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新しい猫「フク」のデビュー

2021 SEP 12 1:01:39 am by 東 賢太郎

新顔のフク

こいつが来てから1年になった。1年だからまあ新しくはないが、成猫がそう一朝一夕になじむものでもない。僕は生前に猫だったことがあると思っていて、猫も五感でそれを感知するみたいだから初めは警戒もされる。餌をやればなつくとは思うが、そういう浅はかな付き合いを猫としたいとは思わないからやらない。昔の猫も僕とは遊び仲間であり、一度その絆ができれば強いものになるのである。

名前はフクという。福の神のフクだ。思いおこせば小学校のころに我が家に初めての猫が来てから、数えてみたらもう9番目である。フクは2番目のオスであり、4番目の黒猫ということになる。どうしてメスばっかりでクロばっかりだったのかは皆目見当がつかない。なにせ、ぜんぶ野良だったが、僕が拾ってきたわけではなく、みんな母や妹や娘がどこかでみつけてきたからである。全員が大事な家族だったし、たくさんの思い出をくれた。あの猫この猫と、思い出はいちいち細かく覚えている。遊んでもらい、気晴らししてもらい、受験勉強は猫ぬきで絶対に合格できなかったという確信に揺るぎないものがある。

フクがきて初めのうちは僕にだけやたらとシャーシャーするので、ある時に一発ぶちかましてしまった。こいつは危険だと刷り込まれたんだろう、寄って来なくなった。他の猫ともだめなので、当てがったのは居間である。まずいことに、そこで僕は毎晩めしを食い、野球をみて、夜はミステリーのビデオというのが日課だから、いやがおうにもフクとは一対一になって顔があうのである。娘だと足にまとわりついてニャーニャーと満身の力をこめて長鳴きするくせに、僕だとコソ泥みたいにささっと物陰に逃げこむ。おまえ、男のくせになさけないなと、ますます評価が下がっていたものだ。

そうこうするうち、ある事に気がついた。居間のドアを開けて入る。すると、フクは必ずこっちにちらっと視線を送るのだが、イメージ、百分の一秒ぐらいだけ目を見る。いや、見るのでなく、視線が “かする” ぐらいの電光石火の早業で目が合って、どうも、それでこっちの機嫌の具合がわかってしまうようなのだ。猫界では目を見るのはケンカを売ってることになる。その気はないよということである。本当にそうかどうかは聞いてみたいものだが、こっちが機嫌のいい時はリラックスしている風に見え、最近は寄ってくるようになった。「おまえは凄い、読心術だ」。敬意を覚えた僕は、たぶん当たりが優しめになったんだろう、だんだんいい関係になった。それで晴れてここに登場とあいなったわけだ。

年齢は不詳だがまだ若い。少なくとも2,3年は野良猫人生を歩んできたろう。危険いっぱいの野っ原で食うか食われるか命懸けの苦労をして五感が研ぎ澄まされてる。最近は仲良くなったのをいいことに至近距離を目も会わさずに悠々と通っていく。しかし僕との距離は、まるで定規で測ったように見事に、手を伸ばしても届かないぎりぎりの所をだ。先住のノイ、クロ、シロは命懸けの苦労がないからか雰囲気がちょっとちがう。オスというのもあるが、リモート生活で外気にあんまりふれない身としては野生の本能を持ちこんでくれたことが五感を刺激してありがたい。

フクの性格は顔に似合わず温厚である。だいたい黒猫はみんなそうだ、とてもやさしいので猫を飼いたい方にはおすすめだ。中世にはヨーロッパにいて、魔女狩りのとばっちりで受難の歴史があるからだと僕は思っている。人間に可愛がられる技を身に着けて生き残った先祖からの遺伝だろう。でも、いくら殺されても黒猫はいなくならなかった。たぶん闇夜の狩りには黒くて目立たない方が有利だからで、何億年ものスパンではそっちが種の保存の重大事であり、魔女狩りなんてのは一時のアクシデントでしかなかったろう。

僕は血統書付きの希少種みたいなお高くとまったのは、猫に限らずまったく興味がない。むしろ嫌いである。だんぜん野良がいい。ペットショップもいかんが、掛け合わせて変な種を作る操作も実におぞましくいかがわしい。宇宙は神の意志、ジャイアント・インパクト説で動いていると信じるので、人間の浅知恵でしかないあらゆる「人為的なるもの」は僕の目には奇形にしか見えないのだ。その場その時の成り行きで自然にできたものが宇宙の道理にかなっており、人間はそういうものを「美しい」と感じるようにできている。だから野良猫は美しいのである。フクの面構えもだんだん自信がついてドスがきいてきた、とってもいい。

 

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Categories:(=‘x‘=) ねこ。

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