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ピケティの新・資本論について

2015 FEB 1 6:06:13 am by 東 賢太郎

トマ・ピケティの新・資本論がはやっているらしいので「パリ白熱教室」(パリ経済学校講義4時間分)を聴いてみた。お断りするが僕は資本論はなんとなく雑駁に読んだが「21世紀の資本」を読んだわけではなく、それのつもりで内容を見ずに「新・資本論」(日経BP社)の方を買ってしまって仕方なく読んだが、天声人語といい勝負の軽いコラム集みたいなもので、カサは厚いがたいして意味のない書物であった。ああ損した。

講義は所得と富の分配についての考察である。それが不平等であり機会均等とはいえない水準に達して世襲されているのは問題だということだ。正直のところ別に目新しい話とも思えないが歴史として聴くと面白かった。しかし何かインプリケーションがあるかというと、ヒストリカルデータを小まめに取ったという学術的価値はあるのだろうが、僕にとっては直感をやっぱりねと追認されただけ。「上位1%が国の総所得の25%を占めている」という指摘が何を今さらなのか大うけにうけて米国でベストセラーになって、「アメリカ人が騒いでいる」といって騒げば物がよく売れる特殊な国である日本国でブレークした麻疹(はしか)現象という印象である。来年の今ごろは名前も忘れられているだろうと予測する。こういうのが突然流行ったりするのもデフレの産物だなと思料。そのデフレを助長して株をお見事に7000円まで暴落させた政党の党首がこれを担いで安倍政権批判をしているのを見るとマッチポンプという言葉が浮かんでくる。ちなみに翻訳のせいかもしれないが、ピケティのいう「資産」と「資本」という用語の定義が厳密にいうとよくわからないことを書いておく。

彼の主張の根幹をなす式がこれだ。

r-g>0

それは結構だが、r(資本収益率)の過去のデータ収集のご努力には敬意を払うとしても、現在の r はどう測定しているのかさっぱりわからない。これが絶えず変動するのは金融の世界の常識であり、過去がどうあれそれが予測できないからフィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズは「ブラック・ショールズ・モデル」でノーベル経済学賞をもらったのであり、そのショールズ先生が経営関与していたヘッジ・ファンドが98年のロシア金融危機で大損して倒産に追い込まれたのであり、資本家は常に配当、利子、賃貸料、キャピタルゲインで潤っているようにお気軽に説明しているがそんな簡単なものと思っているなら彼の理論は机上の空論でしかない。それらはすべて金利の関数であり、それが世界の中央銀行総裁が困るほどゼロに近い現状では r もかなり低い状況にあるはずであり、そうでなくては疑似資本と考えられる超長期金利(10年以上の長期国債利回り)が世界中で歴史的に異常な低率になっているという、観測データのある限り人類史上初の現象は説明できないであろう。できるなら反論していただきたい。さらに疑問なのは、彼はここで資本収益率の背景にあるリスクとの相関性に言及していない点である。資本を持っていればノーリスクでどんどん増えるなどとまさか彼は思っていないだろう。それを言わないなら、彼がどんな読者や聴衆をターゲットにこの論をぶとうとしているかうっすら意図が見えてくる気がする。はっきり言ってしまえば我が国の民主党と変わらないレベルという所だ。

 

講義でピケティが「rが常に高い」と説明している論拠はこうだ。

①「君たちが銀行に10万ユーロ預金してもハーバード大学年金基金の得ている年間10.2%という収益率は得られずインフレで目減りしてせいぜい3%だろう」        ②「彼らの投資対象はデリバティブやサブプライムローンのように複雑な金融商品だ」                                                   ③「資金の運用には規模の効果もつきものだ」                         ④「ハ-バード基金は1億ドルだがその管理に0.3%も払っている」            ⑤「だから資産運用に長けたマネージャーも雇える」                    ⑥「金融市場の規制緩和は金融収益の格差を拡大し今日の資産格差を生み出した 理由の一つだ」

反論

①インフレで目減り?いま欧州はデフレでしょ                                                ②サブプライムが投資対象?だったなら彼らは大損こいてr<0でしょ             ③だから少額でも買えて規模の利益もみんなで得られる投資信託があるんでしょ                                  ④マネジメントフィー0.3%?ならば「も」じゃなくて「しか」ですよ(笑) ⑤資産運用に長けたマネージャーが損してるケース(r<0)もいっぱいあります                                                                  ⑥規制緩和が生んだ金融商品で最も損したのは銀行と大手投資家(資本家)でしょ

 

ということで、この講義が2011年のものだったならこの先生は資本主義の未来は予測できるが2、3年後の未来に欧州がデフレになることは予測できなかったということであり、②に至っては失笑するのみだが、さらにちょっとだけ真面目に申し上げれば、彼がHarvard Endowments (ハーバード大学基金)のことを言っているなら運用額は少なく見ても2兆円を下回ることは絶対にない。そんなことぐらいはフランス人を含む世界の金融マンの常識であって、1億ドル(約100億円)などという天文学的に見当違いな数字を純真な学生相手に持ち出しているところなど、この人がいかに数字に鈍感で金融に無知か、いやもっと言ってしまうと、100億円が天文学的に巨大な金額だと無意識に信じこんでいる世界の住人としてその世界に向けてしゃべっているということを図らずも露呈していると思われる。規制緩和で生まれたわけのわからない金融商品で儲けているのはけしからんといいながら、30万ユーロ(0.3%の管理費用)を出せば優秀な運用者を雇ってそれで儲けられるのになどと支離滅裂なことまで言っている。ちなみに、2兆円を運用するのに30万ユーロぽっちで雇えるマネージャーが詐欺師でもNPOのボランティアでもなく資産運用に長けたマネージャーであると言って同意する資産運用のマネージャーは100万人に1人もいないだろうが、彼はハーバード大学の運用資金量を200分の1とカン違いしているのだという前提に立って好意的に見ればそれは事実と整合的な運用コストという結論に達するだろう。本質は完全に左だがそう見えないよう右寄りに塗固しようと慣れない努力を試みるから馬脚が出るのであって、老婆心ながら資本論をちゃんと読んで堂々と左宣言すればよろしい学者だと思料する。誰が呼んできたんだろう?

僕が「21世紀の資本」を読んだわけではないことを再度お断りする。そこに上記の点について論理的、実証的に満足な説明がなされているなら忘れていただきたいが、仮に r-g>0が有史以来の歴史的事実だったとしても、今は歴史的事実が事実でなくなったかもしれないという歴史的事実が発生している世の中なのであって(だから彼は人気者に祭り上がったのだろうが)、旧来の歴史的事実が何千年何万年続いていようがそれに基づいて処方箋を書きましょうというのはナンセンスである。90才で癌で入院した患者に健康だった89才までの人間ドックのデータで薬を出しましょう、今まで死んでいないのだからあなたは永遠に死にませんよというようなもので、学者がこんなことを言ってるからECBの量的金融緩和が大変な後手に回って欧州は癌が進行してしまったのは気の毒でならない。20年の入院、闘病で癌を克服しかけている先輩国・日本に出稼ぎに来て心配までしてくれなくていいから、早くクニに帰ってドラギ総裁にその制癌剤は間違ってますよと言わないとキミの国のほうがよっぽど大変なことになるよというのが彼の議論の筋だろう。

少なくとも講義を聴く限りの結論はこうだ。

・「米国の上位10%の資産保有シェア90%はフランス革命時点のフランス並みだ」というご発言のとおり、左のフランス人らしいなあということ

・官僚国家フランスの学者、インテリの投資の知識が、米国は言うに及ばず恐らく中国以下であるという点において日本のそれに匹敵するということ

・こんな程度でアベノミクスがどうのといわれてもかなわんなあ、あんまり日本人をおナメくださるなよということ

・パリ経済学校がなんだか知らないが東大生に聴かせるべきレベルではないということ

私見

彼の講義で一つだけ共感したのは教育の機会平等である。大学進学率と所得の相関について述べているが、これも彼の高い本など買わなくても昔から言われていることにすぎないのだが、大きな問題と思う。

「米国人のおよそ4人に1人は地球が太陽の周りを公転していることを知らなかった」(ソース/AFP )

「日本の大学生・短大生の4人に1人が日没の方向を東と答え、地球の周りを回る天体として33%が火星、18%が太陽をあげ、42%が月の満ち欠けする理由は地球の影の影響とした」(ソース/Jキャストニュース)

という事実のほうがr-g>0なんかよりよほど驚嘆に値するのであって、彼らが別に天文学者を目ざすわけではないにしても、これが象徴する事態が収入格差の説明要因として甚大と思うのは僕だけだろうか。こういう状態で大人になってしまったり大学なるものに入学できてしまったりした上で、実は太陽は地球を回ってないんですよ、あなたはそれで損してるんですよと諭されてそうかそんなに不平等な世の中なのかと初めて思い始める教育しか国民の多くが受けられない世の中であるならば由々しきことであり、それこそが政府が心血を注いで是正すべき不平等の種である。この不平等が左翼政権になったり資産累進課税をしたりすると見事に解消されたという事例は僕は寡聞にしてただの一つも知らないが、その原因がピケティの主張するように親の年収格差にあるなら、国立大学は5科目受験を前提に授業料ゼロとして教育機会均等を図るべきである。

以上

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