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ラヴェルと玉三郎

2015 OCT 25 14:14:52 pm by 東 賢太郎

tamasaburou坂東玉三郎の阿古屋(左)が3つ目に弾く楽器が胡弓です。三味線をチェロのようにたてて太めの弓で弾くというに近いですが、音域はヴァイオリンぐらいで中国の二胡とちがって三弦です。面白いのは、チェロは弦を変える時に右腕の角度を変えますが胡弓は楽器を回して角度を変えるのです。

チェロは僕がプロにちゃんとレッスンを受けた唯一の楽器ですが、左手で音を正しく取る以前に右手(弓)のほうが難物でなかなかちゃんとした音が出ません。それを思い出すと玉三郎はさすがで弓も音程も良く、チェロも弾けるんだろうなと想像させるものがありました。

彼のバイオを調べると、やはりやってるんですね、ヨーヨー・マとの共演を。新派、現代劇、映画、演出、クラシック、バレエとカバレッジが広く、「演技」というものを「感受」、「浸透」、「反応」の3つの過程が必要と解析する理論派であり、歌舞伎役者は数多のタレントのひとつなのかと思わせるスーパーマンですね。

関心をひいたのは1988年にはヨーヨー・マらの演奏によるラヴェルの「ピアノ三重奏曲」で創作 舞踊を上演したとあることです。アバドのピーターと狼のナレーションもしてますがこれはご愛嬌として、ラヴェルに彼がどんな踊りをつけたのか、これは大変に興味のある所です。

ラヴェルと女形、じつに合いますねえ。触れると壊れそうな、野卑と無縁の、究極まで洗練された、これは玉三郎の世界かもしれない。ラヴェルの本質は女性だ、と以前に書いたと思いますが、女を男性が演じているという風に言ってもいいですね。あんな女性は現実にはいないだろうというほどエッセンスを抽出したフェミニンな美。

ラヴェルは時に野卑を演じようとするが、あれはちっとも野卑ではなく、作られた形だけ。逆に女の男役を感じます。だからユニセックスかというとそうではなく、玉三郎さんのTV番組での素顔を拝見すると、女はあそこまでオタク的こだわりはないでしょうという域にあるのですが、やっぱり男性です。ラヴェルはそれに似ているかもしれない。

そのラヴェルの「ピアノ三重奏曲」イ短調、第1楽章です。これの全曲をやったのか一部なのか不明ですが、この素敵なたたずまいと玉三郎はあいますねえ。

 

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ちなみに上掲はリヒテル(pf)/カガン(vn)/グートマン(vc)による83年のライブですが同曲の最右翼の名演奏であります。3つの楽器のバランスが理想的で、カガンの美音が冴えまくり、埋もれがちなチェロもグートマンが見事に拮抗しています。そしてリヒテルのピアノのすばらしさには言葉もなし。このCDは何かが憑りついたようなイベントの記録という感触です。

 

(補遺、3月13日)

玉三郎、これも似合うかな。

ラヴェル ヴァイオリン・ソナタ

ピエール・ドゥーカン(vn)/ テレーズ・コシェ(pf)

doukan122フランスの洗練と品位のかたまりみたいなラヴェル。奇矯な和声もどこか伝統の風味に包まれ、ブルースを模した第2楽章までラヴェル化している。イギリス、ドイツに住んでいたころ、車でフランスに入るとマジックみたいにぱっと景色が明るく、畑が黄色っぽく肥沃な感じになる。パリの展示会で流れてたドビッシーのフルート、ヴィオラ、ハープのソナタ。悔しいけどかなわない。ニューヨークのインベストメントバンカーの鼻っ柱を折るのはパーティーでフランス語で話すことだと友人が言った。むべなるかなという演奏だ。でも同じほど深い文化の蓄積は日本にだってあるぜと誇りたくなる。

 

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