「幻の女」のWikipediaは絶対に読むな
2018 JUL 13 13:13:50 pm by 東 賢太郎
ミステリーの話をした。かつて何が面白かったかとなって、僕は迷うことなくウィリアム・アイリッシュの「幻の女」を挙げた。いつ読んだかは覚えてないが大学2年では知っていたからそれよりは前だ。なぜわかるかというと、2年で米国に行った折、ある都市の通りの名前がこの作品の登場人物の名と同じだと思ったことを鮮明に覚えているからだ。いかに「幻の女」のインパクトが強烈だったかを物語ろう。
長女と息子に「読んだ?」と聞いた。二人ともNoだ。「そりゃあなんてうらやましい、まだ楽しみが残っててよかったね」「そんなに面白い?」「読めばわかるよ」となった。その翌日のことだった、僕はWikipediaを検索して唖然とすることになる。二人にはそれを絶対に読むなと即座に厳命した。
これはひどい、この「あらすじ」は即刻削除すべきである。こんなネタバレを堂々と公表されて早川書房はクレームしないのか、Wikipediaはこんな行為を野放しにするのか。1942年の作品だからおそらくpublic domainだが、事はそんな問題ではない。この作品はウィリアム・アイリッシュなる天才が書いた一期一会の傑作であり、初読の一度だけしか許されない驚天動地の快感を他人から奪うような行為は許すべきでない。Wikipediaも英語版や韓国語版にそんな破廉恥はない、日本の恥である。
「ネタ」などと軽々しく世紀のインテリジェンスを石ころ並みのインフォメーションにしてくれる。それを便利だねと表層のうすっぺらな社会が享受する。そういう人たちがやがてインテリジェンスを持つようになるなどということはSF小説のネタにすらならない超現実的なことである。ネットはそうやってどんどん人から感動を奪い、頭脳を退化させ、馬鹿に貶めていくのだ。
同書を買って帰り、ミステリー好きの息子に朝に渡したら夜には「これは凄い」と溜め息まじりに感動して返してくれた。よかった。これからの皆さんも被害にあわないことを心より願う。
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Categories:______ミステリー
西村 淳
7/15/2018 | 6:52 AM Permalink
さっそくAmazonにこの本をオーダーしました。勿論Wikiは見ていないので到着するのをワクワクして待っています。
真夏のミステリーとしましょうか。
ご紹介ありがとうございます。
maeda
7/15/2018 | 10:40 AM Permalink
私は思わず図書館で借りて先ほど読み終えましたが、そんなに驚かなかった・・・です。ミステリー小説などまず読まないのですが、年取ったから??期待が大きすぎた??
東 賢太郎
7/15/2018 | 11:19 PM Permalink
まあ面白いかどうかは人次第です。何事でもそうですが。本ブログの主題は、ネタバレはやめろということです。
maeda
7/16/2018 | 10:16 PM Permalink
ネタバレになるといけませんので、なんで?という説明は省きますが、この小説以後、人類が月に行き、ベトナム戦争で米国が敗北し、日本ではオームが事件を起こし、今世紀に入るとネットの普及、9.11、地震津波、北朝鮮と和解する大統領が出たり、とても人智で予測できない様相ですから、60年代のミステリーでは驚かなくなっているのかもしれません。そんなこともあるかもねと思っちゃうのですね。
東 賢太郎
7/16/2018 | 11:03 PM Permalink
なるほどですね、僕が読んだ1970年代とは人間界の様相の変化は何倍も急激になってます。いまだったらそう驚かなかったかもしれませんね。