Sonar Members Club No.1

日: 2017年2月2日

噛まないライオン(米中もし戦わば)

2017 FEB 2 22:22:57 pm by 東 賢太郎

トランプのブラフ戦略は続きます。最大の敵である中国とはチキンゲームになるため、張子の虎ではないぞのデモンストレーションが必要です。敵ではないがそこそこ存在感のある日本、豪州は格好のたたきのターゲットでしょう。それに一喜一憂する必要はないと思料いたします。

中国は中国で同じく示威を行います。昨年末の空母・遼寧の太平洋航行は記憶に新しいところです。

ryounei

遼寧が第一列島線(地図の左のライン)を越え、西太平洋で訓練するのは初めてです。ウクライナ船のお古で大したことないという声もありますが、上海でも三隻目の空母を建設しているとされ、遠洋航海と訓練、装備検査の役割を分担できるため、中国の戦略的運用能力が拡大するといわれます。

china

遼寧が第一列島線をクロスしたのは宮古島と沖縄本島の中間です。危機感を懐きます(西表島(いりおもてじま)紀行)

ここに登場したトランプですが、きっと正義の味方だ月光仮面だスーパーマンだとそこはかとなく期待されている空気もございます。本当にそうでしょうか?我が国が懸念すべき究極のリスクはここに記しました(トランプに想定する最大のリスク)。万一こうなると、日本経済はおろか、国防上の不安は戦後最大警戒域となるでしょう。

そう、我が国は『嚙まないライオン』なのですね。かつては北方の白熊を倒した百獣の王でしたが、いまや捕獲され牙をぬかれ爪も切られ、「大丈夫です、噛みませんから」がサーカスのウリになってる。図に乗って頭を2,3発なぐって逃げる「ヒーローごっこ」が最近は近所のガキのブームとなっているようです。

lion

「少しは野生に返してやったらどうだ」なんて声もあがりますが、なんとライオンに食わせてもらってるサーカス団員のピエロや猿回しにライオン嫌いがたくさんいて、そんな声をつぶしにかかるのです。

まあサーカスで芸達者になってエサが増えたのはいいんですけどね、でかい虎が見下ろしてるのにこれはないんじゃないでしょうかね。

lion1

tiger推薦図書

「米中もし戦わば」

非常に面白い。著者はトランプが国家通商会議(対中政策の目玉として新設)の代表に選んだカリフォルニア大学アーバイン校のピーター・ナヴァロ教授。ちなみに本書の原題は、

Crouching Tiger

(うずくまった虎)

もちろん中国のことです。

 

 

(こちらへどうぞ)

金正恩のさらなる高笑い

 

金正恩の高笑いが聞こえる

 

 

 

 

 

 

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メシアン「8つの前奏曲」と「おお、聖なる饗宴よ」

2017 FEB 2 11:11:07 am by 東 賢太郎

僕がメシアンに興味を持ったのは音と色彩の共感覚への関心からです。以前にブラームスのクラリネット・クインテットの稿で書いたものですが、

「僕の色覚が他の人と共有されていないのであくまで自分が知っている色としての話になるが、レ(D)の音(これをブラームスのヴァイオリン協奏曲の出だしの音と覚えている)はオレンジ色、 ミ♭(E♭)の音(これをシューマンのラインの始めの音と覚えている)は青緑色のような気がする。こういうのを共感覚と呼ぶらしいが、12音のうちこの2音しかないからそういうものではないだろう。ただニ長調、変ホ長調にはその色がついて見える。 ニ長調の並行調であるロ短調を主調とするこの五重奏曲はクラリネットの質感(クオリア、これも赤色系の暖色だ)によってオレンジ色が増幅されて感じる。それがこの曲特有の粘着質のコード・プログレッションのクオリアを増幅して、こちらの気分と体調によっては誠に強い効果を及ぼしてくる。第2楽章はところどころで鳥肌が立っては消え、平静な鑑賞ということがかなわないことがある」

ということがあって、僕はこの五重奏を名曲と思いながらどこか敬遠してしまっているのです。「コード・プログレッションのクオリア」というのは非常に強い心理作用があって、正月に整理していた書庫から大昔に自分で作曲した楽譜が出てきて、書いたことも完全に忘れていたのを弾いてみると「強い作用」がある。そういう、ある意味客観的に、まったく恥ずかしい話なのですが和声の化学変化の発見メモとして自画自賛の心理になっています。

メシアンが子供のころクリスマスにもらったドビッシーの「ペレアスとメリザンド」のスコアをボロボロになるまで読み込んだのは有名ですが、このスコアは僕も尋常ならざる何ものかを感じており、このビデオでメシアンはオペラ冒頭主題を二カ所弾いて最初を「灰色がかった紫」、二つ目は「青みがかったオレンジ」といっています。貴重な証言です。

青緑色の変ホ長調の曲を僕は異常に好きであり、モーツァルトが39番をニ長調で書いていたらどうだったろうと思いますが、恐らくそういう理由で半音低い古楽器のオレンジの39番は忌避しているわけで、同じ評価はしなかったかなと思います。ブリュッヘンは同曲の尊敬できる解釈者でしたが、それが理由で実演をあんまり集中して聞けなかったのが残念でした。

「トゥーランガリラ」、「彼方の閃光」になぜ妖しい魅力を感じるかというと色彩の嵐を感じるからです。前者の生々しいライブをロンドンで聴いて「脳に電極をさしこまれて色を見る感じ」とつぶやき、先輩が「おい、こわいな」と漏らしたのを覚えています。そうとしか表現できない感覚があって、そういう音楽はメシアン以外にいまだに出会っていないのです。

彼の発想の根源にドビッシーがあるのが興味深い。プレリュードⅠ・Ⅱ巻は万華鏡のような色彩の嵐ですが、その脈絡でメシアンを聴く、つまり三和音の耳を断ち切って空虚な頭で色だけを追うとだんだん違う世界が見えてきます。少々の慣れはいるのですが、とにかく聴き込めばいい。ここへ至ると豊穣な果実が得られるのは驚くばかりです。

ブーレーズはメシアンの弟子でその色彩を受け継ぎますがルネ・レイボヴィッツが指揮したシェーンベルクの木管五重奏曲作品26を聴いて衝撃をうけセリーに入っていきます。両者が合体してル・マルトー・サン・メートルができた。アフリカ、ガムラン、日本のスパイスが混入するのもドビッシー、メシアンの末裔ゆえですが高等数学をやった感性で独自の異界の色彩へと進みます。

末裔が出たのは彼らの色彩を技法化するメソドロジーに普遍性があったからです。それをお示しするのが以下の若書きの2作品であります。

メシアンがプレリュードのスコアからくみ取った色彩、彼が受け取った「強い作用」の痕跡はまずこの20才の作である「ピアノのための8つの前奏曲」に残っています。第1曲にはペレアスが聞こえるのが興味深い。

もうひとつ、ドビッシー夜想曲に「楽器」として女声が使用されるように声のクオリアは両者の和声表現に好適に思えますが、代表作にそれほどは使われなかったのも面白い点です。ドビッシーの歌曲とペレアスは音韻(フランス語)と一体化した独自のものですが彼自身それ以上は踏み込まずシェーンベルグがピエロで画期的な新領域を開きました。

メシアンがペレアスの詩的コンテクスト、音韻にどこまで反応したかはフランス語がわからない僕には不明ですが、オルガンを楽器とした点で違う道を行った彼には声はピアノ、打楽器と同様に単色の楽器であり、神性の領域ではむしろ不要だったと推察しております。

29才の作である「おお、聖なる饗宴よ」(1937)はドビッシー「シャルル・ドルレアンの3つの歌」の豊饒な和声の世界がエコーしてきこえます。メシアンの和声感覚の個性が声だときわだって感知できるのは非常に興味深く思います。

この2作はパリで進化した「色彩の系譜」の原点に当たるものとして注目しております。ここからセリー、偶然性等の技法の進化に囚われず色彩を極める作法が出なかったのは不思議なことです。それだけメシアンの天才が抜きんでていたということでしょうが、キリスト教の神の法則の支配に必ずしも服さない日本人、たとえば武満がそれに近かったでしょうが、その系譜が栄える可能性を十分感じます。まだ美しい音楽がそれで書けそうな気がするからです。

(ご参考)

メシアン トゥーランガリラ交響曲

ブーレーズ作品私論(読響定期 グザヴィエ・ロト を聴いて)

シェーンベルク 「月に憑かれたピエロ」

ストラヴィンスキー バレエ・カンタータ 「結婚」

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