ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調 「新世界より」 作品95 (その1)
2012 NOV 23 18:18:08 pm by 東 賢太郎
オーケストラのスコア(総譜)というものをご覧になったことがあるでしょうか。
これはドヴォルザークの交響曲第9番(新世界)の有名な第2楽章ラルゴのスコア、その最初の2ページです。上から順番にフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、第1・2ホルン、第3・4ホルン、トランペット、第1・2トロンボーン、バストロンボーン(チューバ)、ティンパニ、第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスとなっています(楽器の順番はこれに限らず常にそうなので覚えておいてもいいですね)。
オーボエのパートを見て下さい。7小節目に、この音符はオーボエではなくコール・アングレ(別名イングリッシュ・ホルン)で吹けと書いてあります。なんとも鄙びたいい味の音がします。このメロディーこそ知らぬ人のないあの「家路」です(なお、この詩とドヴォルザークさんとは何の関係もありませんからご注意を)。
遠き山に 日は落ちて
星は空を ちりばめぬ
きょうのわざを なし終えて
心軽く 安らえば
風は涼し この夕べ
いざや 楽しき まどいせん
まどいせん
このメロディーはこの楽章で3回出てきますが、17小節目(歌詞だと1回目の「まどいせん」のところ)、実はその3回とも「違う和声」がついています。よほど注意して聴いている人しか気がつかないかもしれません。こういうさりげない隠し味に熟達の職人芸が注ぎ込まれているからドヴォルザークは凄いのです。問題の第17小節をよく見てください。チェロとコントラバスが四分音符で下がってきますね。その最後の音、ラ♭ですね。第18小節、これがもう一つ階段を下りてソ♭に行くのがここの空気というか世の中の流れなのです。
ところがこの1回目はタイ(同音を結ぶ記号)がついてラ♭のまま階段を下りません!この空気を読まない意外感!それも、つい3小節前までppp(ピアニッシッシモ)だった音量をf(フォルテ)に一気に上げて、深呼吸した息を吐くように・・・。すると、あら不思議、この和声が何ともいえないほのぼのとした田舎への郷愁みたいなものを漂わせるではないですか。人生いばらの道でも頑張るぞみたいな第1楽章から一転してこの楽章、あー温泉行ってのんびりしてー(今の僕にはそう聞こえます)みたいな満ち足りないあこがれ感が出るのです。
ところが、少しあとに出てくる「2度目の家路」ではちゃんと空気読んで同じ「まどいせん」の個所の低音が階段を下り、ソ♭になっています。すると、あら不思議、もう温泉入って牡丹鍋食って腹いっぱいだー!ですね、これは。充足感、満ち足りた感じがあります。そこからちょっと哀愁ムードの中間部があって、さあ「3度目の家路」です。楽器が減ってメロディーが途中で止まったりして、なんか回想モードに入ってる風に聴こえます。今度の「まどいせん」にはほのかな暗さと苦みがあって、ノスタルジックな寂しさがあります。あー温泉良かったー、くそ、もう休みも終わりだ。残念。こうしてほんとの家路につくのです。
この3つの「まどいせん」。じっくり聴いて、耳ではなくハートで聴き分けてみてください。こういう部分にクラシック音楽の醍醐味があることがだんだんわかっていただけると思います。
なお、これも残念ながらドヴォルザークさんが温泉好きだったという記録は一切ございませんのであしからず。ちなみに彼は無類の鉄道好き、いわゆるひとつの「てっちゃん」でございました。
次はこちらです
ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調 「新世界より」 作品95 (その2)
Categories:______ドヴォルザーク, クラシック音楽
中島 龍之
11/24/2012 | 3:15 PM Permalink
東さん、オーケストラのスコア、グッド・タイミングでした。「クラシック始めました」以来、「悲愴」を聴いていますが、3分間音楽愛好家の私には長すぎて、飽きてしまうので、1分間毎に曲のイメージをメモすることにしました。すると、メモに忙しくて、1時間弱がいつのまにか過ぎてしまいました。まだ、音楽を楽しめてはいませんが、曲の作りを知るにはいいかと思ってます。その中で気付いたのは、演奏がどの楽器の音か識別できないという、音感が酷い状態にあるということです。バイオリンかビオラか、フルートかクラリネットか、などそこからのスタートとなりました。また、速度記号は沢山書いてあるけど必要あるのかと思ってましたが、イメージのメモのなかに「少し早くなる」「やや遅く」などと自分で書いてました。速度記号、重要ですね。また、強弱やムードもそうですね。前途多難ですが、1年後には少しは改善するでしょう。いろいろなポイント宜しくお願いします。いつものメロディー進行解説、面白いです。1回目は階段を下りず、2回目は階段を下りて、温泉入って、鍋食って満足する。そして明日のことを考えつつ家路につく、それが「家路」なんですね。納得しました。
東 賢太郎
11/24/2012 | 3:46 PM Permalink
中島さん、本格的に「始めました」なんですね。わかりました。もちろん覚えた方がいいことはたくさんありますが、あんまり細かいことは気にせずビートルズ聴く感じで楽しむのも忘れないでください。「音学」ではなく「楽」で。ところで悲愴ですが、音楽のつくりももちろん聴きながらスコアについていくだけでもかなり上級者コースなんです。まず基本ルールがわかりやすい古典派がいいです。今度そろそろモーツァルトを書きますので、それにしましょう。
中島 龍之
11/26/2012 | 10:18 AM Permalink
ありがとうございます。あまり「学」せずに気楽に聴きます。