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五輪中止でも危ない日本(IOCは潰せ)

2021 MAY 28 1:01:38 am by 東 賢太郎

(序章)コント

天の声

「私たちの力を結集すれば、必ずウイルスに勝つことができます」(令和3年5月28日、菅内閣総理大臣記者会見)

民の声

「ねえねえ、私たちって誰のこと?」「うん、内閣支持率からするとね、まあ国民の3割ぐらいという意味だね」「でも、10割で戦っても勝てない怖いウィルスなんでしょ、たった3割で勝てるの?」「坊や、ええ質問するなあ。末は博士か大臣や。そやな、コスパ良すぎやな、あんさん、それって総理はどないな魔法使いまんねん?」「だよね、あたしも知りたいよ魔法、教えて教えて!」「えっ、知らないの?そりゃ魔法ったらアレしかないでしょ?」「アレ?」「亀甲占いさ、亀の甲羅を焼いてやる奈良時代の」「なるほど、気がつかなかったわ~」「確かに。でもあれは皇室でやってる権威ある占いだから効果ありそうだな」「そやそや、やり方よう知らんけど」「ワシ知っとるで、甲羅のヒビが右やったら開催、左やったら中止や」「そうなんだ、で、どっちだったの?」「右や」「なるほど、それで何が何でも五輪開催なんですね、おかげで合点がいきました」「えっ、ちがう?そうじゃないんですか?」「はっ?カメじゃなくてゴマ?護摩行ですか?」「ゴマギョウ?知らないわ、何かしらそれ?」「きみたち困るね。燃え上がる炎の前で全身全霊願いを込めて煩悩を焼き尽くすおまじないだよ」「なるほど、総理のスピーチで『力を結集すれば』って部分はそれのことだったんですね」「うーん、いつもながら総理の言葉は深いね」「ですね」「しかもこっちは平安時代だ。新式ということになるぞ」「心強いぞ、ありがたや」「それってたしかインドから来たご祈祷でしたね」「イエスサー」「ということはインド変異株にも効くんだ!!」「そうか、それでミッシングリンクがつながったぞ。だからオリンピックは大事なんですね?それで総理は開催にこだわっておられるんですね?」「そう。君はなかなか学があるね。コロナ対策なんだよ、実は。オリンピックは聖火台ってのがあるだろ、最終走者が点火するとパーって燃え上がってね、照明が消えて真っ暗になって、それが護摩業の炎って見立てになるんだ。世界はビックリさ。そこで会場の床下からドドッと修験僧が300人出てきてね、ホラ貝吹きながらね、世界に誇るドラえもんの『俺はジャイアン』をバックに東京五輪大会公認の呪文である「アンシンアンゼン、アンシンアンゼン・・・」を100回となえるんだ。最後の10回は「会場の皆さんご起立で」と手拍子とって唱和させる。そして「ウィルスに勝ったぞー、おー」ってハリウッド流の『山伏ダンス』を踊って盛り上げるわけよ。どう?豪快でしょ、世界へ元気の発信だ、開会式の目玉だよ、楽しみにしてくれたまえ」「すごぉぉぉ~い、スペクタクルですね~♡♡」「火渡りショーもやるよ。プロデュースは護摩行のプロ、元広島カープの新井貴浩さんだ」「感激ですぅ?」「そうか、そのためなんだ、悲しいほどショボい聖火リレーやってたのは!」「そうだったのね、ワタシ馬鹿にしててごめんなさい(涙涙)」「ははー、俺も畏れ多いです、頭が下がりますぅ」「そう。オリンピックで国中が盛り上がればウィルスは恐れをなして自分から退散してくれるってわけです。科学など不要なのです」「万能の総理ばんざい!」「ばんざ~い!」

 

(第1章)100人が73万人に

こういう騒動の裏側で、サラリーマン時代に使っていた銀座、赤坂、西麻布のレストランや料亭15件が心配になって調べた。9件がひっそりと廃業していた。些かのショックであり、懇意だったお店に同情もある。どうしてあの名店がというものばかりだからだ。この1年、会社はテレワークを励行したし、個人的にも政府、東京都の指示にそって従順に行動したつもりだ。どうしても必要な会食だけは店を厳重に選んで対応したが、わかったことは、安全かどうかはすべからく店次第ということだ。しかし、そうであるのに、感染対策の自助努力がぜんぜん評価、反映されない。それならお店の恭順姿勢も限界で、もはやこれまでだろう。お客のほうはとっくに限界を超えている。ということは、ここで発出された緊急事態の延長はマンネリと反抗で「平常事態宣言」になってしまい、感染の火の手が上がる危険性がある。そこに油を注ぐように、首相は「オリンピックやります。安心安全です」と矛盾することを同時に言ってるのである

もう兆候は出ている。TVを見ていたら東京都の担当者が「ここ1,2週間で繁華街の人流が2割増えており感染者数はリバウンドしかねない」と発表していた。また感染者は1%以下だったインド変異株が6.7%に増えたという。その感染力は英国株の1.5倍、従来株の2倍というデータが出た。従来株はアジア人に広まらなかったが、インド株は抗体をすり抜ける変異を遂げその限りでないという。ダイヤモンド・プリンセス号で騒いでいたころ市中感染者は100人もいなかったのが1年で73万人になった。インド株感染者は現在189人見つかっている。感染力2倍だからこれが年末に73万人になっておかしくない計算だ。感染者が73万人出ると12,819人が死亡している(5月29日時点、厚生労働省HP)。ということは、年末までにさらにそれだけ死者が出る可能性がある。仮説とはいえ、これを知ってぞっとしない方は相当に平和ボケしている可能性がある。

 

(第2章)ほんとに打てるの?

ワクチンがあるから大丈夫だ、首相はこれぞ切り札だという。そうかもしれないが、国民全員に打ち終わるのはどう考えても来年だろう。「6月末までに1億回分が供給され、9月までには更に1億回を上回るワクチンが確保できる」というが、それが解決ではない。何百億回分のワクチンを輸入できようと、問題は単に「打てるかどうか」だけなのである。60万人も亡くなった米国では国民に切迫感があり迅速に2億人に打つことができたが、それでもオハイオ州は1億円の宝くじを付けて接種を促す必要があった。はっぱをかけても打ちたくない人がいるからだ。大手町会場を整備してどうぞとなっても進まない。でも強制はできない。死者1万2千人の日本に米国の切迫感はなく、これがあだとなって日本には打ちたくない人が多いと予測する。ちなみに東京都の高齢者である僕はそのひとりである。臨床試験もしてないものを打ちたくない。政府の都合で急ぐ気もない。ところが家族が僕の意向を無視して早々に世田谷区に申し込んでしまい、接種終了は8月半ばになったそうである。このとおり、高齢者の接種完了「7月末」は嘘っぱちである。これがコロナ対策の現実だ。インド株の「2倍の増殖速度」が少なくとも半年は野放しになること確定だろう。つまり、オリンピックをやろうがやるまいが、日本はすでに、非常に危ないのである。

 

(第3章)科学無視の高いツケ

どう危ないのか?日々の新規感染者数など一喜一憂しても意味がない。誰がどう考えたって、最も心配すべき数字は死者数に決まっているだろう。そのデータがある。人口100万人当たりの死者数だ。なぜか(ひょっとして国民に知らしめたくないのか)、日本は国際比較グラフのようなものを公表していないが個人の方が作られたこのサイトで確認できる。ぜひご覧いただきたい。

http://人口あたりの新型コロナウイルス死者数の推移【世界・

アジア主要国と比較したものがこちらだ。

ご覧のとおり、日本は死者が少ないから安全だなどというのは嘘っぱちである。日本の人口当たり死亡率はインド、フィリピンに次いでアジア第3位であり、しかも、昨年11月から今年4月にかけて約20名が70名に急増している。この増加は「第3波」にシンクロしている。死者が増えたということは大阪のように医療キャパが飽和した(崩壊に近づいた)という証左であり、救えないコロナ患者が増えたばかりでない、その他の病気の緊急の患者さんにも病床不足のしわ寄せがあったということで分科会、医師会の鳴らす警鐘が正しいことを裏付けるデータである。最悪の場合、高齢者はコロナに限らず別の病気でも病床が与えられずトリアージ(命の選択)の憂き目にあうかもしれない。東京都民がオリンピックなど勘弁してくれと訴えるのは充分な「科学的根拠」があるという意味であり、だから菅内閣の支持率が16.1%という金メダル級の低さであるのはまったくもって当然のこととしか言いようもない(東京新聞・東京MXテレビ・JX通信社が、5月22、23日に合同で行った「都民意識調査」による)。GoToは「トラブル」になると昨年にブログにしたが、この1年、日本国政府のコロナ対策における科学的知見は江戸時代並みであり、ツケは非常に高かった。

しかし忘れてはいけない。大事なことは、まだインド株は189人しかいないそれでいてこれなのである。そして、いま危機的であることとオリンピックは何の関係もない。決行しようが中止しようが、すでに十分危ないのである。

 

(第4章)IOCは疑似ロイヤル・サロン

個人的にはオリンピックは当初はとても期待していた。人生2度見られるのは幸運だと。しかしバッハ会長殿が突然のごり押しで小池都知事の訴えを退けてマラソン会場を札幌にした時点で、あっけないほど気持ちが冷めてしまった。あれは我ながら不思議なことだった。大会をつかさどるIOCが選手の健康を心配するのは当然だ。しかし東京の夏が2020年だけ暑いわけではない、それならなぜ東京を選んだのかと思うのも当然である。変更の理由はいまだにわからないが、何か背後に蠢く嫌なものを僕のセンサーは感知してしまった。なにやらとんでもない力が働いている、カネか政治か権力闘争か示威か、そのどれであれ、ともかく国民にとっては薄汚い、うざったいものだ。周囲にも同じ意見の人がたくさんいた。テレビで見るんなら東京五輪でなくていいよと。しかしそのテレビも新聞も都合悪いことは申し合わせたように報道しないのだ。IOCについてがそうだ。当然だろう、メディアとして中立であるべき新聞社はみな五輪のスポンサーだというコントにもならないカネの事情が裏にあるのである。

そのIOCという組織は、消滅の危機に瀕していた五輪を1984年のロス大会で救ったファン・アントニオ・サマランチが巧妙に事業化し、さらには政治の道具に仕立てた『疑似ロイヤル・サロン』に他ならない。「私はオーケストラの指揮者だ」と語った彼が有能なビジネスマンだったことは否定しない。しかし、そういう人間にとってアスリートは一介の楽団員にすぎず、聴衆を呼び込んでくるマスコミはチケットの販売員である。「金儲けには販売員がいちばん大事」は特権階級サロンが甘い蜜を吸うための必然の経営ポリシーである。大物創業者サマランチは老獪に本音を隠して世界を煙に巻いたが、超小物の俗物バッハは馬脚を露呈しまくり、貴族気取りの勘違い放言をたれ流し、サーカスの座長のほうがよほど比喩にふさわしい。つまり五輪は「移動サーカス」だったのである。アスリート・ファーストと口では綺麗ごとを並べるが、実態はこれほどアスリートを見世物か競走馬の如く無料で走らせてうわまえをはねるシステムもない。

その証拠に、『東京でコロナにかかって死んでもIOCは責任を取りません』という「参加同意書」に署名しろと選手に強制している。「安心安全は嘘っぱちのセールストークです。したがって、我々は安心も安全も保証いたしません。だからコロナになっても我々を訴訟しないと署名しなさい。参加したければ自己責任でどうぞ」という意味である。これが「安心安全」の正体だ。そして開催中止の損害についても賠償責任は開催国にあると恫喝する。サーカスのオーナーは何のリスクも取らず、高邁な五輪の理念とアスリートの競争心に巣食って永遠に開催国から「ぼったくる」構造なのである。こんな組織は世界の有識者が存在の定義矛盾を突いて解散に追い込むべき時期に来ていると考える。アスリート・ファーストを堅守すべきであるが、その点はクーベルタン男爵の精神がご立派なようだから、この東京大会の大反対を契機にそれに回帰して永遠に祖地ギリシャでやることを提案したい。

 

(第5章)日本国を侮辱したIOC

今や東京都民にとってサーカスはぜんぶが「テレビで見るもの」になった。ただの場所貸し屋である。それならば賃料を取るべきだが、お前たちには断る権利はないと恫喝されて税金を差し出すのである。マフィアの興行師でも、もう少しは紳士的だろう。しかもである。緊急事態のさなかに200もの国から外国人が7万人も入国して20日も滞在する。世界の感染症学者にとっては垂涎の生体実験場だろうが、カネを払って検体になりたい都民は一人もいない。政府はやめると経済損失が出ると言ってるがこれも嘘っぱちだ。野村総研の試算によると、中止すると1兆8千億円損するが、やっちまった尻ぬぐいで緊急事態宣言を1度出すだけで6兆円も損するのである。したがって、オリンピック用に感染者数の見栄えを良くしようと緊急事態宣言を延長するなど国益を損なうばかりか、飲食業に意味もなく損害と心労を与える天下の愚策というしかない。そもそも「菅総理が中止と言ってもやるのだ」とほざいたあのIOCのわけのわからんおっさんには二の句が継げぬ。国家が無視すれば民間団体のIOCごときとの契約も違約金もへったくれもない。こいつらに主権無視の横暴を許し、名指しされた総理は反論もしない。なんだこのザマは?お・も・て・な・しとはこういう連中にへこへこ頭を下げて媚びへつらい、虎の威を借りて国内で自分たちの「ロイヤル・サロン」を形成し盤石にする作戦なのだ。こういう卑屈な人間はそもそも国際社会で完璧に馬鹿にされる。国であっても同じだ。いつから日本はそんなみっともない国になり下がったのか怒りしかない。

 

(第6章)日本の『疑似ロイヤル・サロン

第3波は無理すじのGoToが感染の山を高くしたことはすでに定説だ。そこで死亡率が増えたことは回帰分析をすれば高い関連性が証明されるだろう。そして、次は五輪がそれになる可能性が非常に高い。なぜならGoToは所詮は国内イベントだ。五輪は違う。元からザルの実績がある空港検疫を多種多様な外国人が通過してウィルスが一個も持ちこまれないと信じるのは、選手村に16万個も用意されたUTAMARO(歌麿)デザイン付きもあるコンドームが1個も使用されないで大会が終わると信じる人を探しだすより難しいだろう。選手はワクチンを接種するとIOCは言っているが、重ね重ね誠に疑わしい。百分の一秒という紙一重を競う競技者たちだ、大谷選手のような肉体への未知の影響を考えて拒否する人もいるだろう。エリアから外に出ないバブル方式だから安心安全というが、外国人にそんな人権無視を強制できる勇気がある管理者など日本の役所にはいない。そもそも我々にとって危ないのは選手だけではない。ワクチン接種義務もなく、都心のホテルに好きなだけ滞在し、自由に都内を歩き回れてまったく監視もされないマスコミだ。そして、何の用事があるのか全く不可解な、それも3000人も来るという意味不明のIOC関係者である。

しかしである、五輪問題のリスク中のリスクはそんな所にはない。そうではないのだ。総理、五輪担当大臣、JOC幹部がどんな大号令を気合もろとも発出しようが、所詮、彼らは自分ではなんにもやらない。なぜか?『日本国疑似ロイヤル・サロンのメンバーだからである。ロイヤルは手を汚さない。下々(しもじも)にやらせ、忖度させるのである。国民は言うまでもなく下々であり、世界の民主国家で日本は唯一いまだに国を「おかみ」と呼ぶ国だ。この騒動は、おかみにとって大誤算だった。こんなはずではなかった、コロナさえなければ・・・。しかし、コロナに限らず有事はいつでもあり得るのであって、それ一発でこんな世論形成になってしまうのはロイヤル・サロンのほうがもはや存立しにくい世の中になりつつある証左なのである。それを誘発したのはネットだ。ロイヤル社会はそれに疎すぎる。ネットがなくても革命は起きたが、いまや、サロンで何が画策されようとSNS匿名投稿であっさりバレてしまう。革命は内部からも起きるのだ。

五輪のリスクの本質は、右往左往のロイヤル族をまのあたりにしてモチベーションが低下した五輪下々部隊に大会執行実務のすべてが「丸投げ」されることである。その結果がどうなるかは想像に難くない。皆さんご記憶だろう。アベノマスクだ。国会議員すら誰も付けてないマスクだ。国民の大批判のなか現場はモチベーションを喪失し、配布に半年もかかり、しかもなぜか在庫が余りまくり、最後は困って施設に寄付したらいりませんと断られたあの顛末を。五輪においてそれが起きるとすれば危機的だ。IOCはマスク製造業者に過ぎない。日本国から発注がありました、だから作りましたでおしまい。最後は日本国がかぶり、ロイヤル族はケツをまくって逃げ、大放蕩の請求書は下々の国民に年貢として回ってくるのである。細かいことは役所と現場に丸投げで競技の設営事務は何の熱量もなく道路工事のように淡々と進み、大本営の同調圧力がふくれあがる。

しかし五輪下々部隊にとってコロナ対策は専門外のエキストラ・ワークである。何かチョンボあっても俺達はしらない、だって仕方がないよね専門家じゃないし、専門家だってワクチンの冷やし忘れや打ち間違えも起きてるぐらいだし、女子選手は気の毒だからパンツ買いに行かせてあげようって市長も出てるし、バブルに封じ込めなんかどう考えても無理だよね、でも封じ込めたらかえってバブルの中の方が危ないよ、だって退屈でしょ、そうでなくても『選手村はナンパ天国「75%が性行為」』(米タイム誌)っていうし、へたこくとウィルスの交換会になって新種が出てきて選手が持ち帰って、世界中から損害賠償請求の嵐になるね。でも、何がおきても最後は上が首かけて責任取るんでしょとなる。こういう瑕疵は後々に内部告発が週刊誌に出るだろうし、出なくてもネットがばらまく。

何の熱量もなく。ボランティアが減ると負荷が増えてますます危険になる。そしてたくさん失敗する。ロイヤル族は「指示は適切に出したと聞いている」「下々の責任だが任命責任は私にある」と “責任取らない呪文” を吐いて逃げる。マスコミも忖度して報じず、「何か」はうやむやにされ闇に葬られるというのが従来のパターンだが、今回は初めてそれを打ち破る歴史的ケーススタディになるかもしれない。

 

(第7章)突撃一番!

東京大学大学院経済学研究科の仲田泰祐准教授と藤井大輔特任講師のグループが今月16日までのデータをもとに行ったシミュレーションをNHKが報道した。入国者よりも「人出の抑制がカギ」という。結論から言うと僕はそう思わない。それが本稿の論旨だ。当面の「人出の抑制」でなんとかなるのは10月ごろまでの話であり、この調査はそれを見せることを目的としていると思料する。

これは興味深い。まずこういう仮定を置いている。

①緊急事態宣言が6月中旬まで延長され、国内のワクチンの接種は1日に60万本のペースで進む

②大会期間中、海外から選手や関係者など10万5000人が入国し、このうち半数がワクチンの接種を終えている

①②は妥当な所と認めよう。では五輪に突撃する政府にとって、このシミュレーションはプラスだろうか?

答えはイエスだ。つまり、総選挙も総裁選も9月にけりがついている。まだ金メダルの余韻も残っているから勢いに乗じて乗り切れる。10月からどれだけ感染者が増えようと人が死のうと五輪の「宴の後」だ。責任追及はのらりくらりと逃げ切ればいい。だから五輪は「やり得」なのだ。

目論見はおそらくそんなところ、その程度の頭しかないだろう

危険な賭けだ。勝てば政府の丸もうけ。負けたら国民の命で払います。人流6%シナリオのグラフを見ると、9月の選挙の頃に東京の新規感染者数は約1500人になっている。人流が10%以上増えたら、2000人を超えていたら?選挙には影響が出るだろう。

NHKの発表には気になる補足がある。

(東大は)当初、NHKの取材に対し、人流が10%増えた場合のシミュレーション結果を示していましたが、その後の検討でより妥当なシミュレーション結果として6%増えた場合に修正しました。

というのだ。シミュレーションというものは仮定(入力条件)が妥当かどうかをその後に検討するならそもそもやる意味がない。仮定はアバウトでいいのにどこから6%なんて意味もなく半端な数字が出てきたんだ?東大の学者が識者に変だと見抜かれないと思ったはずはなく、むしろ「みっともない」と思ったはずであり、この補足はNHKが東大の名誉を担保したものだと思われる。10%でも控えめだろうと出した所が圧力がかかり忖度したのではないか。

しかも現実に東京都職員は繁華街の人流は現在20%増えていると発表しており、大会中はPV(パブリックビューイング)をやろうというのだから「その後の検討でより妥当」である妥当性すら疑わしい。有観客なら日本中から人が東京にやってきて宿泊し、飲み食いし、ウィルスを地元に持ち帰る可能性がある。プロ野球はほぼ地元の観客しか来ないからぜんぜん別な話だ。全国イベントの五輪は無用な人流を引き起こし、なんのことないGoToキャンペーンの再開になる。

さらに、当シミュレーションはもうひとつ重要な仮定を置いている。

③インド株の影響は含んでいない

10月時点におけるインド株の影響は現段階のデータでは予測可能性が低いという理由でそうしたと思われるが、最大の変数になる可能性があるものを除去してはシミュレーションの意味がなく東大の学者が看過したはずがない。このことからも、このリサーチの真の目的はあくまで10月時点の予測にあったと思う(自民党向けだろう)。

従って、私見ではこう結論する。

10月の1日の東京の新規感染者数は1601人より多い。どこまで多いかは人流とインド株の暴れかた次第である。

政権は目論見を首尾よく達成するために大会期間中の人流を2%増まで抑えることにやっきになるはずだ(それなら選挙前の新規感染者は800人ぐらいでおそらく問題ない)。しかし、冒頭に書いたように緊急事態の延長はマンネリと反抗で「平常事態宣言」になってしまい、2%増に抑え込むのは無理だろう。万一10%以上となり新規感染者が2000人を超えれば世論は「それ見たことか」「すべてオリンピックの責任だ」となるが、選挙は終わっており、もはや「宴の後」だ。9月の選挙時点でそれを予見するか看過するか、そして10月になって逃げ切られてしまうのかは日本の民主主義の今後100年に関わる大きな関門だ。しかし、「やり得」を国民は絶対に許さないだろう。はっきりいって全責任は開催強行した菅内閣に帰する。

付記しておくと、政府の五輪突撃精神の裏には何やらそれだけの「甚大なはかりごと」があると説く興味深い番組がYouTubeで流れている。ご覧になるのも一興だろう(「一月万冊」と打ち込めば出てくる)。林検察は日本がれっきとした法治国家であることを厳然と国際社会に示すべきである。国民は信頼している。やるタイミングなど何の関係もない、相手が誰であろうと。

 

(終章)フィナーレ

ご存じない方が多いだろうから前章のタイトル「突撃一番」について記しておこう。これを知ったのは5年ほど前にミクロネシア連邦のチューク島(旧・トラック島)を訪れ、ガイドの方に歴史を教わった折のことである。同島は日本の「委任統治領南洋諸島」として南洋庁管轄下にあり、太平洋戦争では海軍基地が置かれて山本五十六大将が駐留した、いわば  “日本の真珠湾” であった。兵隊は常時5千人の規模であり、南洋の孤島では絶対の必需品というアレがあった。現地の住民を蹂躙せず兵隊の士気も保つ絶妙の組織的気配り、その名称が突撃一番だったのである。そしてこの島から兵士たちは突撃し、山本五十六は ブーゲンビル島に飛び立って、散った。

 

「突撃一番」https://mag.japaaan.com/archives/77927

 

 

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Categories:政治に思うこと, 新型コロナ・ウィルス, 若者に教えたいこと

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