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「45才定年制」の深い闇

2021 SEP 13 9:09:33 am by 東 賢太郎

45才定年制はサントリーホールディングスの新浪剛史社長の案だ。会社に頼らない人を育てる意味だというがネットで炎上してる。どちらの気持ちもよく分かるが、これを批判しても仕方ない、既に発表されているみずほ銀行の週休3日制も同じであって、マイルドに聞こえるが要は「もう正社員をそんなに雇えない」という意味なのだ。日本を代表する企業の収益力の衰退はもうそこまで来ており、病膏肓に入っている。定年延長議論は年金の枯渇問題を民間に押し付けようという悪いジョークにすぎない。

企業の収益力の衰退はコロナのせいではない。国を人とするなら株価は体温のような健康のバロメーターである。我が国は先進国で唯一30年も株価が横ばいで、相対的にどんどん体温が下がっている。30年前に米国人が脅威に感じるほどリッチな国になったのが泡沫の夢であったかのように、現在の我が国はというと、国民ひとりひとりの物価調整後の購買力(金持ち具合)を示している「一人当たりGDP」はすでに韓国に抜かれている。

これに対してよく出る反論は、上位を占める人口の少ない国とは事情が違うというものだ。人口5000万人以上の国で比較すれば日本は世界第6位であって、名目GDPが第3位である事実と乖離は少ないという。しかし、ご覧のとおり、もはや人口5000万人以上の国だけで比較しても韓国に負けている。いうまでもなくGDPは一定期間に国内で生み出された付加価値(中間投入物を除いた生産額)の合計でほとんどは企業活動が生んでいる。つまりこの表は日本人が依然として世界で有数の豊かな国民であることを示してはいるが、日本企業が衰退の一途にある可能性を示唆してもいる。

企業は利益がなければ給料は払えない。「45才定年制」という提案は、含意をどう前向きに表現しようと、「利益に貢献はしないが給料はくれという社員は辞めてもらいたい」という、収益状況の実態に基づいた経営者の本音である。「経営者が無能だから稼げないのを従業員のせいにするな」という批判も成り立ち得るが、そういう経営者でも昭和までは稼げてきたのも事実だ。日本を取り巻く環境が平成あたりから激変しており、国も民間も過去の成功にあぐらをかいて対応を30年も放置してきたのが原因だったと考えるべきだろう。

新浪社長の意図が「会社に頼らない人を育てる」趣旨であるなら、菅総理が掲げた「自助」と重なる。賛成だ。日本はそれ抜きでは国も企業も、成長はおろか繁栄を維持すらできない局面を迎えていることは間違いない。そのことと、本当に助けなくてはいけない弱者への公助(セーフティネット)の必要性はぜんぜん別な話である。菅政権が国民の支持を失ったのは五輪のせいではなくコロナの自宅待機で救える命を救えず「なにが自助だ、公助すらないではないか」と怒りが爆発したからだが、そのことと、日本を沈没させないために「まずは自助を」が必要であることを混同はできない。

自助が何かは一概に言えない。僕は団地住まいのサラリーマン家庭で育った無産階級の子だ。学校の友達は豪邸に住む有産階級ばかりで悔しさが原動力になって勉強し、朝から晩まで働いて有産階級にはなった。別にどうということもない、会社を作っただけだが、日経平均株価が上がれば自分の資産も増える順張りポジションだから第2次安倍政権さまさまで金はできた。たまたまの結果論だが自助には成功した。だが元から金持ちなら苦労は無用で、気持ち的に僕はいまだ無産階級だ。菅総理は政治家として家柄、地盤なしの無産階級から頂点まで昇りつめた人だ。それが首相公邸に頑として入らず理由は語らず。あれがもしもレジスタントな気持ちによるなら僕は共感できる。

自助は簡単ではない。できてもできなくても実はそれでは解決しない根が深いものがあり、それが上級国民という怨嗟の言葉を生んでもいる。「45才定年制」は「ま~しょ~がねえよな~」で終わり、野党の政権交代など論外、自民党総裁選は株高路線の高市でいいんじゃない。思うに世の経営者の本音はこんなもの、運よく手に入れたものを今更変えたくない。僕だってもう充分に頑張ったし面倒だからそれで結構となりかねない。我々世代あたりの逆の意味でレジスタントな意識が根底にあって、官民ともに過去の成功にあぐらをかいて30年も対応を放置した。そして中国はおろか韓国にも抜かれてしまっているのにマスコミはおおっぴらには報道もしないのがまぎれもない日本の現状なのだ。

野球なら中盤まで楽勝だった試合が8回に逆転されて9回の攻撃を迎えてしまっている。66才の僕の実感だ。このまま負け試合にしたくない思いは同世代の皆さんにも共有されていると信じたい。

 

 

 

Categories:______世相に思う

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