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今年の演奏会ベスト5

2017 DEC 29 23:23:11 pm by 東 賢太郎

去年はシベリウス・イヤー、今年はメシアンだろうか。僕にとって2017年は苛酷な年だったがどんな時でも音楽は心の支えだった。作曲家が楽譜に閉じ込めた「気」、そして演奏家がそれを解き放つときに放つ「気」。それをライブでシャワーの如く浴びる。ある時は慰撫・陶酔であり、ある時は叱咤であり、ある時は冷たい滝に打たれるが如しだ。

メシアンで感じた。演奏会で音として聞こえてくるのは音波という即物的なものである。しかし同じほどの圧をもって五感でなく六感に迫ってくるのが、時に100名にもなるオーケストラ奏者たちのシンクロナイズされた「気」だ。物質ではなくスピリチュアルな波動である。2千人の聴衆が酔えば2千倍に増幅された「幸福の気」がホールに満ちることになる。非日常体験であり人工知能に置き換わることのない、人間だけの営みだ。

「幸福の気」に包まれることで人間はなにがしかが変わるだろう。第九なら悪人だって自分を忘れて善人になった気がするかもしれない。魔笛なら人の命を愛する優しい人になった自分にびっくりするかもしれない。そして、それを長く続けていれば、ひょっとして人格まで変わるのではないかと感じる。根っからの善人は滅多にいないが、音楽は一瞬なりとも、そういう自分が自分の中にいることを気づかせてくれる魔法の鏡である。

 

《今年の演奏会ベスト5》

 

第1位 ロジェストヴェンスキーのブルックナー5番 (読響定期)

スクロヴァチェフスキーの代打だったロジェストヴェンスキー(どっちも長い)。妖術的な指揮にいささかの衰えもなく、彼のオーラで燃え上がったオケの気が音楽に籠った気とシンクロして未聴の高みに。アムステルダムで聴いたヨッフムと並ぶ5番であった。

第2位 メシアン 歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」(読響定期)

一生に一度もの。本公演と「彼方の閃光」を体験してやっとメシアンの深淵に触れられた気がしないでもない。読響がカンブルランを連れてきたのは正解、我が国クラシック界の壮挙となるかもしれない。

第3位 ハイドン 交響曲第98番、モーツァルト ピアノ協奏曲第25番、交響曲第41番(田崎瑞博指揮ライヴ・イマジン祝祭管弦楽団、ピアノ吉田康子)

「幸福の気」が会場に満ちた素晴らしい音楽体験。ハイドン、モーツァルトに、そしてふたりの絆を見事に音にして下さった演奏家の皆さまに心より感謝。

第4位 ショスタコーヴィチ交響曲第4番(読響定期)

カスプシクの読みが深く、この曲の仕掛けがおおよそ解明された観。この延長線上に後の11曲が続いたなら音楽史は変わっていた。

第5位 マーラー交響曲第1番(N響定期)

ファビオ・ルイージに降参。耳タコの同曲に目からうろこの思い。指揮ってこんなことができるのか、面白いなあと記憶に刻まれる。

(番外)

べルク ヴァイオリン協奏曲、ルル組曲 (N響)

クララ・ジュミ・カン(Vn)、モイツァ・エルトマン(Sop)に感銘を受ける。下野達也が振るとベルクの音楽に起伏が現れ新鮮であった。

ドニゼッティ 歌劇「ルチア」(新国立劇場)

3月に次女と聴いたが、母が危ないころでブログにもならなかった。狂乱の場、グラスハーモニカの生音を初めて聴いたのは良かった。曲はまあ僕にはお呼びじゃないがイタリアの空気が清澄であった。

チェコ・フィルハーモニー演奏会

アルトリヒテル指揮で2日とも聴くが交響曲第8番はたいしたことなく、アリス・オットの皇帝、ブラームス交響曲第4番も期待したほどではなし。一つだけ、ケラスの弾いたドヴォルザークのチェロ協奏曲が心にしみた。なんていい曲だ。

 

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