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シューマン交響曲第3番の聴き比べ(3)

2017 JAN 17 12:12:58 pm by 東 賢太郎

エリアフ・インバル / フランクフルト放送交響楽団

042この録音が実演で聴くこのオケの音に近いのですが、アンサンブルの力は高いですがドイツにしては幾分軽く深みがありません。インバルは耳がよくピッチと楽器のバランスはいい、ただテンポは作為的で第1楽章第2主題後の減速はクレンペラーのような至芸は感じず人工的です。コーダはややテンポが動いて盤石感も興奮もなく中途半端。終楽章のテンポはいいですね、これは理想的だ。そのまま行けばいいのにコーダは加速、それがインバルの感性ということですね。採れません。

 

リッカルド・ムーティー / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

707えらく元気がいい出だし。この変ホ長調の音楽はVPOの美質と得意技がほとんど効かないということがわかる意味で面白い演奏です。ドレスデン、ライプツィヒのドイツ的重厚感のほうがずっとフィットするのですね。第1楽章はムーティの悪い面が出てうるさいだけに終始しますが、加速はなしであり、彼はいけいけのイメージがあるがそういう安っぽいことには控えめなのがここにも出てます。第4楽章は教会の厳粛な空気が良し。終楽章のテンポはとてもいいですね、コーダの前のホルンは生きてます。コーダは既述の誉め言葉が許すぎりぎりの加速がありますが、まったくない方が感動的でした。

 

ギュンター・ヴァント / 北ドイツ放送交響楽団

200x200_P2_G2104724Wティンパニを強打してどっしりと速めの出だし。アンサンブルは緊張感のなかで大変に緊密で筋肉質です。しかしほかの3つの交響曲はそれが生きますが、3番は引き締めがきついとポエジーがなくなる難しさがありますね。以前は骨っぽさが良いと思った演奏ですが、こっちも年をとったのかいまはドラムと金管のリズムの強調が軍楽のようにきこえます。ほぼインテンポで一貫する第1楽章、終楽章の頑固な潔癖さは好みですが、似た路線ではセルの方が芸格が上ですね。

 

クリストフ・エッシェンバッハ / 北ドイツ放送交響楽団

41X23A9NE2L上記と同じオケで音の質感はヴァントと似ますが指揮の性格と録音の違いからこちらのほうがしなやかな柔軟性、流動性を感じます。アンサンブルも横の線に目配りがあり残響のブレンドが美しいのはこちらの強力な美点です。テンポは微妙に曲想に合わせてゆらぎますが不自然でなく、エッシェンバッハの指揮はドイツで何度か接しましたがピアニストの余技の域ではありません。終楽章の快活はほんの少し速いし軽い。コーダのテンポは手が込んでますが効果は薄いですね。

 

ダニエル・ガッティ / マーラー室内管弦楽団(2014年6月9日)

素晴らしい演奏です。ドレスデン音楽祭のクラウディオ・アバド追悼演奏会。オケの自発性が見事で、木質の響きは上質でまことにシューマンにふさわしく、リズムは心地よくふっくらとはずみ、弦の中声部が厚みをもって鳴り切り、トゥッティも音楽に感じきった強弱が実に美しい。音楽心と詩情に満ち、大きな室内楽のようなアンサンブル。もう良いことづくめです。第1楽章はガッティを祝福したい名演で、このテンポは全面的に支持します。第2主題への移行がうまく、ホルンの音色美は抜群で要所のトランペットも品格をもって存在感を見せ、コーダは微動だにせぬ不動の威厳、これでなきゃ。第2楽章はスケルツォに聞こえるテンポですが木管がうまい。第3楽章は耽美的で花園のようなマーラー的世界。音色のブレンドと変化がデリケートで、ガッティが縦線にこだわらず個々の奏者の感性から詩情を引き出してます。この楽章を極点として、全曲をシンメトリーととらえるアプローチでしょう。第4楽章、ホルンとトロンボーンの横の線を出しつつ管弦のレガートの絶妙のブレンドで暗めのオルガン的な音色を出し、終結の2度の不協和音への深い呼吸からの持っていき方も痺れます。オケのピッチがいいからこそできることですね。終楽章のテンポもagreeです。出だしの弦は羽毛のように軽く、フルートを浮き立たせて、いいですねえ。コーダは、僕は「もっとインテンポ」を望みますが、決して浮ついたアッチェレランドはなく、これもぎりぎり有りでしょう。最後の和音が鳴って、皆さん、舞台の顔、客席の顔をご覧ください。団員は抱きあってます。この交響曲にどれだけ人を幸せにするパワーがあるか!こんなものがそんじょそこらにあるでしょうか?人類史に残るかけがえのない名曲、ただただロベルト・シューマンにこうべを垂れるのみです。

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シューマン交響曲第3番の聴き比べ(4)

 

 

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