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飲み会を絶対に断る男

2021 MAR 3 1:01:46 am by 東 賢太郎

証券会社から銀行に移籍してなるほどこれは違うと思ったものがある。母体が銀行といってもやってる業務は証券だ、ここでそれということは本丸では相当な差があろうかというもの。飲み会だ。

銀行員と証券マンは違う。「東くん、君らはファンファーレから入るけどね、僕らはお葬式から入るんだ」と教えてくれた役員さんは、証券マンほどお葬式の翌日から入る人種はないことをご存じなく証券業に入られたという意味でとても銀行員だった。各所で飲み会をしていただいて有難かったが、商売や人生の基本原理がまるで別物だから犬の集会に猫が一匹まじったみたいなものである。

「いいネクタイですね」。猫は毛の色まで珍しい。お酌をくれながら「野村だと毎日でしょ?」「いや、僕は年3回ぐらいですかね」。シーンとなる。大学で全優だったんだろうなという感じの女性からおそるおそる「あのう、ニバンゾコって何ですか」とあさっての質問が飛んでくる。「チャートで二番目の底です。僕もよく知らないんですよ、何の意味あるのか」。禅問答が10秒で終わる。まあこんな塩梅であんまり酔いが回らない。それなりの酒宴の在り方は面白くはあったがネクタイはちまきの宴会部長は1年待っても出てこないだろう。

驚いたのはそれだけでないが、もっと驚いたのは、「そんなものはいいんだ、ここは証券会社だ、そのために来てもらったんだから君の好きなようにやってくれ」といわれたことだ。後に社長になられる横尾常務(当時)だ。これを男冥利といわずしてなんだろう。31年サラリーマンをやって一番高揚感を覚えたのはこの時だ。自分をほめてもいけないが、モチベーションが上がると猫が豹に変って気がつくと自分でも信じ難い結果が出てしまっていることが幾度かあった。この時もそれだ。

そういわれたからといって証券流飲み会を決行したわけではない。なぜなら興味がない。若いころ盛大にしていたのは仲間と群れる時間が潤滑油として必要だったからだが、麻雀がわりのカジノと土日のゴルフの方がずっと多かった。それをここでやるわけにもいかず、結局120名の部下とは仕事現場でのつきあいだけで潤滑油はなし、しかしそれでうまく歯車が回ってしまうのだから銀行の組織力は大したものだと感嘆した。野村の組織力も強いが、人的つながりに依存するのでどうしてもプライベートで腹を割っておく必要があった。

サービス業でなく研究者のような就職をしていたら良かったと時々考えることがある。理系だったら本性のまんま「飲み会を絶対に断る男」で通して楽だった気もする。しかしそっちの世界はもっとヨイショが必要だよという声もあるので上司の不興を買って討ち死にしてた可能性も高かろう。たまたま入ってしまった証券界で生き延びたということは本性をかなぐり捨てて妥協してきたからである。そして、ということは「飲み会を絶対に断らない女」とあんまり変わらないのではないかという結論に至ってしまうのである。

総務省No2まで昇りつめた山田真貴子氏は「断らない女」を妥協というより功利で積極的に演じたのではないか。それはそれで生き抜くための立派な戦術だ。サラリーマン道では僕より一枚も二枚もうわてな人なのだろう、何事であれ達人には敬意を払うポリシーだから悪いという含意はないつもりだが、しかし、自分の人生もそれだったとなると全く認め難いものがある。妥協していたのは認めるが、野村から出たのはそれをもう一切しないという決断であり、そんなことをせずとも力だけで評価してくれたみずほ証券には心よりの感謝しかなく、もちろんその力を涵養してくれた野村は棺桶に入るまで「我が母校」である。

おかげ様でいまや「飲み会を絶対に断る男」にすっきりさっぱりと回帰し、達人の仕事をしてくれる部下、仲間たちと楽しくやっている。敵味方なくファインプレーが出れば達人だねえと愛でる、仕事でも趣味でも完全にそういう人間に生まれついていたのだということが自分でよく分かってきた。達人だなあと思う中身は年齢とともに変わっていくことはあるが、あの誰も抑えられなかった王貞治選手をワンポイントで三振にとる大羽進投手は凄いと小2でカープファンになった素地はそのまま三つ子の魂である。

だから、これからのビジネスもそうなのだと考えている。長年白人と仕事し、白人社会で生活してきた。でもそれが三つ子の魂ではない。そのことはスイスから異動になって香港チェクラップコク国際空港に家族と降り立った時、不意の衝撃として天啓の如く悟ることとなった。空港の雑踏でもみくちゃにされて周囲を見渡すと、みな髪の毛が黒いということだ。当たり前ではないかと笑われようが、まるで別な惑星で異星人の集団に取り囲まれたような気分に陥っていた。しかも、鏡を覗けば何のことないそこに写る自分はその異星人なのだ。不思議の国のアリスが目が覚めたとき、きっとこんな気分だったにちがいない。

そんなばかな、大袈裟なと思うかたには、少なくともまず欧米のお好きな国で14年の歳月を過ごしていただき、ある日突然の電話で「次は香港に2年半住みなさい」と有無を言わさず命令されていただく必要があるだろう。ノムラ・インターナショナル・香港のでっかい社長室に次々と押しかけてくる人達にそんな気分を微塵も悟られぬよう注意を払いつつ、何日かはアリス状態から頭が切りかわらない。さらにもう幾日かを経て、恥ずかしながら初めて悟ったことといえば、いかに自分から日本人目線が抜け落ちてしまっていたかということ、そして、日本人が東洋人の一部だという意識のかけらもなくボ~っと生きてきたのかということだった。

三つ子の魂は日本にあるに決まっている。しかし自分は東洋人だから香港です~っと吸い取り紙にインクが浸みこむみたいに受け入れてもらい、500人の部下とパイチュウで倒れるまでカンペーカンペーの飲み会をする必要もなく長年そこにいたかのように仕事ができた。中国や韓国やベトナムのビジネス慣行はとんでもなく違っていて失敗もしたが、東洋人という最大公約数から糸をたぐっていくうち何がなぜどう違っているかが分かってきた。日本人だって、東京人の僕に大阪の文化は驚天動地だったじゃないか。この発見は非常におおきい。なぜなら証券ビジネスという心理の機微や綾が非常に重要な要素を占めるものにおいて、飲み会や大宴会よりそっちの理解の方が実は部下やお客さんには本音で望まれていたことのように思うからだ。

不思議なもので、コロナで禁止されると飲み会やりたいなあと思ってる自分がいる。なんてあまのじゃくにできてるんだろう。「断る人は二度と誘われません。幸運にめぐり合う機会も減っていきます。多くのものに出会うチャンスを、愚直に広げていってほしい」(山田真貴子広報官)。いいこと言うなあ、やった人しか言えない、ビジネスを志す人は耳の穴かっぽじって聞きなさい、まさしくその通りなのである。男だ女だなんか関係ない、そのぐらいの覚悟と犠牲がないとNo2まで昇るのは到底むりだ。7万円が高いか安いかは接待する側がおもんぱかるもので、出てしまった饗応を断るすべはない。もったいなかったね、行ってしまったのがまずかったですな。

ところで、若い人にそう言いつつ、僕はもうそういう幸運やチャンスはいらない。ときに何の話題がなくても一緒に酔っ払ってくれる人は大事だったんだなあと思う今日この頃だ。

 

飲み会を絶対に断らない女

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