ビートルズ「When I’m Sixty-Four」(僕が64才になっても)
2018 JUL 8 13:13:28 pm by 東 賢太郎

平成が終わる来年になると、僕ら昭和生まれはそれが人生で3つ目の元号となる。つまり、来年に生まれる人から見るならば、僕らがおじいちゃん、おばあちゃんと思っていた「明治生まれ」と同じ位置づけになるわけだが、昭和は明治より20年も長い。いま20代の人もそうなるのであって、昭和30年生まれは明治30年生まれよりずっとおじいちゃんなのである。
来年というともうひとつショックな事があって、ついに、ビートルズの「When I’m Sixty-Four」(僕が64才になっても)のトシになってしまう。これが入っている『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は1967年のアルバムだから僕はまだ中学生の小僧であって歌詞がさっぱり不案内だった。Will you still need me? (まだ僕を必要としてくれるかい?)はまだしも、Will you still feed me? がね、これはガキにはわからない。
この切ない feed me がわかるのがきっと64才ぐらいだってことで、これを書いた10代のポールもそう想像したんだ。だからDo youじゃなくってWill you、意思の確認なのだ。そんなジジイをキミはまだ必要としてくれるかい?いや必要でも料理を作ってくれるとは限らないね、そこはどうなの?とくる。僕はヒューズを直せるしセーターを編めるし草むしりもするよって。なんと図星な。
そもそも feed とはエサをやるという意味だ。ネコは芸も愛想もないがそこだけは妥協しており、エサが出る人を適確に見極めていて(もちろん、昔は母でいまは家内だ)腹が減ると台所でニャオ~ンと僕には絶対にないソプラノで鳴く。あれだけ遊んでやってるのに悔しいが、feed する人は絶対権力者なのである。ということはヒューズもセーターも草むしりもニャオ~ンも無い僕は飯も出なくなるんかということをこの歌は意味している。
ではジジイの価値はカネなんだろうか。とするならば紀州のドン・ファンの道しかないじゃないか。あのかたはいいか悪いかともかく、男として実に明快でわかりやすいという美点はあって、一度哲学を伺いにお会いしたいものだった。女は手当たり次第に口説いていたと思われるモーツァルトだが、ドン・ジョヴァンニ(ドン・ファンのイタリア語だ)はしかし地獄に落としている。この道は難が多そうだ。
アルバム「サージェント・ペパーズ」の冒頭、ト長調のところはバンドの紹介の前口上だ。さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃいみたいなもんだが、これが僕的には格好いいのである。昨年、ライヴ・イマジン祝祭管弦楽団演奏会に先立って舞台でしゃべらせていただいたが、当日はあの前口上の気分でさせていただいていた。アルバムには「She’s Leaving Home」もある、娘は手紙を置いて出ていっちまう、車のセールスマンとね。ビートルズは僕にとって論語より人生を説いているのだ。
先週、ブログにしたマフィアの末裔マリオ・ルチアーノ氏のレストランにぶらっと行ってみた。そうしたらゴッドファザーに出てきそうなオーラの50がらみの男が立っている。「マリオさんでしょ」と声をかけ、本にあったエピソードを2,3かましたらサイン目当てのおっさんじゃないことはわかってくれたんだろう、「財務大臣の麻生さんもふらっと来られました」「そう、でも俺はやくざじゃないよ、株屋だ」と自己紹介した。僕の頭髪を眺めながら「肌が63に見えませんね」とイタリア人らしいほめ方をする。想像どおりの、修羅場をくぐった好漢であった。
63に見えるかどうかは知らないが自覚がない。体は老いたけれど、自分とはあくまで体ではなくハートのことなのだ。二十歳の頃のハートがどうだったか覚えてないが、あんまり進化も退化もしてなさそうだし、僕は元来そういうことに鈍感で甲子園の選手は今も年上に見えている。「僕が64才になっても」は、キミ、それってちょっと変でねえかい?なんてトシなりのおじいちゃんに諭されている感じの曲になってしまった。
ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。
Categories:______ビートルズ, ______自分とは

西村 淳
7/9/2018 | 5:55 AM Permalink
この曲、大好きで時々口ぐさんでいます。私も8月で64歳に。とうとう64だわ、と感慨も。
ただWhen I am 64.をどう訳していいのやらam?なんていつも思っていました。なるほど「なっても」、がしっくりしますね。
かれこれ30年以上前のスティーヴン・イッサーリスの初来日のアンコールはこれでした。ビートルズ世代。
東 賢太郎
7/9/2018 | 8:10 AM Permalink
ビートルズ世代のかたは皆さん覚えてると思いますがこれB面の2曲目でしたよね。1曲目のジョージによる「Within You Without You」が異様異界であんまり好きでなく、あれかあ、今日は嫌だなとひっくり返してB面に行くのを時に躊躇してました。しかしこの曲が始まるとパッと日常の平和な世界にたち帰った感じがして、救いというか、それはそれで呆然とした感じになって、なによりそこからが物凄いものですからやっぱり全部聴いてしまうのです。後々もこの強烈なコントラストはどんなクラシックの組曲よりクラシック的と思ってましたが、何度聴いても、僕にとってこのアルバムの与えてくれる満足感はどの大作曲家の交響曲にも劣るものではないです。
トム市原
7/9/2018 | 8:48 PM Permalink
小生はそれほどフアンでは無いけれど「イエローサブマリン」は秀逸だと思います。
彼らの曲全般に感じられるのは今までにないスタイルでしょうね。
だが頭が悪いせいかヨーコ オノだけはさっぱり理解出来ません。
今、引っ越しの準備中で500冊の本を片端から捨てています。
中から出てきたのはビートルズ来日公演の写真集です。
裏にへたくそな判読不能のサインが有ります、要る方がいましたら何か和食の食材と交換しませんか?
東 賢太郎
7/9/2018 | 10:13 PM Permalink
次に帰国されるときに弊社にお持ちください。サインはお宝かもしれませんよ、まず鑑定してもらいましょう。本物だったら買います。偽物だったらお好きな食材と交換します、会社に飾りたいです。