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野球は何といってもキャッチャーで決まる

2020 DEC 4 0:00:55 am by 東 賢太郎

日本シリーズを見ていて、甲斐は嫌だなあと思った。それは大昔に試合をして、ああいうタイプのキャッチャーが後ろにいる時のことを思い出したからだ。ウルトラ勝ち気のオーラをバリバリ出してペースに巻き込もうとする。基本的に嫌な奴で運動神経抜群で野球IQが高く、肩が良くてリードが攻撃的で、たとえば俊足巧打の日ハム・西川が言ってたが、打席に立つと甲斐は「お前には絶対に打たせんからな」なんて威圧もしてくるようなタイプだ。完封されて、ピッチャーよりもキャッチャーを覚えてる試合すらある。

見ていて劇的にそうだと膝を打ったゲームが、ヤディア・モリーナ捕手ひとりにかき回されてプエルトリコにやられた2013年のWBCだ。例の内川が刺された試合だ。ピッチャーなんか全然記憶にないが、モリーナは名前まで焼きついた。監督が試合に出てるようなもので、あんな奴がいたら盗塁はおろか打席でもややこしいだろう。NPBだとまず野村さんなんだろうが全盛期は知らないので、やっぱり古田か。でも性格も含めてスッポンみたいに嫌らしいなという感じは谷繁だと思う。その3人がいたころの南海もヤクルトも横浜も中日も優勝している。野球はキャッチャーが決めるのである。

キャッチャーは面とプロテクターとレガースを装着するからまるで剣道だ。くそ暑い夏はユニフォームだけでも気絶するほど暑くて地獄だろうが、1球ごとに屈伸し、内野ゴロは1塁まで全力疾走する。それだけでも2倍は疲れそうなのに、ベンチのサインを確認して、全球ピッチャーにサインを送り、盗塁を阻止するためピッチャー並みの速球とコントロールを要求され、本塁をブロックし、急所直撃の激痛に耐え、内外野への指示やサインプレーを一手に行う。そのうえでバッターを幻惑までしにくるんだから、スッポンというか、8本足のタコみたいなイメージすら僕は持っている。他のポジションと決定的に違うのは、アホでは絶対にできないことだ。

シリーズで甲斐は巨人をがっくりさせるホームランを放ち、これであいつますますノルなという無言の圧を相手ベンチに与えた。野球は流れがあるとよくいうが、キャッチャーがそれを作るとプレッシャーが倍加すると思う。巨人の打者の弱みを半端でなく見抜いていて、千賀、石川、ムーアの快投を引き出したなんて月並みなレベルじゃない。岡本など初日にバットをへし折られて4試合金縛りになってしまったし、坂本は強いといわれるインサイドを逆に責めまくって外角のスライダーを腰砕けにさせた。丸もほぼ同じ手でひねった。栗原、中村の与えた衝撃も大きかったが、やはりシリーズ通してグラウンドを支配したのは甲斐だ。彼は賞をもらえなかったが、個人的には堂々たるMVPだったと思う。

僕のへぼ野球の話で恐縮だが、なんだかんだ入れると10人ぐらいのキャッチャーと組んだ。アメリカで受けてもらったドン(ドナルド)はデカくて、カーブを彼の顔めがけて放ると外角低めに具合よく決まって楽だった。いい奴なのでいくら首を振ってもOK、あの大会はそこそこ自分で考えて投げて楽しかった。何といっても凄かったのは天下の広商の吉原さんだ。社内大会だったが野村証券は甲子園経験者もいてレベルが高かった。ぐいぐいリードしてくれ、サイン通り投げて何も考えることがなかった。しがない二流投手の球を使ってあれよあれよで1安打完封し、以来野球はキャッチャーだと確信してる。

パリーグで日ハム、オリックスが下位なのはキャッチャーがいま一つのせいだ。いい例は西武で、森が不調だから今期はだめだったのである。楽天が浅村まで取って勝てなかったのもそれだ。ロッテは田村の打力向上を期待したいが、新人の佐藤も期待できる。セリーグもヤクルト、DeNAが判で押したようにだめで、阪神は梅野の肩と勝負強さ、中日は木下の台頭で救われた。巨人は阿部の穴が埋まらず大城のリードは素直で嫌味がまったくない。それでも優勝したのは他が弱すぎただけだ。さて肝心の広島だが、石原が引退し、曾澤が安定し坂倉が伸びてきたので5,6年は安泰だ。それでなんぼなんでも5位はないだろう、いかに投手陣が勤続疲労で瓦解したか物語る。

こうしてみると、あと3年ぐらいは甲斐がダントツであり、ということはソフトバンクがもう3連覇はするだろう。球界の盟主はもう巨人ではない。

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Categories:______プロ野球

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