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シベリウス 交響曲第7番ハ長調作品105

2018 NOV 12 22:22:11 pm by 東 賢太郎

悲愴交響曲を、僕がいろんな人の演奏にどういう気持ちを抱いたかをブログに記録しておこうと思って、週末にたくさん聴きました。しかしこれはなかなか辛い作業だった。あの曲には世を去ろうと決めた人の情念が籠っているからです。それが強い作用を及ぼしてくる。それにすっかり当てられてしまって「もう行きたい所なんかないし、欲しいものも何もない」と思わず家内に口走ったわけです。それは本音なんですが。

ソナーを立ちあげる前にかなりの不眠症になりました。かつてないことだしそもそも生来の閉所恐怖症だから危ないと思ったんでしょう、家内に心療内科に連れていかれた。女医さんが丁寧に対応して下さったのですが、何だったか仕事の質問をされてカチンと来てしまい診察中に席を立って出てきてしまいました。別の医師にかかり、彼はきっと年季でうまくやったんでしょう、なんとかという向精神薬をもらって帰った。それを飲むと病気かとさらに不眠になって絶ったら眠れるようになりました。

あの時そんな状態から救い出してくれたのはエロイカでした。しかしどうも今はそのムードでもない。いろいろ試してぴったり来たのは音楽ではなくて「星座表」なるアプリでした。これを息子に教わって時々眺めてる。面白いですよ、スマホを向けた方向の天空にある星座が実にリアルに出てくるのです。そこで夜に真下(地面)に向ける。当然ですがそこ(地球の反対側)には太陽がある(左)。この瞬間、不思議なことに、足元の地球が消失して宇宙空間をひとりでふわふわ浮遊する感覚に包まれるのです。嘘だと思ったらご自分でお試しください(無料アプリ)。

このふわふわ感は気持ちがいい。太陽の先にはしし座のレグルス、ふたご座のカストール、ポルックス、小犬座のプロキオンが見えて広大な宇宙の「立体図形感」に覆われるのですね。この「見えないけどある感」が五感を刺激してくる。自分の体内にある宇宙と共振してくる感じです。ふと思ったのですが、とても突拍子もない空想なのですが、この「包まれている」「共振している」という感じはお袋の胎内にいたときの感覚なんじゃないか?五感が覚えていてそれが甦ってるんじゃないか?などと妄想が膨らむのです。去年見送ったお袋もこの空間のどこかにいて、やがてまた会えるんだろう、そんな気になってきます。

この感覚にぴったりの音楽がないだろうか?ないものねだりかと思ったが、あるのです、ひとつだけ。ジャン・シベリウスの交響曲第7番。

僕は以前からシベリウスの音楽の奥底にフィンランドの自然だけではなくcosmic なもの、広大無辺、普遍、超自然なものを感じてきました。宇宙(space)とはその名のとおり空間です。とてつもなくでっかい。人間が自然(nature)と思ってるものでなく、人知を超えた、文字にも感覚にもならない、京の京乗ぐらいの数字(見えるどころか誰も想像すらつかない)、それを彼は自然から感知した、空海が洞窟で太陽を見たかのように。それを民にわかる文字(音符)で表した経典、彼の交響曲はそんな性質のものかもしれないと感じるのです。

交響曲第7番でもっとも有名な箇所というとトロンボーンのソロが出てくる場面です。ここの神懸かったご来光のような至福!どんな宗教であれ、天空から神が降臨する場面に聞こえる音楽はこれだと思うのです。ふわふわ浮かんでる宇宙空間で、ふるさとの青い地球の荘厳な姿に出あってもこれが聞こえるでしょうか。

シベリウスは7番に自分の過去の交響曲のエコーを響かせ、とりわけ5番と6番の音を色濃く漂わせています。交響曲第6番で彼はお別れの音楽を書きました(シベリウス 交響曲第6番ニ短調作品104)。そして最後の7番で邂逅(かいこう)の音楽を書いた。邂逅とは人と思いがけず巡り合うことです。誰だろう、初めて会う人かな、でも近づいてみると、よく知っている人だった‥と。

ハ長調のこの音楽では、ハ音(ド)の重力がほかの音を引っ張っています。トロンボーンも二音(レ)から神々しく降臨してきて低いハ音に降り立つのです。そして2度目のソロがやってきて、音楽は二音、そして長い長いロ音(シ)がハ音を周回しつつ、ついに半音あがってハ音の重力に収束して、盤石の安定感、充足感をもって曲を閉じる。なんと神秘的な終結でしょう。

 

昨日ここまで書いておりましたが、本日午後に従兄の訃報があり以上とします。

 

 

(こちらへどうぞ)

シベリウス交響曲第7番の名演

 

 

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