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「あの日」 異変が生じた Ⅱ

2016 FEB 1 0:00:49 am by 西 牟呂雄

 頭を掻きむしっていてあることに気が付いた。抜けていくのが白髪ばかりなのだ。僕はまだ半分以上黒いが不思議な事に落ちるのは白い毛だけ。痒いのは朝晩シャンプーしても止まらない。一方で体の蕁麻疹はキレイになくなってしまった。
 頭を10日ほどガリガリやっている内に指先に違和感がある。チクチクと毛が生えているではないか。そうか、抜け替わっているのか、これも新陳代謝なんだろうか。
 おまけに心なしか老眼用の眼鏡が合わなくなったと思ったら、とうとう裸眼で近くも遠くも見えるようになった。気のせいか肌のツヤも良くなったような。何が起きているのだ、さすがに気味が悪くなってきた。
 前回のように健康診断を受け、例によって診療室のパソコンに向かって訴えた。
「何だか体に異変が起きているようです。大丈夫でしょうか心配になりました。」
 すると又同じようにドクター・ルームに行くように指示され、入ると今度は初めからオビナタ先生が座っている。
 データに目を通していた。
「アッ西室さん。お待ちしていました。どうですか。」
 と柔らかく聞く。
「それがですね、変なんですよ。えー、今度は頭です。頭が痒くて、それに目が良くなったように感じるのですが。視力が戻るなんてあるんですか。」
「アラッ、すごーい。ステップ現象の効果が出てますよ。」
「それっていいことなんですか?」
「そりゃ~そうですよ!女性なんかみーんなそう在りたいって思ってますよ。若返りですぅ、そう思いません?」
「いや、まっそうスね。それで体の方は少し収まったんですが。」
 オビナタ先生は覗き込むように僕の頭を見て言った。
「西室さん。白髪が減ってると感じませんか。」
「えっ!どうしてわかるんですか。白髪ばかりが抜けます。」
「ステップ現象は代謝促進だけではありません。細胞が分裂を繰り返して活力を生み出していくんです。おそらく白髪が抜けて黒い髪が生えてきてるんじゃないでしょうか。」
「・・・・。それはあの万能細胞みたいなモノですか。」
「あっちょっと違いますけど。内服効果はこちらの方が効くと思ってます。手術の必要もありませんからね。ほほほほ。」
「・・・・、もしかして新しい発明なんじゃないですか。ノーベル賞クラスとか。」
「私達はそう思っています。」
「えっ!!凄いことじゃないですか。特許とか取られたんですか。」
「ええ、まぁ。ただプレスには出さない方針ですから。あくまで効き目を信じて下さる方に役に立てれば、という考え方です。」
「へえ、そんなものですか。」
「ハイ。そういうものです。」
「あのー、私ブログやってるんですけど、このこと書いてもいいですか。」
「えーと、それはムサシ先生に確認しましょう。」
 この日はそれで帰った。

 しかし帰って鏡を見ると確かに若返っているかもしれない。ガサガサの顔までがツヤが出ている。
 しかしこのまま若返ってしまったとしたら、それは本当にいいものなのだろうか。体が若返るにつれ、まさかと思うが脳までいたらなくなってしまったら困るのではないか。昔のようなバカなことを又繰り返さないとも限らない。それはとんでもないことではないか。
 そういえば仲間達からの連絡がパッタリ来なくなった。
 
 みんなで一緒に年をとって、ヤレ具合が悪いだの最近物忘れがひどい、といった話題から取り残されて一人浮いてしまうのも何だかこわい。やぱりみんなと同じがいいよ。最後になって、仲間もいないのに一人若返り長生きなんて、いやだ。
 外見が若返ってもやることも違うのだから、若い人の話題にはついていけないだろう。本当の若い人が仲間になんか入れてくれっこない。
 集合写真も明らかに僕だけ変だ。
 このまま薬を処方され続けて・・・・まさか人間モルモットじゃないだろうな。

 又、身体検査の日がやってきた。しかし気が進まない。進まないが行かざるを得ない。
 いつものようにカプセルに入り、検査を済ませてちょっとトイレに行った。出ようとした時に人の話し声が聞こえてきて、なぜかドアを開けるのを躊躇した。何かが知らせたとしか思えない。男女の会話だ。
「あのニシムロさんっていう被験者、自分でブログ書いててこの体験を載せていいか聞くんですよ。」
「大丈夫だ。事前に調査してあるよ。アノ人のブログの読者は誰も書いてあることが本当のことだと思ってないそうだ。」
「そうなんですか。普段から嘘ばかりついているんですか。」
「普段はどうだか知らないけど、ブログは僕も読んだが支離滅裂だよ。心配ない。」
「この組織の秘密は大丈夫かしら」
 僕のことじゃないか。僕が何を喋ろうが書こうが誰も信用しないから組織の秘密が守られる、とは何事だ。そもそも本当だったら大発明のような事を言っておいてなるべく秘密を保ちたがるのはどこかで特許破りをしているのか。或いは将来新興宗教のようになってボッタクる計画でもあるのか。もっとも僕は被験者ということで今は金を払ってはいないのだが。
 なんだかヤバい。そういえばオビナタ先生はショートカットで眼鏡をしているが子供みたいだ。しかもどこかで見たような気がしてならない。
確かに僕のブログを真に受ける人は少ないだろうが、初めからそこまで調査して引っかかったとすれば・・。全てが仕組まれたことだとすれば・・。

 待てよ。オビナタ先生って名札には 小〇方 っ書いてあったな。ステップ現象もEをAに代えれば・・・。まさか!

 僕は逃げ出すことにしたが。しかし個人情報の殆どを知られていて、逃げ切れるだろうか。あの秘密組織はきっと社会的にはじかれているオレを使って臨床実験を繰り返していたのに違いない。逃げ出すにも逃げ出す先もないじゃないか。ヤバいぞ、ヤバい!

おしまい

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「あの日」 異変が生じた Ⅰ

Categories:アルツハルマゲドン

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