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私が選ぶ「9人の指揮者によるベートーヴェン交響曲全集」(2)交響曲第2番ニ長調作品36

2013 JUL 10 5:05:38 am by

東さんが、この第2交響曲に対する強く、熱い、愛情に満ち溢れた投稿をされ、大いに刺激を受けました。たいへん有り難うございます。

私は、正直申し上げまして以前は、この第2交響曲、あまり好きではなく、何となく退屈に感じて、わかりやすく明快な第1番の方を好んでおりました。

しかし、この企画を着想し、改めて何種類かの第2番を聴き直した所、「何と素晴らしい名曲!」と素直に感動し、大袈裟な言い方かもしれませんが、歳を取って良かったと感じた次第です。(ある日本人指揮者が、ベートーヴェンを理解するためには、500歳まで生きる必要がある、とライブ演奏の場で発言したことを思い出し、なるほど、その通りと痛感しております。)

前回の第1番の投稿でも申し上げましたが、ベートーヴェンは、ピアノソナタにおいて、彼の才能を早いタイミングで開花させています。

この第2交響曲を発表する前に、32曲のピアノソナタの内、何と20曲を既に作曲し終え(内、作品番号49が付けられた19番、20盤は未発表)、残る12曲は、次のように3つに分類出来ます。

1:中期の油の乗り切った凝縮された作品である3曲(英雄交響曲、   運命交響曲、ラズモフスキー弦楽四重奏など、充実し切った中期に  ピアノソナタは、何とたったの3曲のみ!)

21番「ワルトシュタイン」、22番、23番「熱情」

2:晩年への移行期に位置付けられる4曲

24番、25番、26番「告別」、27番

3:高く偉大にそびえる峰々である晩年の5曲(最高傑作の晩年の後期  弦楽四重奏も5曲です。)

28番、29番「ハンマークラビーア」、30番、31番、32番

 

そして、勿論、あくまで私個人の、正に主観と思い込みに満ちた見解ではありますが、第1交響曲発表から、第2交響曲の発表の間に公表された第11番から18番のピアノソナタの中に、私個人は、その後の交響曲において結実した様々な成果につながる「要素」を観ることが出来ます。(強引なこじつけだ、という否定的なご意見も当然有り得ると思いますが・・・。)

投稿が長くなってしまい、また、交響曲でなく、ピアノ作品の話になってしまい、申し訳ございませんが、上記の観点で記述いたします。

ピアノソナタ第11番変ロ長調作品22

交響曲1番の作品番号が21で、ベートーヴェン自身が次の22を付けたことも注目です。ひと言で言えば、それまでの「古典的な形式での集大成と古典的な形式へのひとまずの決別」を意図したと考えられ、第3楽章が「メヌエット」、第4楽章が「ロンド」となっています。彼自身、相当力を入れて創った傑作で、もっと注目されても良い作品と思います。この変ロ長調という調性、次にピアノソナタで現れるのが、あの最大規模の第29番「ハンマークラビーア」です。そして、この作品に見られる密度の高い凝縮感が、第2交響曲で見事に結実していると、私個人は考えます。

ピアノソナタ第12番変イ長調作品26

この12番から、形式的に極めて自由となり、また作風も伸び伸びと開放的になっていきます。モーツアルトのK331の先例はありますが、第1楽章はソナタ形式でなく、変奏曲形式。第3楽章は「葬送行進曲」で、これが交響曲第3番「英雄」第2楽章の下敷きにもなったと、強引に、こじつけてみます。

ピアノソナタ第13番変ホ長調&第14番嬰ハ短調「月光」

彼自身が作品番号27−1、27−2と付けたように、この2曲は明らかに、1セットで捉えるべきでしょう。幻想風という言葉が添えられる、とてつもなく自由、かつ大胆極まりない作風です。第13番の4楽章で、前の楽章の回想シーンが登場する場面、第9交響曲第4楽章冒頭の予行演習と取れないことも無いと考えます。また両曲とも、全ての楽章が切れ目無く演奏されることも、第6番「田園交響曲」の3〜5楽章の先駆けとも言えます。

ピアノソナタ第15番ニ長調作品28「田園」

伸び伸びした作風で良い曲です。彼自身が名付けたわけではなく、楽譜の出版社が名付けたと言われていますが、「田園」という名称です。

ピアノソナタ第16番ト長調作品31−1

こんな変なことを言うのは私だけだと思いますが、この曲の第2楽章を聴くたびに、第8交響曲の3楽章の主部の主題を思い出してしまいます。

ピアノソナタ第17番ニ短調作品31−2「テンペスト」

この作品は、今回取り上げた8曲のピアノソナタの中でも最も重要な意味を持つと思われます。この曲の第3楽章のリズムは運命交響曲を思い起こさせますし、同じ第3楽章のメロディーは第7交響曲の4楽章に雰囲気的に良く似ていると思えて仕方ありません。そして、調性の「ニ短調」、彼のピアノソナタでは唯一で、あの第9交響曲につながって行くと思われます。

ピアノソナタ第18番変ホ長調作品31−3

この曲の持つ軽妙な雰囲気は、第4交響曲や第8交響曲につながっていくように感じますし、彼が愛し、自信を持って世に送り出す作品(ピアノソナタ第4番、13番、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、そして、何と言っても、交響曲第3番「英雄」)の調性である、変ホ長調です。

以上、長々と記述し、申し訳ございませんが、上記8つのピアノ曲を聴き込むほどに、今回の第2交響曲の素晴らしさ、3番英雄以降の交響曲の偉大さも良く理解出来るのでは考えます。(でも、私個人は富士山に例えれば、麓の入り口にも到達していないだろうなあ、と思います。)

 

◎私が選ぶ第2交響曲ベスト1

先の第1交響曲では、ど真ん中の高速ストレートの「トスカニーニ」を推薦しましたが、今度は、その逆、もの凄い変化球、むしろクセ玉なのに感動の深い演奏です。

メンゲルベルク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団演奏(1940年ライブ演奏)

正に19世紀の手垢にまみれた演奏ですが、敢えて思い切って挙げてみました。テンポの動きが激しく、恣意的な演奏が多く、そのため非難されることが、しばしばであるメンゲルベルクの指揮ですが、この第2番に限っては、どういう訳か、テンポの動きも自然に感じられ、大袈裟な強弱の付け方も、この曲の持つ魅力を炙り出すのに、一役も二役も寄与しているように思えてなりません。(その反対に、メンゲルベルク指揮の第6番「田園」は、ベートーヴェン原曲、メンゲルベルク編曲と表現しても良いほど恣意的かつ不自然な演奏で、よほど強烈な彼のファンでないと聴くに耐えないでしょう。)

第1楽章は、いつもの彼の指揮からは想像も出来ないほど、オーソドックスで雄大に聴こえて来ます。第2楽章は弦のポルタメント奏法が嫌みにならないギリギリのところで押さえられ、暖かみと愛情に溢れた演奏です。第3楽章、第4楽章も、凡庸な指揮による演奏ですと退屈しがちですが、さすがにメンゲルベルク、飽きさせずに一気に聴くことが出来ます。花崎分類の3(楽曲との相性云々と超えて、徹底的に突き抜けた結果、感動的な演奏)であると思います。

 

◎次点の演奏を2点挙げたく思います。

ワルター指揮 コロンビア交響楽団演奏(1959年録音)

19世紀の流れを汲むはずですが、手垢にまみれた感じはありません。

楽曲との相性抜群の分類・1の典型的な名演奏と思います。特に第2楽章のゆっくりしたテンポは、同じワルター指揮の未完成交響曲の第2楽章を思い起こさせますが、何と豊かな響きの味の濃い演奏でしょう。本当は、この盤をベスト1に挙げたい気持ちも大いにあるのですが、ワルター指揮を敢えてベスト1に挙げたい後の交響曲のために、今回も第1番に引き続き、温存した次第です。最も安心して聴くことが出来るのに、それでいて感動の度合いも深い素晴らしい演奏と思います。

 

クナッパーツブッシュ指揮 ブレーメン国立フィルハーモニー管弦楽団

相性分類の2(指揮者と楽曲の相性は悪いはずなのに、何故か感動してしまう演奏)であると思います。実は、この演奏を約1年前に初めて耳にして、第2交響曲って何て素晴らしい曲なのだろうと、正に、目からウロコ、曲の良さを認識するキッカケとなった演奏です。

いつもの怪物ぶりを彷彿とさせる「クナ節」全開ですが、それが却って楽曲の良さを浮き立たせています。第1楽章、序奏からして、「重要な部分は、ここだよ」と言わんばかりに、重要な箇所で熱く強く、オケに歌わせています。第2楽章、大味なケースも多いクナにしては、繊細なピアニッシモも充分に効いていて、派手さはないが、曲に対する愛情が存分に伝わって来ます。第3楽章のトリオに入る前の大きな「間」(ま)、第4楽章の第2主題でメンゲルベルクと同様、楽譜にあるピアノの指定を無視してフォルテで朗々と歌わせる部分、そして同じく第4楽章コーダでの猛烈な急加速と大音量での「大暴れ」の部分など、まさに「やりたい放題」ですが、こちらの演奏も、通常ですと、よほど聴く耳を持った人でないと退屈しがちな、この2つの楽章を大いに楽しませてくれるという訳です。

たいへん長くなり、誠に失礼いたしました。 花崎 洋

 

 

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