イリアーヌ・イリアス- Made in Brasil
2018 OCT 24 0:00:48 am by 東 賢太郎
どんな職業につくか、どこの会社に入るか。自分で決めたようで実はそうでもなかったように思うのです。運命といいますか。入ってしまって想定外のこと続きでしまったと思ったし、まじめに辞めようと考えたことは書きました。よかったのかどうなのかということですが、ほかの人生はやってないのでわかりません。
あれが良かった悪かったと昔をふりかえっても終わったことにそう意味があるとも思えません。単に、絶対に確かなことは、そういう昔があったから今があることです。だから、今がよろしければ結果オーライでそこまでのことは全部正解じゃないの?というのが僕の人生観です。
「あの時にああして失敗でした」という人がいたので「じゃあいま不幸せなの?」ときくと「いえ」という。「なら成功だったんでしょ?」となるのですね、誰でも。だから、いま、毎日を楽しく過ごしてああ幸せだと思ってしまえば人生は無敵なのです。オセロみたいに全部ひっくり返って「成功」になります。
ブラジルに行ったのはたった1度、たしか1991年の2月、真夏のリオのカーニバルの少し前でした。36才です。リオ、サン・パウロ、ブラジリアでしたが、正直のところ、これは凄いところに来てしまったと思った。人生観が北極と南極ぐらいひっくり返ります。
なにせ空気も大気も違うわけで、ビーチは見わたすかぎり美女美女。なんだここは??竜宮城の浦島太郎でした。そこで思ったのです。ああいい会社に入ったなあ。なんのことない、俺はなんで辞めようなんて思ったんだ、馬鹿じゃないか?人生こんなもんなんですね、だから少々苦しくてもめげてはいけません。
そこからも、もっともっとつらいことがあって、いや、やっぱり辞めといた方が良かったじゃないかと思ったことがあるからさらに馬鹿なもんです。でも辞めなかった。49になって遂に辞めて、今度は遅すぎたと後悔しました。でも、結果的にはそれがドンピシャのタイミングだったから、もう笑うしかありません。つまり、自分の浅知恵で「熟慮」なんかしても、結局今はなかったのです。
そういう愚かな自分をほんとうに愚かだなと笑いとばすことは今の僕にとってけっこういいストレス解消なんですね。今だって迷うことはいくらもありますが、そんなの明日の天気といっしょ、考えて晴れてくれるわけじゃないしとなってきます。健康なのはあんまり迷わないからでしょう。思えば、僕はブラジルで北極と南極ぐらいひっくり返ってこういう人間になったのです。
ブラジルで大蔵省と中央銀行へ行ってひっくり返った。それは書きました。今回は連れていかれたリオのクラブみたいなところで初めて聴いた音楽についてです。セクシーな褐色の肌をしたカリオカのお姉さんがピアノとバンドをバックに歌っていたあれはいったい何だったんだろう?
ボサ・ノヴァが素敵なのはクラシックには出てこないハーモニーなのです。ジャズかというと近いようでもあり、まあ僕はジャズの定義をよくわかってないからさし控えますが、完全な和声音楽なのに不思議な浮遊感があってとてつもなくオシャレ。そして、ここが大事なんですが、ポルトガル語がぜんぜんわからない。これがまたいいんです、意識もぶっとんで浮遊してしまう。つまり、あの竜宮城に戻るのです。
最高のリラックセーションになるアルバムがこれです。イリアーヌ・イリアスの ”Made in Brasil” であります。この人、ブラジル出身のジャズ・ピアニスト、ヴォーカリストでニューヨークで活躍。なんといってもジュリアード音楽院卒で音楽能力は筋金入りであり、バックにTake 6とロンドン・フィルハーモニーのストリングスを従えて洗練の極致。和声の最高の高級感。ジョビン、自作などが入ったこのアルバムのレベルの高さは凄いものです。みなさま、ぜひ竜宮城に遊んでください。
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