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バルトーク 弦楽四重奏曲第4番 Sz.91

2016 DEC 30 18:18:52 pm by 東 賢太郎

この時期になると第九よりも聴きたくなる思い出の音楽がある。

浪人生だった頃のこと、数学を満点取らないと文Ⅰはあぶないという強迫観念があって、最も恐れていたのが正月から2月の入試直前の調整失敗だった。4問完答(満点)なら合格確実、2問だと文Ⅱ、文Ⅲは楽勝、文Ⅰは微妙というのが模試のデータである。2問完答はほぼ100%、3問は70%の自信があった。

それだけ文系他教科はダメだったわけで色弱でなければ理系にいってそれなりに幸せだったかもしれないが、息子を見てると文系で良かったと納得したりもする。いまでしょ先生の林修さんをTVで見ていて、彼も数学で文Ⅰのくちらしいが、こういう僕より頭のいい人に現国を教わっておけばもっと楽だった。

選択肢は現役の時から目の前に3つあった。①文Ⅱか文Ⅲに下げる②1問捨てて3問完答をねらう③満点を狙う、である。何を勘違いしていたのか①がどう考えてもリーゾナブルな戦略だった。実力はその辺だし一応同じ大学には入れるのだし、そこまでして法曹にもなっていない自分が本当にアホに思える。

しかし崖っぷちで性格が出て①は一顧だにしなかった。とすると②か③だ。同じに見えるが全然ちがう。100分の試験時間で4問だと各25分、3問だと33分で8分差がある。3問完答の能力がある人がさらに解く速度を1.32倍にするというのは理系でも上位の方になるレベルと思われ、ハードルは高い。

しかしその0.32の分を英国社のかさ上げで稼ぐ自信はなく、数学の時短の方が確実という判断をして③を選択したわけだ。といって、野球の球速と同じでそのレベルまでいくともう練習して速くなるというものでもない。当日の調子が大きいのである。だから正月から2月の入試直前の調整に入念の神経を使ったのだ。

そこで何をしたか。年末からバルトークを毎日がんがん鳴らしていたのである。もう勉強は他人より余計にしてる。それで負けることは絶対にない。本番で錆びつかないようにアイドリングして頭に油をさしておこうということだった。その効能がいちばんあったのがカルテットの6曲であり、とりわけ4番である。

それが何故かをスコアから分析するのは困難だが一応の手がかりはある。

機能和声的ではないが正確なピッチで鳴ると4パートの縦線に不思議な和声感が得られ、動機はリズムと音程に明確な性格が与えられその有機的生成の過程が形式美という横線の美点を添える。言葉にするとややこしいが、要は、楽曲のミクロの構成パーツが縦横から眺めて「美しい」のがズバリと耳に来る。

楽章構造的にはアーチ型シンメトリーで第1楽章と第5楽章、第2楽章と第4楽章が、真ん中の第3楽章が3分割されて両端が第1,5楽章に近親性を持つという造りになっているが、これはマクロ構造であってズバリとは来ない。先日のブログに載せたジャガー・ルクルトのロゴに似て、遠目に眺めていると書いてない部分が見えてきて正三角形をしているという風情だ。これがまた「美しい」のだ。

その両方が複合して4番の不可思議な美を構築している。

バルトークが封じ込めた美というものはパーツのそれではない。きれいなメロディーが出てきてうっとりということはかけらもないのである。数学の美を語るまでの資格は僕にはないが、少なくとも嫌いでなかったのは美しいと自分なりに思っていたからだ。それと同じものをバルトークにも感じるのであって、ジャガー・ルクルトの時計の造形にも感じてしまう。

それはガウスの1-100の足し算や、もっと本能の次元とおもわれる黄金分割比の長方形などにも感知するどこか「陶然とする魅惑」であって、ゲージュツなどという高尚なことではなく、どういう顔や体のプロポーションの女性が好きかということに余程近いのである。

それが入試直前の調整で「肩を軽くして球速を増す」ことになったというのはどなたもわからないと思うし僕もよくわからないが、本当だ。おまじないだっただけかもしれないがとにかく結果はほぼ③が達成だったからだ。

全然関係ないが、家族はみな猫好きだが「おまえたちは子猫がかわいい。猫好きのプロレベルにほど遠い」となる。子供なんかなんでもかわいいのだ、そんなのが猫好きでもなんでもない。猫チャンネルを作っても僕は子猫はいらない。きれいなメロディーはそれとおんなじで音楽美の要件でも何でもないのである。

素材の世俗的な美をダシにしないのは晩年にその万物の真理の道へと進みこんだベートーベンの直系の音楽であり、旋法、音程、リズムパターン、特殊奏法、構造を素材として組み立てられた有機的複合体である。この一切の無駄なく切り詰めた凝縮感が僕の数学の短文・難問好きのセンスにぴったりだったのだと思う。

以前に6曲まとめてのブログとしてディスクを紹介したので、今回そこには書かなかったものを。

 

ジュリアード弦楽四重奏団

51lgfjwclel-_sx355_3種類あるが最近僕は創設メンバーによる最もラディカルでストレートな1回目を好んでいる。鋭利な刃物の切れ味ながら熱い。高速で走り抜ける第2楽章の狂気の白熱は筆舌に尽くし難く、神秘的な第3楽章のチェロ、第4楽章のピッチカートの一音一音にも渾身の気がこもる。終楽章も後の録音の精緻さより荒々しさが原色で出ている。ハンガリーのカルテットには聞かない尖鋭なリズムとエッジがバルトーク演奏の様式を刷新した記念碑的演奏だ。

 

ハンガリー弦楽四重奏団

bartok_sq_hungary5番の欧州初演をしたカルテットである。音色に暖かみがあり、既述のファイン・アーツと並んで最も和声感が得られる演奏である。ジュリアードの先鋭さはないがローカルな味わいがいい。第2楽章の繊細で羽毛を思わせるな音色は美しくポルタメントも意味深く響く。第3楽章は神秘感よりも土臭さと自然の息吹があり、先日に西表島でヤマネコを探して真っ暗な田んぼを歩いた静寂をふと思い出した。必聴盤。

 

タートライ弦楽四重奏団

mi0001023123LP時代、共産圏だったハンガリーの団体が国営レーベルのフンがロトンに残した古典的録音である。民謡を演奏するように自然でリズムもフレージングも手の内に入っている感じがするが、終楽章の野性的なメリハリは技術的にはやや甘いもののいい。いきなり尖鋭なジュリアードで入るよりもこういう音楽的で温和な表現の方を好む人はいると思う。

ヴェーグ弦楽四重奏団

v4870僕の好みは新盤(72年)。柔らかく馥郁とした感触の4本の弦が絡み合う様相は魅力的だ。バルトークから指導を受けたシャンドール・ヴェーグによるハンガリーの団体だが表現はこれぞ本家だの自信に満ちている。第1楽章で弦チェレに通じる部分が浮き彫りになるなどバルトークのエッセンスを嚙分けた練達のアンサンブルで、余計な力みがかけらもないのがかえって凄みがある。

ロックになっているがなかなか面白い。

(こちらへどうぞ)

大学受験失敗記

バルトーク 弦楽四重奏曲集

 

 

 

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