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かつて見た最高のストレート

2018 MAY 12 0:00:23 am by 東 賢太郎

昨日今日は東京ドームで阪神、中日戦を観る。昨日は巨人が300日ぶり登板の内海であまり期待しなかったが、予想外の好投。やはり久々スタメンの阿部が第一打席で早々のスリーランで内海を援護しドームは一気に盛り上がった。7回は上原が抑え、一方の阪神も藤川が想像していたよりはるかに勢いのある快速球をなげ、福留がうまいなあという技ありのヒット。なんだかおじさんのリバイバルデーだったが、阿部が生まれた年に僕は会社に入ったんだ、言うことなし。

どうしてもピッチャーになるが、内海の快投は感動ものだった。先頭は三球三振。130キロ台のストレートに糸井やロサリオが押し込まれる。どうしてこんな投手が二軍にいたんだと信じがたいほど素晴らしい速球であり、スピードガンは目安にすぎないという証明だ。速いから出来ることだが若手は自分のペースに巻きこんで飲んでしまっている。それを見たバックが絶対勝たせようと気合いをみなぎらせる。最高のゲームでこちらも元気をいただいた。

そして今日の菅野だ。ヤクルト戦につづく2試合連続完封になったが結果だけでなく内容が激烈であり、およそピッチングで相手をねじ伏せるということに関してあれ以上のものはメジャーでも求めようがない。間近で見られた僥倖は人生そうはない。150キロのストレートは速球でなく剛球であり、見るたびに「凄い」とため息をつくしかない。僕は古い野球ファンだから投手は①完封が当たり前②ストレートで三振が当たり前、と思っている。完投など当たり前以前だ。6,7回投げていい仕事しましたねとかフォークやスライダーで三振なんぼとりましたなんていうのは、まったくクソくらえなのだ。

座席から(投手・菅野、一塁手・阿部)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いまや球界でまさしくその美学をキープして僕の留飲を下げてくれる投手は菅野以外にひとりも存在しない。②の人はいるがクローザーなんてお仕事ができてそっちへ行ってしまうから完投能力なんてない。①②を兼ね備えるなど現代では神業であり、則本と千賀がストレートの質としては良いものがあるが、投手の総合力として菅野の域にはとうていない。今日の菅野のボール、特に7回の1死2,3塁の場面で福田、藤井を連続三振に取った(取りに行った)球は人生で目撃した最高のストレートのひとつである。下位打者はエネルギーをセーブできる投球が光り、それでも意のままのコントロールで手玉に取って打てる気配すら皆無であった。速いだけではない、こういうワザも完投能力の必須の一部である。投手は速ければ良いというわけではぜんぜんない。むしろコントロールの方が先決であって、そのうえで速いから打てない。

あっけにとられるうちに2時間半で9回終わってしまった。被安打5、与四球1で121球投げたのは三振が7連続を含む13個(ぜんぶ空振り)もあったからだが5球で終った回もあり、ヤクルトと同じで追い込まれると打てないので中日も早打ちだった。インタビューで「絶対完封しかないと思っていましたし、1点とられたら意味がないので、あそこ(上述の7回)も意地を出しました」。菅野君、あの連続三振のストレートを僕は一生忘れない。このコメントひとつに、①と②が完璧に入っているではないか!君は巨人のエースなんかじゃない、日本球界最高のピッチャーであり、僕の理想の投手であり、やがてメジャーで完全試合ぐらいやってくれるだろう。

この日の東京ドームは入場者数が新記録だったようだがこれも菅野の力だろう。同行いただいたおふたりにも堪能していただき良い日になった。帰宅して、ファン感謝デーで菅野にサインをもらえと指示。神としてお守りにしたいからだ。

 

PS

この稿で意味がおおよそお分かりいただけると思います。そこに貼った2013年の稿に1行だけ新人時代の菅野の球に言及しています。ご参考まで。

高めのストレートは投手のプライドである

PS

帰宅してニュースで観た阪神・広島戦。先発の能見はかつてマツダスタジアムでCSでやられたり、あまり打った記憶のない憎きカープキラーであるが、きのうは初回に菊池、バティスタ、石原と3発ホームランを食らって2回で9失点とボコボコにされた。しかし能見のストレートは球速表示は147キロ出ていたのだ。菅野がばたばた三振を取っていたのは148キロである。スピードガンで速いの遅いの言っても意味がない、お分かりいただけると思う。

 

PS (ちょっとマニアックなポイント)

「1点とられたら意味がない」。それを見たのは9回、大島に3塁打を打たれた無死3塁だ。大島は第1打席で、バットを折りながら引っ張られてライト前ヒットだった。次の京田にも引っ張られて右飛、3番アルモンテは右翼フェンスまで引っ張られて危なかった。あれは投手として、嫌なものが残る。だから9回、大島に再度引っ張られて、さてどうするかは見ものであった。まず京田は渾身のストレートで空振り三振。あっぱれ。そうして、7回にセンターに2塁打されて9人中ひとりだけ「どうもあっている」感じのアルモンテを迎える。ここだ。変化球ばかりくさいところへ放り、打って凡打ならラッキーの攻めで結果はストレートの四球で歩かせる。直球はゼロ。これは小林のリードかな、ともあれお見事。

ここでの計算はたぶんこう。次の4番ビシエドは前の打席まで3-0、いまひとつあってないスライダーをひっかけさせてゲッツーに仕留めよう、それがはずれて四球で1死満塁でもいいや、6点差だからね(そこで坂本、吉川がやや前進守備をとったから多分当たっていた)。この計算は5番・福田、6番・藤井をストレートで三振に取れるという絶対の自信があるから成り立もの、僕はそういう仮定で投球の組み立てを想像していた。とするとビシエドの次はこうとなり次はこうで、結局空振り三振に取る。そして予定通り福田勝負となり、ツーストライクまでは変化球だ、直球は最後の1球にとっておいて絶対見せないはずだという読みになる。そのとおり初球が変化球、ところが追い込まれての三振を恐れた福田の方が2球目の予想通りの変化球を想定外にひっかけてサードゴロで試合終了という塩梅であった。僕らの席で変化球の種類まではわからないが、直球と変化球は球速表示でわかる。菅野程のコントロールの投手になると小林の配球も理詰めになり将棋みたいに読める。こんな投手はほかに知らない。あれだけ配球があたったのだから「3点やるリスクを冒しても、1点もやらない」というロジックでリスクリターンを計算しているはずという仮定も正しかったに違いない。エイや!と馬鹿力で放り込む愚鈍なピッチャーではない、頭もいい、本当に素晴らしい。

鎮 勝也著「二人のエース」について

 

 

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