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日本人の働き方考

2017 JAN 7 13:13:44 pm by 西 牟呂雄

 
若い女性の傷ましい自殺が様々に取りざたされている。
 慢性的な長時間勤務と心無いパワハラで悩みぬいた末の事だという。彼女は母子家庭で育ち、母親に楽をさせてやりたいという意識を強く持っていたらしい。
 既に処分を受けたであろう彼女の上司に思いを馳せてみると、色々な感慨が浮かんでくる。『昔は当たり前だった』『オレ達の頃はこんなもんじゃなかった』『この程度で音をあげられたら使い物にならん』おそらくこれくらいのノリでやっていたに違いない。
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 一方で、このグラフはその日本の労働生産性を時間当たりで比較しているが、先進7か国中最下位なのだ。
 僕はメーカー育ちなので、日本の現場の生産性がそんなに悪いはずがないことを肌で知っている。
 しかしブラック企業のようなコキ使われ方が問題にされても全体の生産性は少しも上がらない。順位は2005年からズーッと同じなのだ。誰かが余程サボるのか、そんなはずはない。
 ある企業の取締役会を見てビックリしたことがある。それなりの企業だ。
 さる案件を審議していたのだが、誰も本当はヤル気がないのがすぐ分かった。ところが、ハッキリと『これは弊社の社風に合わない』とか言う人はいない。するとどうなるか。エライ人が資料の細部について信じられないほどの細かい所にイチャモンをつけ、アーデモないコーデモないと延々とやり続ける。結論を先延ばしにしようとするのだ。
 しかもその企業は多角化が進んでいて、それぞれの取締役は当該案件については素人同然のように見えた。従ってイチャモンたるや『もっと勉強して来い』的な内容ばかり、ハッキリ言って時間の無駄がダラダラと続いて案件は先送りされた。
 その会社で最も給料の高い人間が集って5時間も幼稚な議論に明け暮れたのである。人数×時間の生産性はゼロ。
 こういう会議が生産性低下の元凶なのだと確信した。

 一方でルネサンス研究家の故会田雄次氏の論考に、日本人の意思決定構造は基本が農村の寄り合いのように長老を中心にグダグダと全員が意見を述べ互いの顔色を伺う、と分析したものがある。更にはっきり『ここ一番の集中力はアングロサクソンにかなわない』と書かれていた。
 これについてはハワイ沖の日米合同演習に参加した海上自衛隊の幹部が面白いことを述べている。
「普段は時間に遅れるは操艦はピタッと決まらないはでデレデレしているようにみえますが(アメリカ海軍と演習を)やってみると強いんですねえ、これが」
 アメリカ海軍は全員アングロ・サクソンでもないが、こういう集中力はやはり違うようだ。
 それに対して会田氏は、我々日本人は24時間とは言わないもののダラダラと仕事のことを考えては集団で切り盛りして(当時は)高度経済成長を支え欧米に比肩する経済力を培った、と言う論調だった。

 すると、前述のダラダラ取締役会は日本の古式に則った正しい進め方なのか。それが断じて違うのだ。
 一度で決めなくても持ち帰り、それぞれが『困ったな』『困ったな』と言いながらダラダラ毎日工夫をするのが古来の方式。会議の風景は責任回避のために発言をしている風情だ。それがその社において最も見識のある(はずの)人々がロクでもない意見をチョロチョロ出しては『この案件には反対だった』のアリバイ作りに興じているのが情けない、ということだ。

 思うに集中力こそないものの、考えに考えてコンセンサスを作るのは悪くはない。全体が一糸乱れず目標に進む基本でもある。
 だが、失われた20年の期間を通じて更に今も尚、生産性の順位が上がらないのは、即ち投下資本が付加価値を生み出すまでの効率の悪さが更に劣化し負け組を再生産し続けるからではないか。

 無論日本人にも並外れた集中力を持った人はいる。その能力と組織を切り盛りするリーダーシップはなんの関係も無いことは明白であり、能力は評価されるべきだが間違えてはいけない。仕事の割付を見誤るから冒頭の女性のような悲劇が起こる。優れて管理の問題でもあるのだ。
 この悲劇は時間の関数によって起こったものではなかろう。浴びせられたあまりにも心無い言葉の幾つか(おそらく『女子力がない』『おまえの残業は無駄』等の罵声)が堪えた。更に丁寧に指導をした形跡が感じられない。あの会社は異常な残業時間もそうだがやたらと会議をすることで有名であり、尚且つクライアントの打ち合わせに大人数を繰り出してくる事もつとに知られている(給料も高いが)。

 そんなにエラソーにしないでみんなでコツコツやれば・・・

 断っておくが僕がコツコツやるタイプではないことは申し添えておきます。

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Categories:製造現場血風録

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