Sonar Members Club No.1

日: 2017年1月30日

シューマン交響曲第3番の聴き比べ(5)

2017 JAN 30 2:02:18 am by 東 賢太郎

たしか朝比奈の著書に、指揮者が振りたくない名曲として田園とラインがあがっていました。どちらもエンディングがそっけなく聞こえるからです。たしかに運命のくどいばかりのそれに比して田園はあっさりですし、シューマンの1,2,4番に比してラインは簡潔な終わりですね。

それは田園、ライン、どちらも自然を満喫する交響曲であるためです。楽しかった遠足です、解散!の前に先生の説教やら「良かっただろ」のだめ押しは不要なのです。

これはライン第5楽章のうきうきする主題です。

leben

fp からの弾むような第2主題はライン地方の民謡、「So leben wir, so leben wir alle Tage」です。それをおききください。

これを知ったうえで4年前の僕のブログ、

シューマン交響曲第3番変ホ長調作品97「ライン」(第5楽章)

を読み返していただければ、シューマンが第5楽章に抗いがたい愉悦感の下地をしっかりと織り込んでいることがお分かりいただけると思います。この曲は喜びのエネルギーを内に秘めているのです。それを開放すればシューマンの心の喜びは聴き手にまっすぐ伝わります。指揮者が余計なことをすればデリケートなそれは無残に壊れます。

僕がなぜコーダのアッチェレランドを蛇蝎のように嫌っているか、理屈ではないのですが、細部をリサーチすればこうして理由があることもわかってまいります。エンディングがそっけなく、キーが鳴りにくい変ホ長調でもある。指揮者は何かやりたくなるだろうし、マーラー版で壮麗に化粧をし、地味なエンディングは加速でブラボーを取る。しかし美人に化粧はいらないわけで、厚化粧を必要としているのは指揮者のほうである。別に実力不足は構わんのですが、そのだしに最愛の音楽であるラインを使うのだけはやめてくれよと嘆願するのみです。

フルトヴェングラーのように曲を大掴みに俯瞰して作曲家の意図の方向にデフォルメをかけるタイプは、シューマンに聴き手を誘導するメッセージがなく、自然への賛美と喜びを共有しましょうというだけなものだからすべきことがない。彼がラインを手掛けなかったのは大指揮者の証明でした。その彼を師と仰ぐバレンボイムは全集を作るためでしょう、振ってしまって下記のようになってしまった。必然ですね。今後もできるだけ聴いて、だめなのは本ブログにボロカスに書くことになるでしょう。

朝比奈の挙げた理由からでしょうかラインを演奏会で聴く機会はあまりありません。僕は3回しかなくてジンマン(チューリヒ・トーンハレ)、ヤルヴィ息子(N響)、マリナー(同)です。マリナーがあまりに素晴らしくて忘れられません。第1楽章は自分でシンセでMIDI録音して、原典版でしっかり鳴ることは自分の手で確認してます。これは結構出来が良くて満足で、やはりラインを愛する長女が気に入ってくれてます。

ハンス・フォンク / ケルン放送交響楽団

654やや弦が荒くテンポが速いが原典版スコアの地味な音色が好ましいです。マーラー版のスコアは持ってないので原典版を見ての限りですが、63小節の木管の対旋律のホルンの重複はなく、432小節の第1,2ヴァイオリンのd、e♭の短2度はそのまま。シューマンのスコアへの敬意を感じます。下手だから俺様が直してやるなどという不届き者が決まってアッチェレランドするコーダも盤石のテンポ。いいですね。

 

クリストフ・フォン・ドホナーニ / クリーブランド管弦楽団

200x200_P2_G1809805Wマーラー版でないのは評価。しかしドホナーニのオケの鳴らし方はブラームスやシューマンでも1,4番向きで各楽器群のソノリティがリッチで外交的あり、63小節はむしろホルン重複がないと物足りないという悲しいジレンマを感じます。オケをこうマーラー風に鳴らす後期ロマン派の視点からシューマンの管弦楽法が冴えないという流派が出たわけで、それは元から視点がおかしいというしかありません。第2楽章は明るくてお気楽。終楽章コーダは過剰な加速がないのはいいが陽気丸出しのトランペットが興ざめ。

 

ール・パレー / デトロイト交響楽団

71bDUCIk-rL._SL500_付点音符を弾ませ弦のボウイングによるアクセントを明確にしながら快適なテンポで豪快に始まる。ホルンの補強あり。コーダは加速まったくなく立派です。第2楽章もスタッカート気味の弦は結構だがアンサンブルがずれる。第3楽章冒頭は対旋律の音程があやしい。第4楽章はケルン大聖堂の暗さと湿度が不足。終楽章の出だしはオケの明るさが生きるがタッチが軽く陽気すぎてなじめない。とくに聴きたいとは思いません。

 

 

ダニエル・バレンボイム / シュターツカペレ・ベルリン

838強いパッションで開始。おそらくマーラー版に近い。このオケはウンター・デン・リンデンの歌劇場で聴くと古雅な良い音がします。ここでは弦の fが荒く無用な金管、ティンパニの強奏がうるさく美質が出ず。中間楽章もデリカシーを欠き、第4楽章の終結のティンパニ強打など論外でこの人なにを考えてんのと言うしかない。終楽章はテンポがぬるく愉悦感なし。ここでもおかど違いで音程の悪い金管、打楽器に閉口。コーダの加速とお祭り騒ぎは失笑しかなし。彼は日本人にブルックナーはわからんとのたまわったらしいが彼にラインがわかることもないだろう。

 

エドリアン・ボールト / ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

boult

ロンドンで89年に買ったCDでなつかしい。史上最速の第1楽章でしょう。いったい何がおきたんだと驚くうちに一陣の風のように過ぎ去ります。ところが第2-4楽章は普通のテンポで文句なし。ラインのエッセンスを掴んでいます。終楽章がまた速いが史上最高ほどではなく、この愉悦の気分は決して曲の精神から逸れてはおらず、納得します。両端楽章、この速度ではアッチェレランドのかけようはありません。かけられるよりは速すぎの方が僕はずっとましです。

(こちらへどうぞ)

シューマン交響曲第3番の聴き比べ(5)

 

 

シューマン交響曲第2番ハ長調 作品61

 

Yahoo、Googleからお入りの皆様

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊