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僕が聴いた名演奏家たち(アルミン・ジョルダン)

2018 MAR 2 23:23:24 pm by 東 賢太郎

おにぎりは実に不思議な食べ物で、最近、食欲がなくても食えることに気がついた。茶碗によそうと多いなと思う分量でも握ってもらうとぺろりといけるのだが、ぎゅっと隙間がつまるから実は茶碗の方が米は少ない。どうしてそうなのか、いくら考えてもわからない。

しかも冷や飯でも具なしの塩だけでも良しときている。もっと不思議なのは、こんなうまい食べ物が外では出てこないことだ。コンビニの棚に無機質に並ぶ以外、そんなものを供してはいけないかのごとき冷遇を受けている。日本人にとって米は命なのに。足利義満の好物は湯漬けだったし、奈良時代からある鮒ずしの飯(いい)、僕は酸っぱいあれで冷酒というのが至福なのだが。

ところが最近、音楽も「米」になってしまったものがあると気づいた。バルトークの管弦楽のための協奏曲。高校時代から没入しているこれは一音一句記憶してシンセで弾いて録音もした。おかずではない、ご飯であり聴くと何時でも没入し十代に戻るが、しかし最近、逆にどの演奏でも満足できないという妙なことにもなってきた。何秒かごとに、違うなあ、そうじゃない、なんでだよ、となって、止めてしまう。

さきほどyoutubeでこれを聴いた喜びは、だから大層なものがある。アルミン・ジョルダンがスイス・ロマンド管をジュネーヴのヴィクトリア・ホールで振ったライブだ。

もう、まったくもって素晴らしいとしか言葉がない。4年前に書いた下のブログに思いのたけはつづったが、4年のうちにこっちの好みも変わってきて非常にこだわりのある終楽章のエンディングだけとっても満足なのはひとつもなくなってきた。ライナーも微妙なルバートがあるし、オーマンディーすらやや速いかなと聞こえだした。

ジョルダンのエンディングはまさしく僕の理想だ。何の奇もてらわないインテンポで安物のあおりは微塵もなく、ギリシャ彫刻のような均整と品格で決然と終結する。何度聴いても心が熱くなり、これを待ってましたありがとう!とひとりで何度もブラボーと大拍手を送っている。ストレスフルな毎日だが、お米になっているバルトークがどれだけほっとさせてくれることか、どれだけこの曲を愛してるか、改めてしみじみとかみしめる。

多くの方はこの演奏が何で?と思われるだろう。ショルティ / シカゴ響みたいなスーパーハイテクでもない、カラヤン / ベルリン・フィルのポルシェでぶっ飛ばす爽快感もない、第1楽章の金管なんて危なっかしいし録音もぱっとしない。なんにも豪奢なものがないからだろう、ジョルダンはエラート・レーベルにそこそこの量の録音があるがこの曲はない。なんともったいない。聴けば聴くほど滋味あふれる最高の演奏だ。なじみのない方はこのビデオを何度も聞いて覚えてしまうといい、レファレンスに値する演奏だ。

下のブログに書いたが1996年2月28日に彼とSROのラヴェルをこのビデオのアンティークな味わいのあるホールで聴いた。ジョルダンの指揮は全く芝居っけや外連味がないが、それでいてライブとして最高のラヴェルであり彼の名前は脳裏に焼きついてしまった。フランス物だけはない、彼のシューマン交響曲全集は好きだし、マーラー4番は数少ない愛聴盤だ。なぜ?地味だが素材のうまみをたっぷり引き出しているからだ。上等なお米のおにぎりなのだ。

しかし、これをCDにしても高級料亭の懐石料理であるショルティ、カラヤンより売り上げがあがったとは到底思えないのは悲しいことだ。よく耳を凝らしてお聴きいただきたい。完璧な技術で鳴らすのが良いオケだなどという主張は虚空に消えてしまうのであって、オーディオファンのいわゆる HiFi が良い音とは全然思えないのとよく似ている。それは商業的に宣伝で作られた「良い音」であって、そのキャッチコピーとともに耳に刷り込まれたブランドにすぎない。

僕はお米に昇格したこの曲を料亭カラヤンで食べようとは金輪際思わない。ブーレーズの新盤(DG)、バーンスタイン、チェリビダッケ、マゼール、小澤、ぜんぶお呼びでない、論外。二度と耳にする必要はない。指揮者が無用の芸当を披露してお粗末な味付けなどしなくても、この曲は新米の銀シャリのように滋味があるのであって、こうして普通に握ってもらえばおいしく食べられる。

 

バルトーク「管弦楽のための協奏曲」Sz116

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