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僕が聴いた名演奏家たち(フランコ・グッリ)

2018 AUG 15 0:00:21 am by 東 賢太郎

僕が実演を聴いて最も感動したヴァイオリニストの一人がイタリアの名手フランコ・グッリ(Franco Gulli、1926 – 2001)です。残された録音でその美音をどこまで味わえるのかは心もとないですが、ベートーベンの協奏曲にその片鱗があります。演奏についてはここに書いた通りです。美音というと他が抜ける、歌でないパッセージがいい加減、音程がどうもという人が多い中でそれがない。色気も艶も華もあるが身持ちの堅い女性という処ですな、僕はこういうヴァイオリンが好きなのです。

ベートーベン ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品61

56才の脂の乗ったグッリの美音を最初に聴いたのは渡米した1982年のフィラデルフィア管弦楽団定期演奏会でのブラームスの協奏曲でした(10月22日)。指揮はユージン・オーマンディで、今になるとなんて凄いものを聴いたのか!

ヴァイオリンとはこういうものかと教わった鮮烈な出会いです。美音の洪水でした。それでもまだ耳は未熟でしたから、ワインでいうならいきなりロマネ・コンティ(ペトリュスというよりもね)の味をしめたようなものだったかもしれません。第3交響曲も予想外に骨格が立派で、オーマンディーのドイツ物が不評だったのはCBSの録音のせいだろうと思ったのを覚えてます。

次もやはり同じオケで、リチャード・デュファロ指揮によるモーツァルトの協奏曲第3番です(1983年3月16日)。この年の2月4日、僕の誕生日、カーペンターズのカレンが拒食症の末に世を去ったというニュースが流れ愕然とした1か月後でした。

こっちのグッリは水を得た魚で、唖然としているうちにあっという間に終わってしまい歌、歌、歌だった以外細かくは覚えていません。この演奏で曲の魅力がわかり、カーチスに留学中で親しかったヴァイオリニストの古沢巌さんに無理いって自宅でこれの第1楽章を弾いてもらったのが思い出です。後半のシェーンベルクですが、このコンサートは遊びに来ていた母も連れてきていて、もう少しポップな曲を聴かせてあげたかったと思った記憶があります。それにしても現代音楽の旗手だったデュファロ(1933 – 2000 )の忘れ難い名演でした。

モーツァルト3番のプログラム

先日にロジェストヴェンスキーが亡くなって、もう大家の時代は終わったと観念したのです。寂しいですね、自分の歴史が風化していくようで。僕は20世紀の最後の5分の1ほどを欧米で過ごし、片っ端からクラシック音楽演奏史に残る大家たちを聴いてプログラムやFM放送のエアチェック音源を保存して印象記までこまめにつけたというヒマ人です。まだまだストックがありますが、退蔵するのでなく少しでも世界のクラシックファンの皆さんと共有できるよう公開してまいります。

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