米国のエネルギー黄金時代到来か?米国原油・天然ガス産出量ついに世界一
2013 NOV 4 2:02:14 am by 安岡 佳一
既に幾つかのメディアで取り上げられておりますが、どうやら米国の原油と天然ガスの産出高合計がこの夏にロシアを上回って世界一になったようです。ここ数年の増産ペースは異常とも言える位のスピードで、一体何が起きているのか少々調べてみましたのでご報告致します。
先ずは、直近の米国エネルギー庁の発表によりますと、この夏の米国の原油・天然ガス産出合計(天然ガスは原油1バーレルと同様の熱量計算をしバーレル数として計算)はどうやら世界一と言われているロシアを僅かに上回り、1982年以来の世界一奪還を果たしたようです。同庁の発表では、米国が日量2200万バーレル(内原油が1030万バーレル)、ロシアが2180万バーレル(内原油が1080万バーレル)だった様です。原油の産出ではロシアが米国を50万バーレル程上回っている様です。原油産出だけに限れば世界一はやはりサウジアラビアで1170万バーレルだそうで、2位はロシアの1080万バーレル、3位は米国で1030万バーレルです。
つい数年前までは、米国の原油産出高はせいぜい700万バーレル弱で、70年代にピークを付けた後着実に減少して行きました。一部の見識者の間では北米の原油産出も北海原油の様に枯渇して行くのではないかと危惧しておりました。一方では、ブラジルのリオデジャネイロ近海では次々と大規模油田が発見され、羨望と焦燥感を持った米国オイル関係者も多かったと思います。又、BPが引き起こしたメキシコ湾での油田のリグの爆発炎上、その後の止め処も無い原油流出問題は、米国原油発掘市場には未来は無いのではないかと思わせる位に充分憂鬱にさせました。
そんな中、救世主の様に登場したのがシェールオイル・シェールガスの発掘です。このシェールオイル・シェールガスの発掘メカニズムは既にあらゆる所で紹介・説明がされておりますのでこの場では詳しくは記しませんが、殆どのメディアが書いてない事をお伝えします。
これらのシェールオイル・シェールガスの発掘方法は主にフラッキング法と言う手法が使われており、この手法を開発したのはエクソンでもシェブロンでも無く田舎の小さなオイル掘削業者達の様です。前述の様に、米国内陸部での原油産出が頭打ちになってきたのをいち早く察知した大手オイル会社は、メキシコ湾の油田、外国油田に活路を見出そうとし、大規模な投資を始めました。一方、米国内陸部の掘削業者達は中小企業の為に大手と同じ様に海洋油田や海外に行く様な資金や人材も無く、地元に残るしか選択肢は無かった様です。そこで、地元の油田は本当に枯渇しているのか、改めて調査したところ頁岩と言われる多層岩の中にはどうやらオイルやガスが溜まっているらしい事が分かり、その取り出し方法の開発に全精力を傾注し、その結果フラッキング法の開発に至ったそうです。これが、たった数年前の話です。
今では、シェールオイル・ガスの発掘市場も第二ステージに入って来た様で、産出の効率化がメインテーマになって来ているようです。シェールオイル・シェールガスの発掘場所として有名なのは、ノースダコタ州のバッケン地区、テキサスのイーグルフォード地区、ペンシルベニア州を中心とするマルセラス地区、コロラド・ネブラスカ州界隈のナイオブララ地区が主要な鉱区です。これらの地区が主力となりここ数年で米国全体で日量300万バーレル産出増加を果たした様です。因みに日量300万バーレルと言うのは世界第五位のカナダの産出高に相当します。これらの主要なシェールオイル・ガスの油田地帯での発掘を実際に行うリグの数は2010年頃に約700基程度でしたが2012年の中頃には1200基程度に急増しました、しかし、現在は1,100程度に漸減し始めています。一方、一リグ当たりの産出量は、2010年当時2,200バーレルだったのが2013年現在では何と3,600バーレルまで急増しています。この様な一リグ当たりの産出量増加は、フラッキング法の使用方法が日々の「カイゼン」の効果である事と、生産効率の良い油井へのスイッチが機動的に行われているのも産出効率が上がっている理由の一つの様です。
又、この様な学習効果宜しく他の大規模油田地帯での発掘調査が始まりつつあり、大手石油会社が本格的に米国内陸部に回帰して来た事は大きなニュースで、今後の米国内陸部でのシェールオイル・ガスの産出量は粗間違い無く増加するだろうと考えられます。一部では、向こう数年の内に更に500万バーレルの増産も可能と言う見識者も現れています。それが実現するならば、米国の原油・天然ガスの産出量は2700万バーレルに膨れ上がり、ダントツの産出国になります。その時には外国からの原油・ガスの輸入は要らないどころか過剰になり、世界に輸出出来る程になる事も予想されます。
正に米国のエネルギー黄金時代到来の様相です。
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西室 建
11/4/2013 | 2:49 PM Permalink
安岡さん、初めまして。この夏から参加している西室と申します。
2012年の初め頃でしょうか、何やらアメリカが興奮したようなシェール・ガス・オイルへの期待・高揚感を感じました。
ところで、フラッキングは地層に物凄いプレッシャーがかかるので、周りの環境、特に地下水系などに悪影響がある、という意見があります。また、埋蔵量もそう大したことはないとも言われます。
主に官僚達が言うのですが、これ貧乏人の僻みですかね。
安岡 佳一
11/5/2013 | 3:06 PM Permalink
西室さん、初めまして。 ご挨拶が遅れまして済みません。 SMCのCEOご就任おめでとうございます。 寄稿数も少なく駄目会員ですが、これからも宜しくご指導お願いします。
さて、ご質問に関してですが、ご尤もなお尋ねです。シェールガス・オイルが埋蔵されている地域は米国の広い範囲に広がっており、特にペンシルバニア州から北東部に広がるマルセラス地区は人口密度が高いNY州、ニュージャージー州等にも跨っていて地域住民からすればご指摘の様に地下水の汚染、地盤沈下、土壌汚染、大気汚染等々の被害を蒙るのではないかと各地域で反対運動を繰り広げているのは事実です。シリアスな所は、住民投票に掛けて開発を阻止しようとする動きも一部ではあります。 丁度、明日は米国の選挙日(11月の第一火曜日)で、この様な開発反対条例の可否の投票を行う地域もあります。
しかし、全体的に見て反対運動の勢いはあまり大きくなく、賛成派に掻き消されている感があります。理由は、幾つかあると思うのですが、1.シェールガス・オイル開発の経済的な恩恵が大きい(直接的な掘削・開発ビジネスだけでなく、金融、建設、輸送、宿泊、娯楽、学校、飲食その他業種への波及効果はかなり広がっています)、2.決定的なネガティブなデータが出ていない。 3.掘削・開発業者もかなり気を使っている(住民が多い所での開発は避ける等)等が主な理由でしょうか。
技術的な話ですが、飲料水等に使われる帯水層は地下約120mから400m近辺です。一方、フラッキングをする開発対象層は1000メートルから4000メートルの深さの所になっています。 又、各地域の条例で細かい規制がされており、その基準をクリアした業者と掘削法でのみ許可されており、法を破って捕まったと言う業者は今の所出ておりません。規制の一つとして、かなりの情報開示が義務付けられています。 流石に薬品の成分に関しては具体的な名前は出しておりませんが、どの様な物を何%混ぜているか等は開示している所が多いようです。
シェールガス・オイルの埋蔵量に関しては、特にロシアを中心とした他の石油等の輸出国が懐疑的な見方をしています。当然、政治的にも商売的にも新たな商売敵を賞賛する様な事はしないでしょう。 又、環境保護派のマスコミや所謂インテリ層と言われる方々は常に開発には懐疑的で、埋蔵量に対しても悲観的な見方をします。
そうかと言って、開発業者の言う事を鵜呑みにするのも当然危険な話ですが、今の所言われているのが、シェールオイルに関してはノースダコタのバッケン地区が有望視されており、数年前の1億3000万バーレルの予想から現在では200億バーレルの声も聞こえております。これが本当なら、何とサウジの15分の1です。 ガスに関しては、上記のマルセラス地区だけでも米国内の需要の100年分以上あるだろうと言われています。因みに現在の条例等の規制をクリアすれば、マルセラス地区の80%は開発可能区域になるそうです。
まだまだ不透明な部分は沢山あるのですが、確実に開発ブームは加速しており、その間に法整備の改善、開発工法の改善、それに関わる技術革新、ソフトの改善、又、掘削から輸送に関わる周辺事業の向上等が一緒になって進んでおります。従って、ロシア、欧州、中国にシェール層があるから明日から開発しようと言っても、そこはかなりハードルが高く、乱開発しますと環境破壊と言うしっぺ返しが必ず来ると思われます。
以上、長くなりましたがご参考まで。
西室 建
11/5/2013 | 9:58 PM Permalink
安岡さん、丁寧なご説明有難うございます。
この話、大変面白いのでもう少し問題提起させてください。
2012年初のあの高揚感がどうもいただけないのです。私は2000年のITバブルの崩壊が想起されてなりません(個人的にも大変でした)。
確かに産出地の景気は良くなり、アメリカが自前のエネルギーを持つ経済的・政治的プレゼンスは上がるのでしょうが、GDPの拡大部分は(伸び代の意)そんなに大きくはないのでは。
エネルギー産出国の経済が一般モデル化できるほど(中東は政治情勢が違いすぎて不明です、例えば北海油田が持て囃された英国の例)成長に貢献したとは言えないのでは。
どうも僻み根性が抜けてませんね(笑)。失礼しました、是非今後ともご教示をお願いします。
安岡 佳一
11/7/2013 | 1:39 PM Permalink
西室さん、
鋭いご指摘ありがとうございます。
ご指摘の2000年に頂点に達したITバブルの狂乱振りと祭りの後のダメージは計り知れませんでしたね。 S&P500やダウ指数は新値を更新していますが、ハイテク銘柄が多いナスダック指数は2000年当時の5000ドルに未だ達していません。世の中程度はあれ、常にブーム&バースト(破裂)の繰り返しですね。
今回のシェールガス・オイルもそうではないかと疑念を持たれるのも無理は無いと思います。どれくらい先になるか分かりませんが、私も必ずバーストの時期が来ると思います。 しかし、多分近場では無い様な気がします。 それは、未だ西室さんの様に疑念を持っていらっしゃる方が沢山いらっしゃるからです。 フラッキング法に反対している勢力も多々あり、全員がもろ手を挙げて賛成して突き進んでいる状況では無いからで、未だブームの余地は充分あるように思われます。
仰る様にエネルギー産業自体のGDPに対する直接的な寄与度は約1%強の様で大した事はありません。しかし、エネルギーは粗全てと言って良い位に他の産業に直接・間接的に関連しております。建設、機械、輸送等の様に近い産業は勿論の事、フラッキング法に関する研究が各大学で行われていたり、安い天然ガスの用途の開発(天然ガスを使った効率が良くてクリーンなエンジンの開発や新世代天然ガスステーション網の開発等々)、大手化学業界では既にデュポン、ダウケミカル等が数千人規模を雇う様な大規模な工場を数十年振りに南部に建設する事を発表したりと、かなりの資本が動きそうです。そうなると、金融業界にも結構な波及効果が齎せるでしょう。金融のみならず、関連地域での宿泊施設、飲食業、娯楽等々への影響もかなりあるでしょう。この様な一つの経済的なうねりが起きれば、地域の税収も増加し政府支出も増えるでしょう。勿論、上記の様に各産業への波及効果が起きれば雇用は増加し個人の収入も増え、新たに需要が創出される事でしょう。
それから、この様な大きな変化の時には歴史的に見て一発当ててやろうとする輩が出てきます。彼らは山師の様に見えますが、その後経済に大きな影響を与える様な人物が通常出てきます。先のITブームではビルゲイツやスティーブジョブ等がその様な代表例で、彼らの経済的な貢献度は計り知れません。
アメリカ近代史を見ますと、1870年頃からロックフェラーがオイル産業を構築し、鉄道会社がその恩恵を受け(その後ロックフェラーにやられましたが)、カーネギー率いる製鉄業界がオイル産業と相互に栄え一方では戦い、そこにJPモルガンが投資銀行を持ち込み、エジソンが電気革命を起こした様に、アメリカでの産業革命に火を点けたのはオイル産業です。 今回の産業ルネッサンスを引き起こしたのはシェールガス・オイル革命だと歴史の教科書は書くのではないかと思ったりしています。 あまりに楽観的、ドラマチック過ぎますでしょうか。
西室 建
11/7/2013 | 9:43 PM Permalink
安岡さん、うーん説得力ありますねー。それではと日本でも掘ってみるか、との衝動に駆られますが、こちらでは1000~1500ほど掘ると大体どこでも温泉が出てしまうようです。それではどうにもなりませんですな。
nobu
4/2/2014 | 1:23 AM Permalink
こんにちは。試験勉強で環境・エネルギー関係のキーワードを検索していて、このブログにめぐり合いました。5か月前の事です。シェールガスの将来や環境に与える影響、課題などがわかりやすく書いてありましたので、とても参考になりました。ありがとうございました。
おかげさまで試験には無事合格し、仕事上、有用な資格を得ることができました。本日、資格証が手元に届きましたので、ぜひ、お礼を申し上げたくて、コメントさせていただきました。
本当にありがとうございました。
安岡 佳一
4/2/2014 | 12:30 PM Permalink
Nobu様、
私の拙いコメントが少しでもお役に立てたのであれば、これ以上の喜びはありません。
新たな資格を取得されたとの事ですが、真におめでとうございます。
今後も益々のご活躍をお祈り致します。
当ブログも訪問される方の数が増えて来て嬉しい限りです。
しかしながら、なかなか投稿する事が出来ずに忸怩たる思いです。
Nobuさんの様に嬉しいコメントを頂くと、頑張りたくなりますね。
You made my day!!
Thank you.
安岡
西室 建
4/2/2014 | 1:37 PM Permalink
Nobuさん、おめでとうございます。SMCのメンバーは多士済々です。お役に立てれば幸甚であります。
Nobu
4/3/2014 | 12:38 AM Permalink
安岡様、
お返事をいただき、ありがとうございます。こうした形で、言葉を交わすことができるのは不思議な気持ちで、感激しています。
差支えなければ、時々訪問させてください。
私の方こそ、
You made my day!
Thank you.
西室様、
ありがとうございます。
今回の件は、たいへん感謝をしております。
また、いろいろと勉強させて頂きたいと存じます。
どうぞよろしくお願いいたします。
ロッキー
4/24/2014 | 3:49 AM Permalink
アメリカがLNGで稼働するコンテナ船を作り、今後2020年ごろまでに外航船は燃料を重油からLNGにしなければアメリカに入港が出来なくなると聞きました。ジャパンプレミアムで足下を見られて造船業界も赤字で走る船舶に開発資金を容易に回せない苦しい未来が待ってます。主要なLNG産出国である中東に絶大な影響力を持ち、自身も世界一の産出国になるアメリカに対し日本はどのような外交カードを使い価格交渉をするとお考えでしょうか?ご教授を何卒宜しくお願いします。
西室 建
4/24/2014 | 9:49 AM Permalink
ロッキーさん、管理人の西室です。私も勉強不足なのですが、LNG燃料貨物船の導入は、NOx・SOxの抑制に有効な動力として、日本でも開発されていて、先般川崎重工業の設計が発表されていたと記憶します。LNGは燃料コストそのものは重油より安いのですが、貯蔵に難があり常温で保持できる重油タンクとは違い、材質も(恐らくアルミ、但し強度を保障するため鋼板よりも分厚い構造)形状も違うはずです。ここの問題を現在検討しているところですが、近い将来クリアできるのでは。
さて価格交渉の方ですが、この将来の相場観はさすがにお手上げです。日本としてはサプライ・ソースを広げて防衛するのですが、ズバリ交渉となると・・・。
ご参考までに。
ロッキー
4/24/2014 | 1:26 PM Permalink
西室様
ご返事有難うございます。非常に参考になりました。
日本のLNGを取り巻く環境は困難ですが、なんとか技術力で乗り越えれそうに感じます。
世界のガスの主流がLPGだった頃、LPGは船舶での運搬に高い技術を要する為、高い技術力を持つ川崎造船や日本の造船会社が高い造船シェアを確保していましたが、LPGからLNGへ世界が変化し、比較的建造技術がLPG船より容易なLNG船の技術が確立されると、殆どのLNG船建造シェアを中国、韓国に奪われた事を思い出します。
今後、船舶燃料が重油からLNGに変化するのであれば、日本の開発力で画期的な船舶を作って欲しいですね。
あと価格交渉については商社が本気になっているのか疑問に感じます。電力会社がいくら高くても購入してくれるので危機感が少ないのでしょうか。
今後とも宜しくお願いします。