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イタリア人の見た富士山

2017 JAN 2 5:05:14 am by 野村 和寿

あけましておめでとうございます。ぼくは冬になるとほぼ毎日、ぼくの自宅のある東京・世田谷のマンションから、富士山の写真を撮っています。

自宅から見た富士山

自宅から見た2017年1月1日朝の富士山です。陽光を受けて冠雪した富士山が輝いています。                  camera:Canon EOS5DmkⅢ lens:Leitz teryt 500mm f8

 

最近、東京の空気が冬で澄んでいるのに加えて、大気が昔よりも乾燥しているそうで、世田谷からでも、富士山は綺麗にみることが出来るようになりました。

ぼくの好きなイタリア人学者・エッセイスト、登山家、写真家、人類学者と多彩な活躍をみせてフォスコ・マライーニの綴った富士山への思慕を綴った記述は、我々日本人に、とても新鮮な示唆を与えてくれます。少し長いのですが、『随筆日本イタリア人の見た昭和の日本』より引用してみます。

 

ある曲がり角にさしかかるとまことに天高く世界で最も知られた火山のひとつ、

そして最も美しい富士山が姿を現した。17世紀の終わり頃、魅惑的な詩人であり、強い情熱の持ち主であった松尾芭蕉は、冬の一日、この峠を越えながら嵐をはらむ雨雲の下にいた。富士山を目にすることを願ったが、それは叶わぬ願いだった。舗装された道路を自動車で行く現在と違い、芭蕉の時代にあって旅をすることは、徒歩または馬の背に揺られていくことであり、労苦をともなう企てだった。失望は残酷なものであったが、芭蕉は備忘録に次のように書き置いた。

 

霧しぐれ 富士を見ぬ日ぞ 面白き

(素晴らしいのはまた曇りの日 その日は雨が富士を隠してしまうから)

2017年1月1日の富士山の夕焼け

2017年1月1日の富士山の夕焼けです。                                                                                                                                               camera:Canon EOS5DmkⅢ lens:Canon zoom lens EF100-400mm lisⅡ usm f4.5-5.6

 

きょうもまたそんな1日だった。すでに昼前に地平線に一群の綿雲が姿を現した。もっと遅い時間になれば、逃れることのできない靄の天井がその周囲を補うことだろう。けれども、そのあいだにも富士はひとりその稜線の気高さのうちに聳え立っている。

もちろん、その偉大な山がいっそう高く、いっそう荘厳で、またいっそうカレイに見ることができる場所はほかにもたくさんある。だがわたしの脳裏に浮かぶのは、富士山の北側に宝石のごとく煌めく富士五湖の岸辺で過ごした冬の日々である。

1月1日の富士山の夕焼けその2

雲間に太陽が沈んだばかりの富士山です。2017年1月1日夕刻撮影。camera 上記と同じ。

その時、富士の頂は、一月の穏やかな太陽の赤い残光を受け、氷りに埋もれた輝く秘宝のように、ガラスの光を彼方へ反射していた。あるいは、山麓の田園での春の日々、歩を進めるたびに、咲き乱れる桜の花と純白の頂きの運命的な出会いが繰り返される。あるいはまた夏の海での日々、太平洋の波は、長旅の果てにミホの松原(原文通り)の砂浜で勢いを失って散っていく。

曲がりくねった老松の縦列が、海岸の柔らかい曲線を辿り、その輪郭に砂浜と渚の輝き、打ち寄せる波の飛沫の曲線が重なり合う。すべての線は水平線上の一点へと収斂していく。そして彼方では、また別の線が、まったく別の次元で天へ向かってあらたに突き進む。まるで神秘的なリズムを刻む見事な舞踊のように、それが富士なのである。ひとつひとつの波が浜で砕けるあいだ、水は海へと引き返して流れ、砂浜は鏡に変わり,一瞬富士が逆向きの姿をあらわす。地球の胎内に納められたシルル紀の無限の空間の幻覚だ。

マライーニ(写真左)とその家族

マライーニ本人とその家族です。Oishi Kuranosuke – Flickr: FOSCO, TETI E IL VETERINARIO GARFAGNINO

(フォスコ・マライーニ『随筆日本イタリア人の見た昭和の日本』より引用)

 

思いも寄らないレベルで富士山という存在を活写しているようにボクには思えます。

富士山はやっぱり「いい」ですね。

2001年マライーニ展図録

2001年に東京都写真美術館で開催されたイル・ミラモンド レンズの向こうの世界 フォスコ・マライーニ写真展 60年間のイメージの記録 監修フォスコ・マライーニ コジモ・キアレッリ 図録です。

 

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