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ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調 「新世界より」 作品95 (その3)

2012 DEC 5 9:09:02 am by 東 賢太郎

第3楽章(スケルッツオ)です。

まず曲の冒頭にテーマの力強い宣言があります。単純な下降音型の2回繰り返しである点も含め、ベートーベンの交響曲第9番の第2楽章と酷似していることがすぐわかります。モルト・ヴィヴァーチェの4分の3拍子、ティンパニがソロ楽器として扱われる点もまったく同じです。

ベートーベンは第九が最後の交響曲になったことから、「9番目の交響曲」を書くと縁起が悪いというジンクスがあります。シューベルトもブルックナーも9曲です。それを気にしたマーラーは8番の次を「大地の歌」と名付けましたが、9番を書くと亡くなりました。ドヴォルザークはあえて堂々と自分の第9に「第九」と刻印したのでしょうか。しかし、やはりこれが最後の交響曲になりました。

3/4拍子、モルト・ヴィヴァ―チェで超快速に123123123・・・・と行きます。出だしに弦が次々と重なっていく和音は曲頭の調性の確保としては不安定なEm7です。しかしリズムの方は強拍がはっきりと1にある(123123123・・・)3拍子が安定的に感知されます(ここの野趣あふれる雰囲気はボロディンを連想します)。テーマ(まずフルート、オーボエ)は123の2から始まります。それでもこの2の下にはp(弱く)と指定があり(それが第1バイオリンに受け継がれるとpp)、「強拍が1だ」という聴き手のリズム感を壊さないように用意周到に仕組まれています。第2バイオリンは前半はピッチカートで1を弾き、後半は背景で山形の音型を弾きますが、これがまたスラーでなめらかに平和に「強拍が1」の印象を補強。心憎いばかりです。

そして、その繊細な準備が何のためだったかというと、一気にその平和とリズム感をぶち壊す野蛮な闖入者を迎えるためです。このスコア88ページの3小節目です。第1バイオリンとビオラの2にいきなり mf  が付いて「2が強拍」となり、スタッカートでゴシゴシと、ここから新しくテーマが始まったかのような錯覚を与えます。

第3小節からは1123と聴こえます。そして次の第6小節は123の2を二つに割って「8分音符3つ」を一括りにした2拍子に聴こえ、聴き手のリズム感は完全にカオス状態に陥ります。

そこにパパパンと元の「1を強拍」リズムをティンパニが決然と打ち込む!鶴の一声とはこのことです。闖入者に驚きガヤガヤする兵隊に「だまっらっしゃい!」と大将の一喝。すると兵隊が整然と「強拍1」の行進を始めるこの胸のすくような快感!ここ、指揮者とティンパニ奏者はオトコに生まれてよかったーと思うんじゃないか(女性でも?)。

3拍子の音楽というのは日本には元来ほとんどなかったそうで、走る馬のヒズメの音を模したもの、つまり乗馬文化から出たリズム感と言われています。ベートーベンが第3番(英雄交響曲)の第1楽章を3拍子のアレグロ・コン・ブリオで書いたのはナポレオン軍の行進をイメージしていたからでしょう。僕だけかもしれませんが、速い3拍子というのは何か男の野性を刺激するものを感じます。

ドヴォルザークがここで何をイメージしていたかは分かりませんが、第2楽章の牧歌的、ノスタルジックな雰囲気から一転して野性的、バーバリックな、しかも超最速のモルト・ヴィヴァーチェで疾走しながら聴き手の拍節感を崩すことで「興奮させる」音楽を書きたかったのではないでしょうか。ちなみに英雄の第1楽章は「へミオラ」という拍節感のズレが多用され、カッコよさと興奮が倍加するように出来ています。何拍子の曲なのか全然わからなくなり、乗っている馬が疾走しながら何かを飛び越したりするスリル満点な感じです。

ではもう一度スコアに戻ってください。

88ページの終わりから2小節目。テーマがffで鳴りますが2からなので「字余り」の感じです。いきなり拍節感がズレます。第1,2バイオリンが弾くとフルート、オーボエ、クラリネットが呼応します。いわゆるカノン(輪唱)ですが極めて素朴なものです。これでは面白くないので別なメロディーを重ねます。ホルンが4本、ffで吹くものです(Cor.と書いてあるのがホルンです)。ホルンは「移調楽器」といい、ここではE管、すなわち楽譜にドとあるとミの音が出ます。ですからこの部分の音列はe,d,c#,c,b,eとなります(全体をコード進行として眺めるとビートルズのミッシェルです。d♯がないですが)。これで多少面白くなります。

しかしドヴォルザークの鋭敏な耳はそれでも満足しません。

このホルンの音列ですが1/23/12/31/23/12/3・・・・と強拍が2・1・3・2・1・3とズレているのにご注目ください。1小節で4分音符3つの3拍子が2小節で2分音符3つの3拍子に化けています。これが「へミオラ」です。馬が何か飛び越しています。面白さが倍加し、興奮度合がアップする感じがしませんか?この楽章、耳だけでは聴き取りにくいのですがスコアをよく見ると第九だけでなくエロイカの遺伝子も継いでいるのです。

まだあります。

さらに進むと、行進が急に止まり、ホ長調で第2楽章の「家路」をルーツに持つひなびたテーマをフルート、オーボエが吹きます。村娘のダンスに兵隊が一息入れているような感じになります。さてまた行進に戻ります。村娘テーマは3部形式の「トリオ」だったかと思わせますが実はそうではなく、今度はハ長調でボヘミア農民が輪になって踊るダンスみたいな音楽が始まります。お酒も入った感じで実に平和です(木管で鳥の鳴き声も聞こえます)。これが「トリオ」だったことが分かります。

田舎の風景や農民ダンスをシンフォニーに取り入れるという試みは、これもベートーベンが田園交響曲でやったことです。

この楽章、なんとベートーベンの第3、6、9番の交響曲の末裔なのです。3,6,9はいわゆるスジですがドヴォルザークさんが麻雀好きだったという史実は残念ながら伝わっておりません。

(続きはこちら)

ドヴォルザーク交響曲第9番ホ短調「新世界」作品95(その4)

 

 

 

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Categories:______ドヴォルザーク, クラシック音楽

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