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飲み会を絶対に断らない女

2021 FEB 25 23:23:22 pm by 東 賢太郎

まったく記憶がないが、母親に芸大に行きたいと言ったことがあるらしい。あんなに音楽が好きなら行かせてやればよかったわと妻が茶飲み話にきいたのを最近きいたというややこしい話で、いいよといえば行けたと思っているとても世間知らずな家庭だったということでもある。

銀座で音大卒の子に男女比は2:8でしたときいて頭がくらくらした。大学のクラスは50人いて女子ゼロであり、そこまで共学だった僕としては野郎だけの宇宙船で月面に不時着したみたいな気がしたものだ。あそこに女子がいたら?いやもういるだけで間違いなくモテただろう。とすると、その逆である音大は?

そんなある日、サントリーホールでのことだ。舞台を黒装束で埋めつくすオーケストラをぼんやり眺めながら、なにやら釈然とせぬものが頭をよぎった。男のが多いじゃないか・・・。この事実に対する釈然とする説明には出会ったことがない。2:8の母集団から任意に8:2の集団を得る確率は非常に低いのだ。

「あっ、オケは入れません、難関です、欠員が出ないと」音大卒の子は平然と言った。それを埋めるオーディションに百人も来るという。そうか。とするとほぼすべての楽器において男の方がうまいということになる。それはないだろう、変じゃないか?なんか差別でもあるの?

どこかの医大の入試で男子の点数にゲタをはかせていたことがあった。あれはあれで理由があったと聞くが、オケにも業界の裏事情でもあるのだろうか。男は食うために必死で女を蹴落としてるのだろうか、それとも学校や先生や先輩のコネをつたって理事会や幹部に接待攻勢でもかましてるのだろうか?

こういう話になると、多くのサラリーマンの脳裏をよぎる言葉がある。「つきあい」だ。「あいつはつきあいがいい」、こんなんで出世が決まるんだぜ日本は。ロンドンのパブでそういったら「ボス、じゃ俺は夜に出勤するぜ」とオカマっぽいのが乾杯してきた。バカそっちじゃねえ。それ以来、社内でツ・キ・ア・イは英語になったが僕はカンパニーと言ったらしい。

「おい行くぞ、カンパニー」の一言で5,6人ツキアイが集まる身分になったのは課長になってからだ。まずソーホーでささっと中華飯を食い、リッツホテルのカジノにくり出す。じゃあ明日な、で帰宅すると2時ぐらいだ。「明日な」とは8時にゴルフのティーオフするから来いという意味である。問答無用であったため、実はここで出世は決まっていなかったが。

女子の総合職が初めて入ってきて、そのカルチャーは少しだけ変化したが、初めて本社勤務で帰国した僕は大いに面食らった。当時の野村の下士官クラスは僕のような野蛮な男ばかりだ、きくと同期もみんな女性様の扱いにそれなりに苦労していて、課の飲み会は必ずやさしい笑顔と猫撫で声で「行く?」とお伺いをたて、断られない努力をしていた。

しかし女子も野村に入ってくるのはタフだった。超高学歴で英語ネイティブだがお高くとまらず、飲み会を皆勤して男を手玉にとる人が現れるのは時間の問題であったのだ。みなの前で誘って「いたしません」されては新米課長は格好がつかない。飲み会を絶対に断らない女は時に神で頭が上がらず、こうなると学生時代の大事な四年間を月面で過ごした弱みはあなどれなくなってくる。

多くの女性と働いてきたが、みなこっちがどれだけ会社で大変か知っているのは楽ではある。しかしアフター5は口も滑らかだし、皆勤賞だと組織の構図を色々読めてしまうだろう。勘の冴えた女性だと意見を聞いてみたくもなるがこっちも品定めされてるかもしれない。幸い僕は良い人ばかりに恵まれたが、まあ色んな書けない話があった。大企業のポリティックスはジャングルみたいなもんで何が飛んでくるかわからない。真面目な男性のみなさん、脇が甘いのは禁物だ。

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