ブラームスという人生の悦楽
2019 SEP 9 20:20:56 pm by 東 賢太郎
僕にとってヨハネス・ブラームスの4つのシンフォニーが何かと言われれば人生そのものだと答えるしかない。二十歳の頃からこれなしに生きていたことはないし、どれのどこが好きかというものでもない、どの一音までもが血肉になっていて聴くたびに新たに感動し、出会えた喜びに包まれる。
16の楽章のどれもがピアノで弾くのはやさしくない。それでも諦めるわけにはいかない、余生をかけて勉強していくし、いちばん弾きやすい3番の第2楽章はなんとかしたし、弾くたびになんていいんだろう、この楽しみがあれば他の趣味なんていらないと得心するばかりだ。
昨日からヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮の4曲に浸って、心の芯から癒されて究極の満足を頂いている。ウィーン交響楽団との演奏だ。1960年代初頭の録音はオーケストラの魅力を見事にとらえ、倍音とホールトーンが好ましい。あらゆる再現装置でそうとはいえないだろうから音の印象を文章にするのは難儀だが、管の色彩があでやかでよく歌うのは誰もが聞き取れるだろう。
指揮は古典的できりっと引き締まったものだが、フルートをはじめ奏者たちが最高の音楽性をもって自発的な合奏をしている。管楽器の音程が最高でまさにブラームスの醍醐味だ。こういう何も足さず何も引かずを昭和の批評家は評価しなかったがいったいどういう趣味でそういうことになってしまったのだろう?本当に上質な京料理を知るかたなら分かるだろう、昆布、鰹節、椎茸に薄口醤油の絶妙のだしが、これまた素材のままに絶妙の滋味あるブレンドでからんだという風情のものだ。
例えば僕が音程と表現したもの。プロのオーケストラなんだから当たり前だろうと思われようが、とてつもなく違う。サヴァリッシュなのかウィーン交響楽団の奏者なのか、ともかく、聴き始め10秒で心を鷲づかみにされる蠱惑の楽音である。歌心からこぼれおちる華のある音程(ファとシ)の採り方で、それが平板だとロマン的で淡彩色の陰影がある転調の妙味が出ない。こういうものを知ってしまうと、こうでないブラームスは面白くもなんともなくなってしまう。
このセットには2つの序曲、運命の歌、アルトラプソディ、ドイツレクイエムも入っている。全てが見事な音楽であり、運命の歌は知るうちで最高の上質な演奏だ。テンポは総じて速めでサヴァリッシュ晩年の深みはないが、これからも何度も耳を傾けることになるだろう。
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