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シベリウス 「アンダンテ・フェスティーヴォ」とフリーメイソン

2015 DEC 6 2:02:23 am by 東 賢太郎

この作品番号のない小曲をご存知の方は多いでしょう。シベリウス・プログラムのアンコールピースとしてフィンランディアと共に定番のひとつですね。

1922年に自宅近郊の製材所(Säynätsalo sawmills)の25周年記念祝賀会のために祝祭カンタータを委嘱されましたがシベリウスは Andante festivo という数ページの弦楽四重奏を書きました。この時まだ56才の彼はその後35年も生きるのですが、以前から書いてきた交響曲第6,7番を完成し、タピオラを書いたほかは抑うつ状態とアルコール依存で作曲ができなくなったのです。

まずはその弦楽四重奏版です。

の曲の素材はポヒョラの娘、第3交響曲を書いていたころ構想していたオラトリオ(Marjatta)に由来するという説もあり、1929年に姪の結婚式で2つの弦楽四重奏団の合同で演奏されており、そこで編曲された可能性も指摘されています。30年ごろから彼は重要な作品を作っていませんが、ラジオで自作の演奏を熱心に聴いていました。しかし当時のスピーカーの音の限界を察しており、ラジオ用には異なる作曲法が必要と考えていたようです。

そこにニューヨーク万博(1939年4月開幕)のための祝賀作品の委嘱が来ました。それは世界にラジオで放送されるため、彼はAndante festivo をラジオ用に異なる作曲法で編曲しました。それが現在広く流布している弦楽オーケストラにティンパニを付加したバージョンなのです。最後だけ使われるティンパニに、当時の乏しい音しか出なかった「ラジオ用」という意図が感じられるように思います。これがその版です。

どなたも容易に気づかれることと思いますがこのト長調の冒頭の旋律はドヴォルザークの新世界第4楽章そのものです(長調にしたもの)。

andante

第2主題にはどこか郷愁を感じる長7度の和声(g-f#)が響きます(赤枠部分)。和声はレ・ファ#・ラ(ドミナント)に移行しますがバスはg(ソ)のまま(オスティナート)であるためです。

andante1

これは第2交響曲の冒頭、T-SD-Dと移行するDの部分の和声(A)とオスティナートバス(d)が衝突しておこる赤枠内のチェロパートのd-c#と同じものです。この長7度がどれほど自然の息吹と陰影を与えているかお分かりでしょうか。

andante2

第7交響曲終楽章の最後の感動的な和音はやはりドミナント(G)の和音にトニックのバス(c)が侵入してこの長7度を形成し、最後の最後に至ってソプラノ(h)がおごそかに半音上がってハ長調で曲を閉じます。シベリウスの作曲の奥義であり、Andante festivo が我々の心をゆさぶるにはわけがあるようです。

ただ、このスコアで僕が最も重要と思う部分はここです。2つ上の楽譜の青枠部分です。

andante3

これがモーツァルト「魔笛」の第2幕の僧侶たちの合唱「おお、イシスとオシリスの神よ」のコーダに出てくる特徴的な和声連結であることは魔笛を記憶されている方ならお気づきではないでしょうか。魔笛がフリーメイソンと関係があることは証明はできませんが可能性は高いと思われます。そしてシベリウスは確実にフリーメイソンであったのです。しかも入会日がわかっていて1922年8月18日、そして Andante festivo となった曲を注文されたのは同年のクリスマス前なのです。

しかもそれは25周年記念祝賀会のための「祝祭カンタータ」だった。モーツァルトが自作の作品目録に記した最後の作品がフリーメーソンのためのカンタータ「我らの喜びを高らかに告げよ」 (K.623)だったのにご注目ください。発注主のサイナトゥサロ製材所(Säynätsalo sawmills)がメイソンだったのではないかと想像したくなってしまいます。JS29という作品番号なしの作品に「The American Miller’s Song」(紛失)というのがあるのですが、ドヴォルザーク新世界を引用したのも気になります。

Jean_Sibelius_1939メイソンのメッセージが刻印された曲をニューヨーク万博に送ったとしたらシベリウスの意図は何だったのか?一篇のミステリーのようになってきました。この万博開催中の1939年9月1日にドイツがポーランドに侵攻、英仏がドイツに宣戦布告して第2次世界大戦が始まっているのもきな臭い。73才のシベリウス(写真)は39年のニューイヤーズ・イヴにこの曲を自ら指揮(フィンランド放送交響楽団)、1月1日に世界に向けてラジオ放送されました。それがこれであり、これはシベリウスが残した唯一の録音でもあります。

テンポはかなり遅めです。びっくりしたのはスコアによれば14小節目からクレッシェンドして f  となり meno で弱くなると22小節目でもう一度 f になるのですが、シベリウスはこの2度目のフォルテを完全に無視してピアノのまま入っています。

ティンパニのトレモロに乗ってサブドミナントの光明をたたえたアーメン終止で終わるこの曲のもたらしてくれる安息感は忘れがたいのですが、僕には魔笛やアヴェ・ヴェルム・コルプスがかぶさって聞こえてくるのです。フリーメイソンが出てくるといかがわしく思われる方もおられるでしょうから書いておきますが、シベリウスの書いた117曲の作品の最後から5番目である作品113は「フリーメイソンのための典礼音楽 」です。

 

(こちらへどうぞ)

モーツァルト「魔笛」断章(第2幕の秘密)

 

モーツァルト ピアノ協奏曲第25番ハ長調 K.503

 

 

 

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Categories:______シベリウス, ______モーツァルト, クラシック音楽

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