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ドビッシー映像第1集(Images,Book 1)

2014 DEC 23 1:01:31 am by 東 賢太郎

Claude_Debussy_ca_1908,_foto_av_Félix_Nadarドビッシーのピアノ曲には墨絵のイメージを持っている。一般に印象派といわれる音楽にどうしてそうかといわれても答えはない。一方でラヴェルには水彩画の色彩を見ているのだから、この二人はぜんぜん別物である。

僕の中で二人を代表しているのがペレアスとメリザンドダフニスとクロエだ。ダフニスを着想するのにペレアスの舞台が影響しただろうというのは、音楽はもちろんだが合唱の使い方を見てもわかる。しかしそうではあっても、深い森と暗い城のペレアスがダフニスになると陽光きらめく地中海を思わせるところがそのイメージを作ったかもしれない。

そのドビッシーの作品で最も色彩を感じるのが映像第1集(Images I)の第1曲「水の反映」(Reflets dans l’eau)だ。水に色はないじゃないか?たしかに。だが波のゆらぎ、水しぶきにはいろんなものが映る。虹もできる。これは僕の色覚のせいなのかもしれないが、colorful このうえない。

ドビッシーはこの曲において the newest discoveries in harmonic chemistry (和声の化学反応における新発見)を宣言している。曲頭いきなり変ニ長調(D♭)のトニック(des、as)にサブドミナントが乗るところから頭が痺れる。右手の和音はコードで示せばG♭、Fm、しかし全てdes、asを含んでいるから不協和にはきこえず、深い池の水面がゆらゆらと波打っているような感じがする。

images

左手のas、 f 、es の音列はコーダで高音のオクターヴで鐘のように印象的に響く。中間部では高音の速いパッセージが波しぶきのように巻き上がる。譜面の「ゆらゆら」はそこで再現するが音型はより自由になる。曲想は激しくなり、最後は夕暮れのように静まって終わるが、この時が止まるような時間感覚は非常に印象的だ。

この曲はロンドンの105km南に位置するイーストボーンEastbourne)で、交響詩「海」の完成から半年後に書かれたが5音音階、全音階が現れる中間部はまさに「海」の第2楽章を髣髴とさせる。真に驚くべき音楽である。

第2曲「ラモー讃」(Hommage à Rameau)は1901年作曲の「ピアノのために」の第2曲サラバンドを思わせる佳曲であるが特に新しいものは感じない。第3曲「運動」(Mouvement) はなつかしい。大学時代に下宿でこれをカセットでよくきいていた。ライブだったがあれは誰の演奏だったのだろう。

 

ロベール・カザドシュ(pf)

zaP2_G6231773WこれをCD化してくれたのは快挙だ。カザドシュ(1899-1972)はラヴェルもいいし、セルとのモーツァルト協奏曲も愛聴している。これほど僕の「墨絵」のイメージに合う演奏はない。もっとうまい人はいくらもいるしもっと色彩感のある演奏も録音のいいディスクもある。しかしこれは「時代の匂い」する。こういうものはどうしようもない。ペダルを抑えた味わい深いタッチはこれぞドビッシーだ。アラベスク2番やゴリウォーグのケークウォークを聴けばそれがわかる。

サンソン・フランソワ(pf)

813フランソワは(1924-70)即興的な味があって好悪が分かれるが、この曲では僕は好きである。あらゆるフレーズがしなやかで均等な音で弾きこまれ、曲想の起伏は波のうねりのように自然で大きく、ここぞでの打ち込みにまったく不足がない。第3曲などほんとうにうまい。カザドシュよりペダルを使ってバスを強調した「ラモー讃」はタッチの切れ味も良くインパクトがある。フランソワの絶好調の記録の一つと思う。CDは録音がいまひつだったのでSACDを買いたい。

 

フランソワをお聴きいただきたい。

 

ユーリ・エゴロフ(pf)

5099920653125第1曲「水の反映」(Reflets dans l’eau)だけだが、えも言えず美しい。ホモだったからというわけでもないだろうが、この人のドビッシーは危ないほど繊細、鋭敏でデリケートなタッチであり特異である。こういうのに出会ってしまうとあれこれ言うだけ野暮だ。いくらメカニックを鍛えても普通の人にはできないというものはある。センスの領域だから仕方ない。エゴロフはタタールの人だが、中央アジアからは大変な天才が多く出ている。東西の遺伝子が混ざった地域の特性なのだろうか。

(こちらへどうぞ)

ドビッシー 前奏曲集第1巻 (Préludes Livre 1 )

 

 

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Categories:______ドビッシー, クラシック音楽

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