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シェーンベルク 室内交響曲第1番ホ長調 作品9

2016 MAY 22 10:10:26 am by 東 賢太郎

子供のころ、目をつぶってまぶたの上から目の玉を指でぎゅっと押していると赤や青や黄色の点がたくさん立体的に見えてくる、あれが星雲の散らばった宇宙みたいと思っていた。

それが宇宙であるはずはないが、しかし我々の体は宇宙にばらまかれた星の残骸でできているのであって、何かが何十億年の残像として脳内で感知されているのかもしれないと今になっても思ってしまう。

音楽というのは目の玉でなく耳から入る音が作って見せる脳内宇宙だ。いや、ここでは色ではないが、いままで耳に蓄積したいろんな音が今きこえてくる一音一音に共鳴してやっぱり赤や青や黄色の点の立体みたいなイメージの星雲を作る。

220px-Arnold_Schoenberg_la_1948初めて聞いた時に、そういう色の点々が散り散りに空間に放たれて、すばらしいバランスでプラネタリウムの天井にはりついて光ってるみたいな感じを抱いた曲がある。シェーンベルクの表題曲だ。

弦5部が全部ソロとした15の楽器のアンサンブルはワーグナーの「ジークフリート牧歌」の編成にイングリッシュホルン、バスクラ、コントラファゴットを加えトランペットを引いたもので、交響曲としては異例だ。きわめて精緻な対位法と斬新な響きに満ちたこの音楽が1906年の作というのは重要だろう。その年にマーラーはまだ交響曲第8番を書いていた。ストラヴィンスキーは25歳でまだ火の鳥も書いておらず、同じころに書いた交響曲第1番変ホ長調は両者の立脚点の違いを如実に示す。まずそれからお聴きいただこう。

なんだこれは、チャイコフスキーかボロディンじゃないか?というものだ。ドビッシーすら聞こえてこない純ロシア人時代がストラヴィンスキーにはあった。

そしてこちらがシェーンベルクの室内交響曲第1番ホ長調だ。

序奏に続くホルンの4度を4つ重ねる印象的な主題で幕を開ける。

schoen

これを含む主題群が有機的に展開するさまは、これがドイツの保守本流の系譜にある「交響曲」であることを物語る。マーラーが8番で管弦楽の肥大化という当時の常識だった路線の極点に達したのとは対照的に、彼はデビューにあたってブラームスが選んだ古典の枠組みへの回帰という路線を選んだ。

それが同じ年の出来事というのが象徴的だ。マーラーに至るオーケストラ編成の巨大化の祖であるワーグナーが意図的に小編成で書いたジークフリート牧歌を範とする小編成で、しかも交響曲という枠組みの曲を書き示したところに32才のシェーンベルクのステートメントを見る。

この曲がベートーベンに始まりブラームスで極点に達した主題労作による精緻な対位法の音楽であることも重要だ。それはバッハに起点のあるドイツ音楽の原点であり、ストラヴィンスキーが色濃く和声音楽的であるロシア五人組を祖としたのとは精神的基盤が全く違う。

後世の作曲家にとって、特にドイツとロシアの作曲家にとって、交響曲を書こうとした場合にこの曲が避けがたく視野に入ったことは想像に難くない。オルフは対位法やフーガではもう書けるものはないとした。ショスタコーヴィチは交響曲を書いたが、彼はマーラーの影響を受けつつも、僕はここに第5交響曲の第1楽章に引用されたかもしれないと思っている部分を聴く。

シェーンベルグは後年にこれのフルオーケストラ版を作ったが、原曲の方が圧倒的に良い。これは対位法音楽であって、15の楽器の線が対等に浮き彫りになって初めて赤や青や黄色の点の立体が体感できるからだ。これはまだ調性音楽だが、その「対等」という概念がドデカフォニー(12音技法)を生んでいく。

 

ピエール・ブーレーズ / ドメーヌ・ミュジカル・アンサンブル

schoenbこの曲を覚えたのは大学時代に買ったこのLPであることはピエロ・リュネールの稿に書いた。これに色を見ていた。今聴くと線としての各声部が細部の音型まで磨き抜かれ、あまり和声音楽的に処理していないのが面白い。これが初演時に聴衆に衝撃を与え非難の嵐だったことを彷彿とさせる演奏だ。CBS盤(アンサンブル・アンテル・コンタンポラン)は緻密でより前衛的に響く。

 

ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ 南西ドイツ交響楽団

CDX2-5529後期ロマン派の延長としてとらえた風情の演奏で、各楽器がうねるように歌い、濃厚な情緒を感じさせる。ブーレーズがそぎ落とした人肌の側面をこれほど盛り込んだ演奏はきかず、そちらとは反対に非常の和声的な音楽に聞こえるから演奏とは面白いものだ。主題を奏する楽器の色彩が原色的で、これは作曲者が楽器編成の配置図までスコアに書いた意図をよく表している。この色彩の天空への拡散を味わうのは楽しい。いま最もよく聞いている演奏はこれだ。

 

シェーンベルク 「月に憑かれたピエロ」

 

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