クラシック徒然草《シェイナのドヴォルザーク5番》
2016 SEP 30 23:23:29 pm by 東 賢太郎
カレル・シェイナ(左、1896-1982)はターリヒ、クーベリック、アンチェル、ノイマンより知られていないが、僕が大好きなチェコ・フィルハーモニーの名匠である。
どことなくマスゾエさんみたいな容貌だがそれは忘れよう。この人はキャリアを通して副指揮者で不遇にも見える。しかしそれはオーケストラ・トレーナーとしての実力の証で、実際彼の指揮はピッチ、リズム、フレージング、音色美など演奏の「ミクロ」が筋肉質に練り上げられていて、楽員からの信認が厚かったそうだ。まぎれもなく僕の好みにぴったりの指揮者だ。
第5交響曲は彼の美質を余すところなく伝える名演である。出だしは春の風のようにかぐわしい。クラリネットのはずむ木霊のような主題が森の中の自然に溶け込んだようにようにうきうきさせてくれるのはどこか8番に通じるものがある。弦で提示される第2主題は陰りを帯びるが、ここでもすばらしいリズムとタンギングの木管が気持ちを明るく包みこむ。
第2楽章のチェロの物憂げな旋律がこれまたとろけるような中欧の音色である。チェコ・フィルの木管群がそれにぴったりの極美でチャーミングな音を奏でる。ドヴォルザークはこれでないといけない。ここでもうお気づきと思うが、このオーケストラは全楽器、特に木管が絶妙のピッチで鳴らされており、有無を言わせぬ美しさで彩られているのである。
スケルツォは伴奏のホルンの和音が薬味で効いており、見事なアンサンブルを聞かせる弦はエッジが立ちながらも全体にまろやかさが支配する。短いフォルテでホールに漂う残響(!)はあの本拠地ルドルフィヌム(ドヴォルザーク・ホール)そのものだ。1952年、チェコが東欧だった時期のスプラフォン録音だがこのころのモノラルは優秀だ。
終楽章はものものしい曲想で始まるが、ここでも完璧なピッチと筋の通ったリズム処理で濁りのないアンサンブルが感涙ものである。僕はそれだけでもどんなオケであれ音楽の感興をいただくことになる。この時期の東欧はそういう価値観の音楽づくりをしていた。近年のケバくて大音量主義の後期ロマン派に毒された演奏は、聴衆の好みに添ったものとはいえ、いかにも趣味において劣る。
この他にもドヴォルザークのスラヴ舞曲集、モーツァルトのプラハ交響曲も一聴に値する名演。あまり知られていないのが惜しい。
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