいことぐらい英米人なら小学生でも知っている。詳しい知識がなくたって、1万円しか手元資金がなくたって、そのために英国で投資信託という仕組みが作られたのだ。驚くべきことにこの人の頭には株式、エクイティという概念が完全に欠落している。あるいはあえて学生に教えないようにしている。

彼は「資本」と「資金」をこう区別している。

「資本」は彼お得意の「金持ち絶対保証利回り」=「r」=「ハーバード年金の12%」で回るが、「資金」だとせいぜい3%しかもらえない。これが太古の昔からの法則なんだ。だから格差社会ができるんだ、と。

彼によると同じ1ユーロも、上位10%の金持ちが持つと「資本」になり、それ未満の人が持つと「資金」になるようだ。その r という数値を生み出す資本主義社会での現実の理解の浅さは驚嘆に値するものの、これはDas Kapitalに書いてあることそのものだ。階級闘争の思想的背景になったものだ。

彼が例にとっている10万ユーロは1350万円だ。彼の論旨には不似合で笑ってしまうほど立派な大金、Das Kapitalである。それを「資本」にできずに銀行に持っていくことしか知らないならそれはキミが無能なだけなんじゃないか?もっといい方法があるよと学生に教えてあげるのが経済学校の先生の仕事であり、最低限の価値なんじゃないか?

銀行に行くことが大学で教えるに足る唯一の合理的な判断であると主張するなら、株主から資本を調達して高い収益を得てそれを保有株数に応じて「平等に」(equity)配分する仕組み、つまり資本主義の根幹を担う株式会社制度を否定(あるいは無視)しているとしか言いようがない。

だから合理的な僕の判断は、「前世紀の共産国の学者かと耳を疑うばかりだ」になる。今世紀ではない、前世紀である。

僕は共産主義を否定する気もないし、それができるほどちゃんとマルクスの資本論を読んでない。しかしピケティだって資本主義の現実をぜんぜん学んでない。だからあなたが現行の資本主義を否定するのは学者として極めて非科学的な態度であるということをいいたい。いや否定はしてませんよというならもっとたちが悪い「なりすまし」でしかない。マルクスを読んで、「新・共産主義」を名のるのがお似合いだとアドバイスしたい。

それを学生に教育して銀行預金しか知らない大人を増やすのはあなたが否定している格差社会を成長させる非常に効率的な政策である。親の年収格差が教育格差を生み、それが相続されていくことは全く宜しいと思わないが、「10万ユーロ預金したら」をふんふんと聞いているパリ経済学校生は金持ちの子女なんだろう。それならばあなたの講義は理にかなっていると高く評価したい。

 

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Categories:______グローバル経済, 経済, 若者に教えたいこと

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