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クラシック徒然草《ニコライエワの平均律クラヴィーア曲集 第2巻》

2017 JAN 25 1:01:06 am by 東 賢太郎

ギターでは出せない和音があると知ったのは高1の時でした。それはストラヴィンスキーの火の鳥の終曲です。どうしても自分の手で鳴らしてみたかったのです。仕方なく小遣いを貯めて1万円以上する指揮者サイズの原典版オーケストラスコアを神保町の洋書店で買って、その部分の音符をピアノで弾いてみてわかったのです。

そこからしばらく見よう見まねで練習し、弾けたのはバッハのインヴェンション1番と火の鳥終曲だけでした。それがきっかけでピアノはすごいということに目覚め、自分でハノンをやっていい加減な指使いでモーツァルトやベートーベンも適当にさらったりしました。

結局、習ってないわけですからそれ以上は上達せずです。ただ、だんだんそうするうちに自分は弾くことより音楽の構造分析の方に興味があるということがわかってきました。長調が明るい、短調が暗いと感じるのはなぜか?そんなことが解明できないのだから第九を聴いてどうして人が感動するのかなど遠い道のりです。それを解明したいと思ったのが音楽にのめり込むきっかけでした。

オーケストラスコアをピアノ譜にリダクションしたり、ピアノ的な眼で見るというのが面白くて熱中し、シンセでオーケストラを演奏するようになりました。ダフニスとクロエの夜明けが相当音を落としてもそれらしくピアノで弾けることに感動したし、そういうことを通して楽曲のストラクチャーや和声構造がわかるようになって音楽がちょっと違う次元で聞こえるようになったかもしれません。

ピアニストにはハマりました。彼らは演奏家であると同時に指揮者でもあります。つまり自己完結した完璧な音楽家です。指揮者がどう音楽を作りたいかはオーケストラという他人の手を借りてしか音にできませんが、ピアニストはどんな複雑な曲でも自分だけの手で思うままに表現できます。その人のソウル(魂)にふれるという意味で、大変完成度の高い表現形態であることに惹かれました。

畏敬するピアニストは何人かいますが、ピアノ演奏の深遠さを学んだのはタチアナ・ニコライエワのバッハ平均律クラヴィーア曲集 第2巻です。

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これはなにか犯し難い人間の尊厳を漂わせ、ひたすら高貴な音で訥々と綴られた一編のドラマなのです。バッハがどうしてこんなに生き生きと歌えるのか、レガートで弾けるのか、オーケストラのようなソノリティが出るのか、現代のコンサートグランドのバッハでどうしてこんなに深みのある低音が響くのか?高度な技巧なのにまったくそれを感じさせない。聴くたびに何かいただいて、少しだけバッハの精神に近づけるような気がする僕には特別の存在です。

51s-QrQq3EL._SX347_BO1,204,203,200_若いころショーペンハウエルの幸福論をむさぼり読んで人生が少しだけ分かった気になった。いまや恥ずかしいばかりの甘酸っぱい思い出なのですが、それでも「本はばかになるから読むな」、「孤独こそ人生の理想の姿」など僕の精神にストレートに入って深く影響する言葉が残っているのは驚くばかりです。ワーグナー、ニーチェ、R・シュトラウスが傾倒した哲学はとくに難解ではなく、「腑に落ちる」から残ったのだと思います。ニコライエワの平均律はどこかそれに似て、お腹にずしっと響いた感じでしょうか。

 

なぜ第2巻かといって意味はなくたまたま聴いていただけで、第1巻も同等に素晴らしい演奏です。音楽に人生を求める必要はありませんが、ピアノ音楽の深みを知る意味ではこれはショーペンハウエルの滋味に似たものがあります。

 

 

J.S.バッハ 「ゴールドベルク変奏曲」

 

 

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