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花巻東 千葉選手がんばれ

2013 AUG 25 18:18:41 pm by 東 賢太郎

休みの間にいろいろなことがおきたようです。イチローの4千本、藤 圭子さんが亡くなるなど。藤さんは(娘の方はあんまり知りませんが)僕の世代には懐かしい名前であり非常に残念です。

それから甲子園は後半の方をすっかりミスってしまいました。勝敗は水ものなのでどこが優勝してもいいのですが話題の選手は見ておきたかった。中でもちょっと気になったのは花巻東の千葉選手です。画像を見ましたが、これは投手からすれば天敵みたいなものです。くそ暑い中苦労してコーナーをついた球をカットされれば体力だけでなく気力も消耗します。

ただ、小兵がカットで球数を稼いで四球で塁に出てかきまわすというのは、昔もよくありましたし普通でしょう。カットというのは誰でもできるもんではありません。相当難しいです。彼はクリケットでも一流になれるんじゃないかというぐらいうまい。あんなにうまいんだから前にだって打てるはずじゃないか。だから故意だろう。それなら投手を疲れさせるのが目的だ。高校野球の精神に反する。そういうことになってしまったのでしょうか。ちょっとぐらいならお目こぼしだがやりすぎはいかんよキミ、というなら彼はうますぎて損したというおかしなことになる。

甲子園大会はサドンデス・トーナメントです。ゴルフのプレーオフと同じで負けたら終わり。箱根駅伝と同じで見ている方は最後の夏なんていう感傷もまじえて楽しむ。だから3年生は高校生活の終止符という思いも強くなっています。勝ちにこだわるのはあまりに当然であります。高校野球は勝てばいいというものではない?それはエアコンきかして涼しい部屋で見ている人の勝手であって、グラウンドにいて戦っている側はじゃあどうすれば「いいというもの」になるのか教えてくれということでしょう。高校野球の精神というものが仮にあるとすればそれは「負けないこと」に尽きます。負けないためには、要はなかなかアウトにならないのがいいわけです。だから、出塁率7割の千葉君こそ高校野球の精神の申し子でなくて何でしょう。

日本の高校野球は高野連という組織が統括していて大相撲に次ぐ準国技みたいな存在に思います。勝てばいいというもんじゃない、これは横綱に格式と品格を求める横綱審議会の常套句でもある。姑息な手で勝ってはいけないのです。それならそういうルールにすればいいのです。横綱は蹴たぐり、猫だましは禁止とか。ルールにはないが求められる「横綱相撲」なるもの、これが「高校野球の精神」とよく似ていると思うのです。80年代に米国が日本の「非関税障壁」というものを指摘しましたが、同質のものが背景にあるように思います。いや甲子園はベースボールではない、野球でもない、柔道や相撲道に通じた「高校野球道」という別なスポーツなんだというしかないでしょう。

それはそれで構いません。米国にもベースボール道はあって、死球には死球の報復あり、大差の試合では盗塁しないなどルールブックにないinvisible ruleが存在しています。千葉選手のカット、あれを米国でやったら?知りませんが、ああいうのはinvisible ruleすらない想定外だろうし、投手はどうせ歩かすなら逆に球数セーブでぶつけちゃおうになって生命の危険があるかもしれませんが、精神論で「いかがなものか」なんていう横綱審議会が出てくる前にグラウンドで解決されるでしょう。イチローは内野安打が多いから姑息だ、新人王はやらない、なんて声は出ませんでした。仮に姑息だとなったとしてもカット打ちを「禁じ手」としてルール化するのは難しい。だから投手のボークと同じで、その場その場で審判が自己裁量で判断してバントとみなすことに結局なると思われます。

そして日本でも、ちゃんとルールブックにそう書いてあるそうです(「審判員がバントと判断する場合もある」)。

ルールで禁じているものは問答無用でだめです。高校野球の精神も3年間の汗と涙もなんら出る幕はありません。問題は審判がこのルールを適用してこなかったことにあります。ボークと同じで審判がそう判定しなければOKということです。だから千葉君を責めるのはお門違いです。ところが今回、準決勝前になって花巻東に対してこのルールを知っていますか?ときいてきた。これが決定的におかしいのです。ルールは知っていようがいまいが適用されるのであって、この質問は審判団にすべきものなのです。

セカンドからサインを盗んだと注意もされました。しかしこれについては「注意してやめさせる」とだけあって罰則はありません。「サイン盗み」というと知らない方にはとても悪行のように聞こえるでしょうが、昔の話ですがあれはけっこう当たり前で、僕らも当然のようにやっていましたし名電工時代のイチローが甲子園でやっているシーンをyou tubeで見ることができます。もちろん今のルールは厳しいのだろうし順守しているチームと不公平があってはいけません。監督はとぼけているがあれはやっていたように見えます。千葉君はここで審判団に「故意」を疑われてしまって性悪説となったのが影響しているかもしれません。しかしそうであってもそれはそれで、カット打ちに対する審判の判断基準変更が正当化されるわけでは毛頭ありません。

前の試合までOKだった牽制がこの試合からボークですと言われたら投手は確実に混乱します。OKだった試合でそれで負けたチーム はどうなるんでしょう?あの注意が精神論から出たとすればとても異常なことになります。ちょっとぐらいなら見逃すが行き過ぎはいかんというなら一罰百戒の共産国の人治政治と同じことであり、注意された方はそれを会得するために3年間努力したら最後になってお前のしたことは違反だ、悪いことだといわれる。教育の場とも謳われる高校野球においてそんな無茶苦茶な理屈が通るなら、それこそが高校野球の精神に反しているのではないでしょうか。

日本という国は前例のないことに判断をためらう国です。千葉君は審判団が戸惑うほど前例のない高い技術を身につけたということです。これをプライドにして堂々とたくましく生きていって欲しいと願っております。

 

 

Categories:______高校野球, 野球

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