Sonar Members Club No.1

since September 2012

キミもボクも偽装の時代

2013 NOV 13 19:19:43 pm by 東 賢太郎

LPレコードの時代、ジャケットにはオビ(帯)というものがついていた。CDにもあるが、なにせLPはサイズが大きいのでオビの存在感もちがった。

そこには曲名、演奏者名が書かれているのだが、それでは飽き足らず「鍵盤の獅子王バックハウス 皇帝を弾く!」とか「コロラトゥーラの女王 珠玉の名アリア集」なんていうキャッチコピーもあった。要は「低音の魅力 フランク永井」「演歌の女王 美空ひばり」「エレキの帝王 寺内タケシ」などと一緒のノリだ。獅子王だ女王だなどと誰が決めたんだ認定したんだ、などとつっかかるのは野暮だ。

高校生の頃だったか、レコード屋で手に取ったサン・サーンスの交響曲第3番のLPのオビに「オルガン付き」とある。当たり前だろと思ったその時、「地軸をゆるがす重低音」という文字が目に入った。オルガン(あえて書く)→重低音→地軸が揺らぐ、愛好家の好奇心を実にうまくついてくるではないか。オルガンの伏線が効いている。う~ん、これはすごそうだ、よほどオルガンの録音がいいんだろう、とあわや買ってしまうところ、お金が足りなかった。やれやれ危なかった。

ひっかかりそうになっておいて言う資格もないが、誇大なキャッチコピーで物を売らんとするのはいかにもチープな感じだ。しかし地軸まで持ち出されると、嘘だとわかっていても一応は想像力を刺激される。「宇宙」やら「銀河」まで行くと嘘が過ぎるし「地球」だと、どこか揺らぐという現実感に欠ける。「軸」というのがいい。揺らぐ感じがする。そのセンスに座布団1枚!だし、このコピーを考えた人が本当にそういうイメージを感じた可能性も否定まではできない。嘘もこのぐらいスケールがデカいと許されてしまうのだろう。

しかし「九条ネギ」やら「伊勢海老」やらとなると、仕入れの人が食べてみてそうイメージしましたでは洒落にもならない。嘘なのは「地軸」と一緒だが、地軸なんか見た者は誰もいない。誰もどこにいるのか知らない「獅子王」と一緒だ。怒るのも野暮なのだ。しかし九条ネギや伊勢海老はれっきとして存在するのだから、これは「成りすまし」以外の何ものでもない。法に触れているか否かはともかく、庶民感覚的には犯罪だ。

ところがだ。そう思いつつ、反省すべきことがあるのに気がついた。自分は九条ネギと深谷ネギが区別できるかということだ。伊勢海老とほかの海老の違いが言えるか?無理だ。先日、週末に某所のパーティーでいただいた松葉ガニはずいぶんと立派だった。ずっしりと重くて一匹(一杯)食べたらそれでもう満腹になった。

写真 (44)

しかし、「松葉ガニはオスとメスとどっちがおいしいですか?」と地元の人に聞いて恥をかいた。山陰で松葉ガニと呼ぶのはオスだけだ(メスは親ガニと呼ぶ)。同じカニが福井で捕れれば越前ガニ、その他だとズワイガニだ。恥ずかしいことにそれすら知らなかった。そもそもこれ(右)を自分で開いて平らげるのにもずいぶん苦労したぐらいであった。

こんな程度の消費者である僕は九条ネギも見たことないのだから、実は「成りすまし」には当たらないではないかと思う。僕はほとんどTVを見ないので芸能人が物まねをしていても、まねされている方を知らないからその芸に何の価値もない。それと同じことで、成りすます対象が架空と同じことなのだから、つまり、九条ネギは鍵盤の獅子王と同じなのだから、僕はこのトリックにだまされる可能性がないのだ。だまされるとすると、何となくそういう産地名称があること自体ブランド感があるという思い込みによる。だいたいの人はそれがあるだろう。それをホテルに見透かされているということだ。「どうせわからんでしょ。いいもん食った気になって高い料金払ってちょうだい」ということだ。ある程度の嗜好品、プレミアム品の市場では、悔しいが、だまされる方も自己責任なしとはならないだろう。

インド洋で韓国船が釣ったマグロの産地表示は「韓国産」で、その隣で日本船が釣ったものは「日本産(インド洋)」となるそうだ。中国で途中まで栽培したシイタケを輸入して日本で収穫すると「日本産」だ。あいびき肉は国産60%米国産40%でも「国産」だ。和牛は国産牛とは限らない。品種のことだからでオーストラリア産の和牛というのがある。「産地直送」とは市場で買わなかったということに過ぎない(直送かどうかわからない)し、「採れたて」はその日の朝に収穫したものである必要はない。行政の監理する食品表示とはその程度のものだ。

インド洋のマグロが韓国産に化けるぐらいだから、伊勢で採れたエビではなく伊勢海老といういう品種のエビが韓国で採れてそれを「伊勢海老」と表示したらどうなるんだろうなどといろいろ考えさせられる。タイのエビが芝エビで悪いのかという理屈は成り立たないが、供給者側にモラルのOBラインを甘くする傾向を生んでいるのではないだろうか。そういう合法的混乱を招くリスクがあるならいっそエビは「エビ」とだけ表示するのが公明正大なんじゃないか。いや、それじゃあつまらん、というなら「帝王」「女王」「獅子王」の3種は良しとするでどうだ。ダイオウイカもあることだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

Categories:______日々のこと, 徒然に

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

たむらあやこ
久保大樹
深田崇敬