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ソムリエにワインを替えさせる方法

2018 FEB 21 23:23:16 pm by 東 賢太郎

76になられる某社会長と代官山の「パッション」で会食。9年連続ミシュランで星のフレンチレストランでオーナーシェフのアンドレ・パッション (André Pachon)氏はフランス共和国よりコマンドール勲章、レジオンドヌール勲章をもらっている日本のフレンチ界の草分けだ。

会長はフランス在住歴5年でMBAも取得された大先達で、含蓄の深いお話をうかがってあっという間に時間がすぎた。なかでもこれが面白かった。

「パリで同僚のフランス人に、ワインのテースティングでは絶対にnonと言うなといわれましてね、でも一度だけやってみて替えさせたことがあるんです」

それを言うとソムリエが飛んできて「どこがお気に召しませんか?」とくる。注文しておいて文句をつけるのだから説明責任があるのだ。まず交換はできず雰囲気を悪くするし、「まずい」と言ったものを自分の客人に飲ませるわけにいかずもう一本注文する羽目になる。だからやめておけというアドバイスなのだ。

「何と言われたのですか?」

「僕はいつもこれを飲んでる。昨日も同じ年のを飲んだばかりだ。これはそれと比べて酸っぱいと言いましたよ」

これに反論するのは難しい。同じ葡萄から出来たワインの酸味は酢に近い結果だから、昨日のワインが今日のより劣ると主張する根拠がない。だからあなたの舌がおかしいと言うしかない。しかし「酸っぱい」のは子供でも分かる。アロマだブケだと煙に巻けない。しかもこの客は味を知って銘柄にこだわっている通だ。喧嘩を売ってオーナーにクレームされたらかなわんと考えた、邪推だろうか?見事な王手飛車取りだが、「いつもこれ」「昨日」「同じ年」という効果的な伏線が張ってある。ソムリエは得心して投了したと思う。

しかし彼もそれで飯を食っている。プライドは非常に高い。相手を見て押し切れそうならつっぱねるし若い人が彼女の手前で格好をつけて同じことを言っても、兄ちゃん青いねと撃退されるリスクは高いだろう。会長はフランス共和国よりコマンドール勲章を授与された名士であられるが、では勲章をもらえばそれができる威厳が身につくかというとそういうものでもなくて、やはり人間のにじみ出る風格とでも書くしかないものが備わっているかどうかが交渉力の決め手のように思う。

英国のコメディ、Mr.ビーンに、彼が食卓でマナーを知らず大失態を演じる爆笑シーンがあるが、英国人にとってもフレンチレストランはそういう面倒くさい場所なのだ。要は慣れ、経験がものをいう。遊び慣れた余裕というか、我が国なら京都のお茶屋さんでどうですかという風なものであるかもしれない。大石内蔵助は祇園一力茶屋で遊んで四十七士の吉良邸襲撃計画の目くらましをしたが、敵の欺き方としては最高にエレガントだ。大石ならパリでソムリエを説得できたような気もする。

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Categories:______気づき, 若者に教えたいこと

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