ベンチャーズとクラシック
2012 SEP 16 4:04:18 am by 西 牟呂雄
クラシックというと堅い、退屈、長い、近寄りがたいという人が多く、ポジティブなイメージは癒し、知的、高尚だそうです。日本では音楽市場の10%ぐらいあるそうですが交響曲、オペラのような長い曲を家で真剣に聴くような愛好家は総人口の1パーセントという説もあります。いずれにしても、相当マイナーな存在であることは間違いありません。もったいないことです。
僕は小学校時代にザ・ベンチャーズの強烈な洗礼を受けました。いわゆるテケテケテケです。寝ても覚めてもベンチャーズ。歩きながらもベンチャーズ。ノーキー・エドワーズのマネをしてギターを弾き、本を並べてバチでたたいてメル・テーラーの気持ちになっていました。キャラバンという曲があります。メルのドラムスとドン・ウイルソンのサイドギターの刻みが絶妙にシンクロ。それに乗ってドライブするめちゃくちゃカッコいいノーキーのリードギター。難しいリズムのドラムソロ。レコードがだめになるまで聴きました。
そこに立ち現われたのがビートルズです。ジョンとポールのハモリとノリ。何を言ってるかわからないがなにやらカッコいい英語。女の子の失神。ベンチャーズにない刺激的なコード進行。ポールのものすごいベース。いやーこれはすごい。完全にハマりかけました。そのまま行けば僕はたぶんロックバンド路線に進んでいたと思います。音楽の時間にあの曲を聞かなければ・・・・。
千代田区立一ツ橋中学校。われわれ悪ガキがポール・モーリヤとあだ名していた音楽教師、まじめな森谷(もりや)先生が「今日は鑑賞です」と言ってレコードをかけました。それはモソモソとはじまる退屈きわまりない曲でした。クラシックは聴いてる奴らの感じが大嫌いで、無縁と思っていた僕でした。まあ昼寝にいいか。実は小学校時代に同じシチュエーションで教室の窓から脱走し、母が担任に呼び出しを食らった前科のある僕は、ふとそれを思いだしました。
すると、ちょっとキレイでグッとくるメロディーが出てくるではありませんか。へー、割といいな。仕方ねえ、ちょっとだけ聴いてやるか。まさにその時です。そのメロディーが突然違うコードにぶっ飛んだのは。脳天に衝撃が走りました。ベンチャーズにもビートルズにもない新体験。これは何なんだ?
その曲はボロディンの「中央アジアの草原にて」です。その個所は105小節目、ハ長調のメロディー(注)が3度あがって変ホ長調に転調するところです(こういうのを転調と言います。これからこのように何長調とか何短調とか書くことがありますが、わからなければ無視してください。耳で楽しむためにはどうでもいいです。ただ興味のある方は知りたいと思うので書くことにします)。
(注)このメロディーに似たのがストビンスキーの火の鳥の終曲にも出てきます。ロシア民謡です。なんとも懐かしく平和な感じがします。どっちもホルンが吹きますね。牧歌的なホルンが似合うのです。ベートーベンの田園交響曲。嵐が去って終楽章に入るとまずクラリネット、そしてやっぱりホルンが牧歌的な雰囲気を醸しだします。ボロディンのそこもクラリネット、ホルンの順番です。
この経験が僕をクラシックに引きずりこみました。この曲が入ったレコードとして父が名曲集のLPを買ってくれ、そこに一緒に入っていたワーグナー、チャイコフスキー、ヨハン・シュトラウスも気に入ってしまったからです。
ただ、今でも僕はビートルズ信者です。カーペンターズ、ユーミン、山下達郎などもコード進行が大好きで、ときどき聴いています。往年の歌謡曲やJ-ポップにも名曲と思うものがいくつもあります(コード進行がいいものというのが僕の基準ですが、これは単に僕の好みです)。
さて、ベンチャーズです。京都の雨なんていうしょうもないものをやりだした頃から一気に堕落しました。芸者ワルツなんてやりだすんじゃないか、冷や冷やしたほどの様変わり。ライブのCDもどっかの素人コピーバンドじゃないかという微笑ましい出来。まあそこにいたファンは楽しいんでしょうが・・・。
それでも初期のあのダイヤモンドヘッド、パイプライン、十番街の殺人(テケテケテケの音色が全部違う!)、ウォーク・ドント・ラン、ブルドッグ、アパッチ、テルスター、夢のマリナー号、クルエル・シー、パーフィディアなどなど永遠に色あせることはありません。カッコいい。美しい。
しかし、それにもまして、あのキャラバンなんです、僕には。冒頭のシンバルの一撃で金縛りです。腹にズンと響く中音と低音のタム。土俗的なリズム。究極のアレグロ・コン・ブリオ。完璧に4つの楽器がバランスされた録音。もう芸術としか呼びようがありません。このクオリティの高さはいったい何だったんでしょうか?
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