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私が選ぶ「9人の指揮者によるベートーヴェン交響曲全集」(3)交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」

2013 JUL 16 7:07:04 am by

東さんが、この作品に対する並々ならぬ愛情と、詳細なる考察結果について投稿され、私も大いに感銘を受けました。

しかし私個人は、正直申し上げましと、彼の9曲のシンフォニーの中で、ある意味で、この曲が最も苦手であります。その理由は、曲の規模が雄大な点ではなく、この曲の持つ「極限的な凝縮感」にあるように、現時点では思います。凄い偉大な曲であり畏敬の念は持ちますが、私個人としては、完全には楽しめず、あまりの密度の濃さに息が詰まってしまうことも、しばしばなのです。

恥を承知で申し上げますと、私は、クラシック音楽を、恐らく、ほとんど感覚のみで聴いており、ベートーヴェンの音楽の最大の長所であろう「構成の美」を、それほど理解出来ていないのだろうと推測しております。だとしたら、誠にもったいない話です。

 

◎曲に対する若干のコメント

今回もピアノソナタとの関連で、アプローチを試みた所、また新しい発見がありました。

第2交響曲の発表後、彼は2つのピアノソナタを公表しています。(ピアノを学ぶ初心者向けの小品(いずれも短い2楽章のソナチネ形式)として売り出した作品49の19番、20番は、第1交響曲以前に作曲されているため、ここでは触れません。)

ピアノソナタ第21番ハ長調作品53「ワルトシュタイン」

ピアノソナタ第22番ヘ長調作品54

そして今回の英雄交響曲が作品55で上記作品に続くわけです。

この2曲のピアノソナタ、その凝縮感は、半端ではありません。

特に21番「ワルトシュタイン」は、当時、機能的に発展途上にあった「楽器としてのピアノの可能性」を極限まで引き出そうとの意図もあったのかもしれません。まことに迫力満点で圧倒されます。

しかし、私個人としては、第22番のソナタ(この曲は、21番と23番熱情の間に挟まれて、最も光の当たらない陰の存在となっていますが)もワルトシュタインと同等、もしくは、それ以上に重要な意味を(つまり実験的試行錯誤の場として)持っているように感じてなりません。

長くなりますので、一点だけに絞りますと、この22番が、彼の本格的なピアノソナタとしては、初めて、「2楽章形式」を取っていることが挙げられます。この曲以降、24番、27番と2楽章形式のピアノソナタを作曲して更に磨きをかけ、ついに最後の大傑作32番にて完結していくわけです。つまり、4楽章分、もしくは3楽章分の中身を2楽章に凝縮出来ないかという模索の第一歩が、この第22番のピアノソナタという訳です。

この22番に観られる「高密度な凝縮感」こそ、第3交響曲英雄の本質の一つであろうと考えます。

この22番のピアノソナタ、プロの音楽評論家の評価も一部を除いては、それほど高くなく、また一般聴衆にも人気がないのですが、もっともっと注目されて良い作品と思います。

 

◎私が推薦する第3番変ホ長調「英雄」のベスト1

ワルター指揮 シンフォニー オヴ ジ エア 演奏(1957年2月ライブ演奏)

この演奏は1957年1月に逝去した偉大なる指揮者、トスカニーニの追悼演奏会という、正に歴史的な貴重な記録です。

ご存知の方も多いとは思いますが、上記楽団は、トスカニーニのために結成されたと言われるNBC交響楽団のメンバーが、トスカニーニ引退に伴い、スポンサーのRCAから全員解雇されてしまい、有志によって1963年まで自主運営された団体で、指揮者無しでも一糸乱れぬ統制の取れた引き締まった演奏で聴衆を感動させていました。

つまり、トスカニーニの指揮棒の元で長年演奏して来た奏者を、トスカニーニの無二の親友であったワルターが指揮をする、という事実だけでも凄いのに、実際の演奏は、予想を超えて、それはそれは感動的なものです。

演奏会の翌日に、新聞での批評欄に「ワルターは、トスカニーニとそっくりなスタイルで演奏した。」と掲載されたそうですが、私個人は、単に形を真似たのではなく、ワルター自身が音楽を完全に自分の物として消化し尽くした上で、結果として、トスカニーニ的な直裁的な迫力をも、併せて持っている、と表現するのが最も適切であると思います。

私も、ワルターと第3交響曲「英雄」との相性は抜群と思います。東さんが番外編で推薦されてましたが、コロンビア交響楽団との演奏も伸びやかで素晴らしいものでした。

元々存在していた指揮者と楽曲の相性の良さ(+ワルターのこの曲への愛情と粘り強いアプローチ)、亡き親友トスカニーニのためにという演奏に対する熱い意欲、そしてトスカニーニの元で長年苦楽を共にした団員達の強い思い、という3つの要因が融合して実現した、正に奇跡の演奏と言っても過言ではないでしょう。

そう言えば、ワルターは指揮者として、いわゆる専制君主のタイプではなく、楽員達の自主性も尊重し、楽員達の長所を引き出す名人であったとの話を思い出しました。この演奏は正に、トスカニーニによって長年鍛えられた楽員達の長所が遺憾なく引き出されたものと思います。

冒頭に、この交響曲は苦手と書いてしまいましたが、そんな苦手意識も吹き飛ぶような感動的な演奏です。ワルターには、ここで登場してもらいたく、1番、2番では共に次点とした次第です。

 

◎次点の演奏として

トスカニーニ指揮 NBC交響楽団演奏(1953年録音)

私が中学生の時に、初めて聴いたトスカニーニの演奏であり、今でも、その鮮烈な感動を覚えているほど、印象に残る演奏です。

テンポ設定の的確さ(特に第1楽章は、これくらい速いテンポでないと曲の持つ良さが出ない)、直裁的な迫力がありながら、中身の濃さも十二分に感じさせる点など、どの要素をとっても、これほど完璧で不満の出ない演奏はないであろうと思います。

一時期、世評も高いフルトヴェングラーの演奏(1952年12月録音のウィーンフィル盤)に熱中した時期もありましたが、特に50歳を過ぎた辺りから、あの遅いテンポが、じれったく、また、この曲の持つ「凝縮感」が上手く表現出来ていないような気がして(勿論、ウィーンフィルの音色等、魅力があり、味のある演奏なのですが、中身が薄いようにも感じてしまうのです。)、あまり好きでなくなってしまいました。プロの音楽評論家で、このフルトヴェングラー盤が「イチ押し」の人もいますし、ファンからは強烈な反対意見が出るとは思いますが。

今回も、第1番に引き続き、肝胆相照らす親友同士であった、ワルターとトスカニーニの名盤を推薦させていただきました。 花崎洋

 

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