Sonar Members Club No.1

since September 2012

ジャコ・パストリアスの魔界

2022 JAN 25 15:15:28 pm by 東 賢太郎

年末から表参道WELLCの森嶌医師のすすめでNMNの点滴注射を4回した。えらい高価な薬だ。先日、検査結果の説明があって「長寿遺伝子」は数値が良くなったらしい。しかしまずいのもあってテストステロン(男性ホルモン)が赤信号だ。こいつが枯れて長生きしてもしょうがないではないか。よし気持ちも若返るぞと昔よく聞いたジャコ・パストリアスのCDを引っぱり出した。

ジャコは、ジャズ、フュージョンのエレクトリックベース界の巨人である。ウエザー・リポートが気に入ってこのベーシストは何者だとなった。結成したジョー・ザヴィヌルは1932年生まれのウィーンっ子でフリードリヒ・グルダの盟友である。1988年にザルツブルグ音楽祭がザヴィヌルの協演を拒否するとグルダは出演をキャンセルしたほどの仲だ。

グルダのジャズは日本では理解されなかったが、ウィーン古典派の大家である彼が傾倒するものがジャズにはあるということだ。それは即興性だろう。モーツァルトの演奏会には即興があったし協奏曲のカデンツァも当然そうだ。もし生きていればモーツァルトはグルダみたいになったろうし、譜面になるべく忠実にという現代のクラシック教育を見たらびっくりしただろう。

ザヴィヌルはウィーンでピアノを学び渡米してバークリー音楽院に入ったが、すぐメイナード・ファーガソンのバンドに引き抜かれて退学した。学ぶものがないと思ったそうだ。グルダと逆の道を行ったわけだが、彼はグルダのようにモーツァルトは弾けないが、グルダも彼のようにジャズはできない。ザルツブルグ音楽祭事務局はザヴィヌルの音楽を認めないがモーツァルトは両人とも認めるだろう。クラシック界が「ジャズはいかがなものか」などと貴族ごっこをしていれば聴衆は減っていく。

ザヴィヌルは僕の親父の世代だが天才だ。ジャズとロックを融合してフュージョン。こいつは金融と科学を融合したフィンテックみたいに出るべくして出たものだが新しい。そのバンドで頭角を現して張り合うまでになったジャコ・パストリアスも天才だった。こうやって天才に天才が寄ってくる。バンドでもベンチャー企業でも同じだ。そうやってイノベーションが起きる。

ジャコはヤクをやって奇行がすぎて、泥酔してライヴハウスに入ろうとしているところを止めたガードマンと格闘になり、そいつが空手をやってたらしく頭を打って亡くなってしまった。1987年のことだ。35才10カ月21日のあまりに短い生涯はモーツァルト(35才10カ月8日)とほとんど同じだ。モーツァルトも女癖が悪く、手を出した人妻が妊娠して怒り狂った亭主に殴られて死んだという説がある。ともあれどっちもぶっ飛んだ人間であり天才に普通のいい人はいないを地で行っている。

彼を知ったウエザー・リポートのアルバム「ヘヴィ・ウエザー」にある「Teen Town」という短いナンバーだ。こいつは衝撃だった。作曲、ベース、ドラムスとも彼だ。ライブもあるがつまらない。彼がドラムを叩いてないからだ。

苦みあるコード、切れ味抜群のリズム、単調なシンバルにからむシンコペートしたバスドラのセンスは天才と書く以外いかなる形容も許容しない。音響が立体的でどんなオーケストラでもできない異界の四次元空間を形成している。これは初めて春の祭典を聴いた時に懐いた心象風景に似ている。

ベースがピアノと対位法になることはジャズ・トリオでもあるが、この速さでとなると未知との遭遇だ。物凄いとしかいいようもない。

ベースのハーモニクス、タムタム、ハービー・ハンコックの電子ピアノの百花繚乱の音が入り乱れ空中を浮遊する世界は魔界の極楽だ。僕はオリヴィエ・メシアンが浮かんでくる。

最後はこいつで元気になる。快感でしかない。モーツァルトに聞かせたい。そのクラスの音楽であること間違いなし。この4つで男性ホルモンは補填できそうな気がする。

この手の音楽こそ僕の原点でありグルダでなくザヴィヌル派だ。ジャズ、フュージョンには踏み込まなかったが、その嗜好を携えてクラシックに分け行ってみると現在の姿になる。クラシック界にはほとんどいない人種であり、だからザルツブルグの事務局みたいな輩は苦手だ。いかなる世界であれ、「いかがなものか」というフレーズを吐く人間にロクなのはいない。ちなみにその音楽祭は2度行ったが音楽会つきのファッションショーだった。

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。

Categories:Jazz

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊