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ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(2)

2015 MAR 25 1:01:35 am by 東 賢太郎

ハンス・クナッパーツブッシュ / ドレスデン国立管弦楽団(27 Nov 1959、ライブ)

871同指揮者ではミュンヘンPO盤(56年)、VPO盤(59年)も持っているがこのDSK盤(仏TAHRA)が音に深みがありオケにコクもある。第1楽章のテンポは意外に普通で展開部でティンパニを強打して頂点を築き、終結のホルンは感動的。第2楽章もオケの美しさが活きる。第3楽章のPrestoはずいぶん遅く田園風景を各駅停車で眺めるよう。終楽章の入りはさらに遅く主部はティンパニがくさびを打ち込む物々しさで何だこれはとびっくりするが、オケは納得して熱い不思議な演奏である。コーダに入るとほんの少しテンポが上がり、また下がる。まったく特異な演奏だが彼のシューベルトのグレートを楽しめる人には面白いだろう。(総合点 : 2)

 

ジョン・バルビローリ / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

Cover 2僕のCDは右のRoyal Classics盤。EMIのVPO録音はDeccaの艶と華に欠ける。第2楽章中間部と第3楽章はVPOの管の魅力が聞こえるが、いつくしむような解釈はわかるが指揮者が目論んだほどオケが反応していない感じがあり時に微温的にきこえる。終楽章再現部ではフォルテでトランペットが派手に音をはずしておりスタジオ録音なのに杜撰だ。コーダも安全運転でオケがちっとも熱くない。世評の非常に高い全集だがどれも僕にはピンとこない。(総合点: 2)

 

湯浅卓夫 / 大阪センチュリー交響楽団(3 Nov 2005、ライブ)

793第1楽章の弦がやや薄いのはVPOの後に聴いてしまうと分が悪いが管はとても良いピッチで鳴っており聴き劣りがしないのはライブという条件を考えると大変立派だ。ホルンが好演でブラームスらしい彩りを添える。第2楽章もホルンと木管とのアンサンブルは秀逸、第3楽章Allegretto、Prestoのテンポも快適である。終楽章は腰が重い快速でティンパニのアクセントを効かし第2主題の歌わせ方も満足、コーダのトロンボーンもまったく危なげなしだ。素晴らしい。湯浅の解釈は彫の深さを感じ、良いブラームスを聴いたという手ごたえが残る。(総合点 : 4)

 

アルトゥーロ・トスカニーニ / フィルハーモニア管弦楽団 (29 Sep 1952、ライブ)

710inwxsbvL__SL1059_このロンドンライブも世界中で伝説の名演と語り尽くされたものだ。しかし僕の結論はトスカニーニもフルトヴェングラーと同じぐらい2番には向いていなかったということだ。第1楽章に漲る緊張感は先を期待させるが第2楽章が速すぎる。Adagio non troppo でこれはないだろう。第3楽章中間部はPrestoだからこれでいいがどうも全体にせかせかした印象を受ける。終楽章は大変なエネルギーを噴射しつつ突っ走る。会場は熱狂しているし、これが好きだった時期もあるがずいぶんと昔のことという気がする。(総合点 : 2)

 

ブルーノ・ワルター / コロンビア交響楽団

819lqKBwIDL__SL1500_僕のCDは89年にロンドンで買ったJohn McClure盤(右)でこれは音がいい。第1楽章の第1主題が展開してゆくのびやかなフレージング、第2主題の素晴らしい呼吸。本物のブラームスを聴いている実感がある。最後の和音の素晴らしいブレンドなどプロ中のプロと感じ入る。第2楽章のチェロの歌の見事さ!深いロマンの森に分け入っていく心地よさ。第3楽章のAllegretto はまさにgrazioso だ。終楽章のテンポはこれだろう、これならあまり急ブレーキを踏まずに第2主題に移行できる。すべての楽器がバランス良く鳴って血が通っており、ワルターの意志で強力にコントロールされているが自然に聞こえるという大変に高度な指揮がなされている。ファーストチョイスに選びたい名解釈、名演奏である。(総合点 : 5)

 

ウイリアム・スタインバーグ / ピッツバーグ交響楽団

steinbergスタインバーグ(1899-1978)はクララ・シューマンのピアノの孫弟子で、ケルンでクレンペラーが助手に選びNYではトスカニーニがNBC響の稽古をさせた人物である。このブログに書いたマーラー「巨人」がこのスタインバーグの指揮だった(米国放浪記(7))が、亡くなる9か月前だったことになる。オーマンディーと同い年で19世紀生まれの人というのが感無量。右のCDは88年ごろロンドンで購入。冒頭は木管のピッチがいま一つ。弦も固いがこれは残念ながら録音のせいだ。第1楽章はこれぞ2番というまことに良いテンポである。トスカニーニばりに筋肉質で第3楽章のアンサンブルは緊密だ。終楽章は速めで無用のアッチェレランドなど一切の虚飾を排したストレートな解釈。ちなみにこのCDに入っている4番はさらに素晴らしい名演である。玄人向きだが一聴をお薦めしたい。(総合点 : 3.5)

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(補遺、16年2月12日)

まったく同じ音源による全集が右のMemoriesで出ており、これのほうが音が良い。LPはもともとCommandレーベルでのイシューだったが、61-62年のピッツバーグ(ソルジャーズ・アンド・セイラーズ・ホール)での録音は当時の最先端技術である35mm磁気テープで行われ演奏のクラリティを忠実にとらえている(はず)。このブラームス2番とラフマニノフ交響曲第2番がCommandへのデビュー(May 1/2, 1961に両曲を録音している) でありブラームス2番は1962年のグラミー賞クラシック部門にノミネートされている。4番が大変な名演であり、これを所有する価値は大いにある。

 

スタニスラフ・スクロヴァチェフスキー / ハレ管弦楽団

bra2フィラデルフィアでブルックナー8番に感動し楽屋へ行って会話までしたMr.S(この指揮者の略称)のブラームス。87年頃にロンドンでワクワクして買った思い出のCDだ(右)。第1楽章は遅めだが意味深く実に素晴らしい。音楽のひだに添ったダイナミクスの振幅が大きく、弱音はデリケートでフォルテのティンパニの打ち込みは心に響く。第2楽章のチェロもいいなあ、これぞブラームスだ。第3楽章、音程がいい、彼の指揮を聴くといつも作曲家の耳を感じる。ミネソタO.を振ったVoxのラヴェルやストラヴィンスキーのピッチの良さときたらブーレーズより上なほどであり、ここのハレO.も同様なのがお分かりいただけるだろうか。最後のトロンボーンが下手なので0.5点減点するがファーストチョイスでもOKと思う。悲劇的序曲の濃い表現もぜひ聴いていただきたい。(総合点 : 5)

 

(補遺、3月29日)

アルトゥーロ・トスカニーニ / NBC交響楽団

R-1514545-1299855271.jpeg52年録音で日にち記載がないのでスタジオ録音と思われ、こちらが正規盤ということになっている(らしい、そういうことはよく知らない)。第1楽章第2主題のぶつ切れのフレージングが不似合に思う。f は気合が入るがブラームスの本質と無縁の頑張りと思う。コーダの重要な場面でホルンがよく入っておらずがさつな弦が勝った音も、録音スタッフがブラームスを心得ていない。第2楽章、速すぎでありヴァイオリンのヴィヴラートが過剰でうるさい。シューリヒトのVPO盤のように音程がおかしくないのは一抹の救いだが。終楽章アレグロはコン・スピリトを地で行くが、このオケは非常にうまいはずでありそれをトスカニーニが振っていてこれかというレベルに留まる。硬派の2番であり叙情的な部分では常に不満であるのだからアレグロでずば抜けないと感動はうすい。ハイティンクの稿に書いたがコーダは①の最後でタメを作ってサスペンディッド・コードに敬意を表する(疑似終止)が、それを補おうと②でスコアにない安っぽい加速をしない。こういう楽譜の読みがトスカニーニのトスカニーニたるゆえんなのである。しかし、総じた印象として彼が2番に向いているとは思わない。(総合点:1.5)

 

(補遺、11 June17)

シャルル・ミュンシュ / フランス国立管弦楽団 (16 Nov 1965 ライブ)

パリのシャンゼリゼ劇場でのステレオ録音。僕のは88年にロンドンで買った右のディスク・モンターニュ盤で音はいい。第1楽章は管がフランスの音色とヴィヴラートで音程が良くないが、ティンパニを強打した骨太の表現にミュンシュの声もきこえ弦のレガートの色も濃いなど尋常の気合いではなく、だんだん引き込まれる。第2楽章はテンポが動くが自然の脈動と感じる。第3楽章は速めだが表情は深い。終楽章。アレグロで棒があおっているのでアンサンブルが雑になるがミュンシュの指揮というのはそれが持ち味である。再現部の第2主題はいいテンポで入り、そこからコーダまで一気呵成の一筆書きだ。もちろんアッチェレランドがかかるが、この一流の芸に異を唱える気にはならない。終結は大時代的な急ブレーキがかかり最後の音が長く長く伸び、こらえきれず聴衆の拍手がかぶる。こんな演奏はもう体験できないだろう。歴史ドラマだ。(総合点:4)

 

(補遺、21 July 17)

ジェームズ・レヴァイン / シカゴ交響楽団

まだレヴェイン30台前半の演奏で、そんな小僧がブラームス?と、この全集は日本の評論家に無視されたと記憶する。しかし、彼らと違いCSOのプロたちは小僧の才能を鋭く見抜いている。このオケが真面目にやればどうなるかは若かりし小澤の春の祭典やトーゥランガリラでわかる。指揮者は何歳であれ、音楽評論家ではなくオケをその気にさせるかが勝負だ。第2,3楽章のデリケートなニュアンスも老成の感すらあり録音もそれにうまくフォーカスする録り方で大変好感が持てる。数年後にCSOはショルティと全集を録るがそれはあくまでショルティのブラームスであり、このレヴァイン盤は(微妙にアンサンブルの齟齬があり、あまり入念に練習した感はないものの)その見事な生命力と柔軟性で独自の美質を誇る。終楽章第2主題への減速など堂にいったもの、コーダは微塵も安物のアッチェレランドなどせず。本質追求型の大物の指揮だ。(総合点:4)

 

 

(つづきはこちらへ)

ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(3)

 

 

 

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