人生最高のストレート
2016 DEC 21 14:14:13 pm by 東 賢太郎
大学に入って1年目に神宮球場でバイトしたことがある。1975年のことだ。スタンドの入り口でお客さんを席まで案内する係で、ゲーム終了後にみんなでゴミ出しをして終わり。お手当は非常に安くプロ野球がタダで見られるというだけだったが、それが日本ハム対太平洋クラブの試合だった。
このカードは当時とりわけ人気がなく客はまばら。仕事はおおいに楽で、座れないとはいえゲームをじっくり見た。
9回表までたしか0-0で、そこまでの試合経過も日ハムの投手も忘れた。野球はたくさん見てるからそんなのはいちいち覚えていない。この試合を記憶しているのはひとえに9回裏のシーンがあまりに劇的だったからだ。
太平洋の先発・加藤初(はじめ)が8回までノーヒットノーランのまま9回にはいり、左打席に張本を迎えたのである(完全試合だったかもしれない)。
この試合の加藤の投球、僕はネット裏中段やや一塁側の角度で見ていたが、腰が沈み込んで重心は低いのに投げ下ろしの球離れが高く、どういうわけか外人のような角度を感じさせる。それが外角低めにのびてビシッと決まる痛快さは忘れられるものではない。あのストレートは人生で見た3本の指に入る。変化球は記憶にない。それほど見事なストレートでありハムの打者はほとんど外野に飛ばなかったように思う。
大記録の気配が高まっていた9回裏、それを、内角やや高かったと記憶するが、張本が振りぬいた。音は鈍くあんまりいい当たりではなかったがライトの頭を越した。
記憶はそれで途切れている。四球の走者かなにかがいてサヨナラだったような気がするが、僕の関心は加藤のボールしかない。少なくとも延長ではなかった。
打った張本もあっぱれだ。すごい名勝負を見せていただいた。奇遇というか、その翌年この二人はそろって読売巨人軍に移籍し、加藤はわがカープ相手にノーヒットノーランを達成するのである。そりゃ無理ない、あれは打てないさ。
僕の永遠のアイドルは外木場義郎だがそれに次ぐとなると安仁屋でも金城でもない、加藤初だ。投球スタイルが違うのだ。変化球投手はきらいだし大谷みたいに速きゃいいってもんでもぜんぜんない。女子供にはわからない、これは男の美学といわせていただこう。
加藤初さん、ご冥福をお祈りします。
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中島 龍之
12/22/2016 | 4:33 PM Permalink
太平洋クラブは、西鉄ライオンズの売却先でしたので、加藤初はライオンズの選手のイメージが強いのですが、巨人でも活躍してましたね。表情を変えず投げる姿が印象的でした。東さんは、いい場面に遭遇してますね。張本が相手とは面白い勝負だったでしょう。加藤初氏のご冥福を祈ります。
東 賢太郎
12/22/2016 | 5:24 PM Permalink
あだ名は鉄仮面でしたね。顔に出ない投手って打席で嫌でしたね。上の写真、これだけ前に出てきて右肩が左足より左まで回ってて(!)体重が左ひざに乗りきって、それでいて右足と左足と体重の移動軸がボールの方向とベクトルが完璧に一致していて、それでいて顔がぶれてなくて打者を見ていて、ただただ凄い、芸術品です。もうこれ見ただけでタマが来ている雰囲気で打てそうもない。美しいです。