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ドビッシー 「3つの夜想曲」(Trois Nocturnes)

2015 JUL 8 8:08:18 am by 東 賢太郎

僕は70年代のブーレーズのLPでいろんな曲を初めて知り、耳を鍛えられた者なので良くも悪くも影響を受けていますが、その後者の方がこれです。この曲が好きな方は多いでしょう。クラウディオ・アバドはこれが振りたくて指揮者になったとききます。

しかし、僕はだめなのです。どうも真剣になれない。「海」(第1楽章)と「牧神」はシンセでMIDI録音するほどはまりましたが、これはまったくその気なしです。随所に好きな、というか好きになっていておかしくない和声や音響はあるんですが。

IMG_8832cそれはおそらくブーレーズの演奏(右がLP)がつまらなかったせいと思います。彼も万能ではなくて、牧神もポエジーに乏しくていまひとつですが「夜想曲」はさらにそのマイナスが出ていて、音に色気、霊感がないのです。

ちなみに「遊戯」の冒頭部分などお聴きなってください、春の祭典の最初の数ページに匹敵する素晴らしさです。倍音まで完璧に調和するピッチ、精巧な楽器のバランス、神経の研ぎ澄まされたフレージング、聴く側まで息をひそめるしかない緊張感!

こんなに「そそる」音楽が出てくる録音はそうあるものではなく、これを今どき多くなっているライブ録音CDと比べるならプロ写真家の式典写真と素人のスマホ写真ぐらいの差があります。それと比較してこの「夜想曲」は同じ指揮者とオケ(ニュー・フィルハーモニア管弦楽団)とは信じがたい。

録音プロデューサーが海、牧神、祭典とは別人でテクニカルな理由もあるかもしれません。とにかくブーレーズを神と崇め、LPはどれも微細なノイズまで耳を凝らして聴かされてしまっていた当時の僕が何回聴いてもそういうことだったので、そこには何か峻厳たる理由が横たわっていたに違いなく、本稿はその関心から書いています。

「夜想曲」の着想はペレアスを書いている1893-4年ごろと考えられています。第3曲シレーヌ (Sirènes)にヴォカリース(母音唱法)の女声合唱があるなどその一端を伺えます。これはラヴェル(ダフニス)、ホルスト(惑星の海王星)などに影響したでしょう。

最も驚くべきは第2曲祭 (Fêtes)の中間部でppのトランペット3本を導入する低弦のピッチカート、ハープとティンパニがpppでおごそかな行進のリズムを刻む部分です。

nocturn

これは春の祭典の「祖先の儀式」(楽譜下)になったに違いないと僕は思います。

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こういう想像を喚起するだけでも「夜想曲」に秘められた作曲者の天才の刻印とその影響ははかりしれませんが、同時期の作曲でそれが最も認められるペレアスのスコアと比べるとこれは若書きの観が否めません。ぺレアスと同次元に達している管弦楽曲は「海」であると僕は確信します。

ということですが、全部ブーレーズに責任があるわけではなく僕自身が夜想曲のスコアからマジカルなものを見いだせていないということでもあります。いいと思うのはシレーヌの最期の数小節ぐらいです。主だった録音は持っていますし実演も聴いていますが、どうしても自分の中からは冷淡な反応しか得られない。

こちらはラヴェルによる二台ピアノ編曲で、僕はこっちの方が好奇心をそそられ満足感が高いです。

(補遺、15 June17)

そのブーレーズCBS盤です。これも発売当時の世評は高かった。僕の趣味の問題かもしれず、皆様のお耳でご検証を。

音響的にゴージャスで耳にやさしいのはシャルル・デュトワ/モントリオール響の録音でしょう。これが世に出た80年代初期、ちょうどLPからCDに切り替わる時期でクラシックのリスナーにとっては革命期でした。CD+デジタル録音というメディアにまだ一部は懐疑的だった世評も、このデュトワの見事な音彩とDeccaの技術によるアナログ的感触は批判しきれなかったと記憶します。

ドビッシーというのはラヴェルに比べてフランスの管と親和性が希薄で、ロシアはさすがに抵抗があるがドイツ、中欧のオケでもいいものがあります。クリュイタンス/パリ音楽院管やミュンシュ/パリ管の艶っぽい管に彩られたラヴェルを信奉する人たちからもドビッシーでそういう主張はあまりききません。ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管(ACO)のこれはその好例で、名ホールの絶妙のアコースティックが見事にとらえられ、ほの暗い音彩で最高にデリケートで詩的な管弦楽演奏が楽しめます。ノクターンの夜の質感はフレンチの管でなくACOの方に分があると僕は感じます。技術的にも音楽性も最高水準にあり、ハイティンクという指揮者の資質には瞠目するばかりです。ちなみにこれの発売当初(1979年ごろ)、日本の音楽評論家は彼を手堅いだけの凡庸な中堅指揮者と半ば無視していたのでした。

(補遺、17 June17)

ヨーゼフ&ロジーナ・レヴィーン(pf)

モスクワ音楽院ピアノ科の金メダリストはアントン・ルービンシュタインからの伝統の系譜、ロシア・ピアニズムの真の後継者です。このご夫妻は両者がそれであり、僕にとってレジーナのショパンP協1番はあらゆる録音でベストです。これはラヴェル編曲の「祭り」で黄金のデュオの音彩は見事の一言に尽きます。

(参考)

ドビッシー 交響詩 「海」

ストラヴィンスキー バレエ音楽 「春の祭典」

 

 

 

 

 

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Categories:______ストラヴィンスキー, ______ドビッシー, クラシック音楽

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