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やっぱり凄かったマケラ(2度目のパリ管)

2022 OCT 19 8:08:46 am by 東 賢太郎

クラウス・マケラ

BプロのS席の最後の数枚が残っていたのに感謝です。元々2万円台の予定が円安で3万2千円。こうやって輸入品が全て値上げになってます。これが高いか安いかは中味次第ですが、結果として、とても安かったです。10月15日に続いて二度目のドビッシー「海」でしたが、これ、掛け値なしに “人生ベスト” でした。67年も生きてきて今さらサイコーなんてもの、そうはありません。忘れたくないので、しばらく同曲をきくのはやめます。Mov1のコーダは終楽章の締めにも出てくるいわば同曲のアイコンです。しかし満足なものがない。やっと見つけました。マケラは圧倒的、衝撃的に見事。言葉もなし。ベストと書くのは3つの楽章に渡ってそういうものがたくさんある、その集大成としてです。15日の東京芸術劇場も良かったのでしょうが、結論だけ書くと、ドイツ物はそっちで聴こうかと思います。フランス物はサントリーかなと思いました、これ初めてのことです。

なにせ、昨日のパリ管、サントリーホールでこんなに良い音のするオーケストラ演奏は僕は一度も聞いたことがありません。昨日の席のあたりでクリーヴランド管を聴きましたが、がっかりだったので、やはりオケに秘密はあるはずです。フランスのオケというと弦は独墺系より薄目で管が色彩的で煌びやかというイメージを持っておられる方が多いかと思います。マケラのパリ管は違います。すべての楽器が特別な上薬でも塗ったかのようにつややかで揺るぎなく盤石の音を出し、それが積み重なる和音の推移はというとロールスロイスに乗ったかのような滑らかな安定感があるのです。これがベースにあるから上に乗るパートの抜群のすばしこさや運動神経も、朗々と歌う華も色も活きる。それをマケラは指揮棒だけでなく全身の動き、顔の表情、目線で伝えて引き出していると思われます(席から見えませんでしたが)。

凄いなあと感服するのは、団員が互いにプライドを持って信頼し合い、自発的にいい音を出すモチベーションの連鎖が全体のクオリティに貢献する様です。そう聞こえます。その音が聴衆を感動させることに確信があり、客席からの無言のフィードバックが団員の喜びになっているように見えます。もちろんそうでないオケはないでしょうが、自発性の度合いが格別に高い感じがしたのは指揮者の魔力のようなものでしょうか。彼は音を出さないのだからその連鎖に電気を流してそれを生み出すのが仕事です。ドラッカーが言っているように経営と指揮は同じマネジメントなんですが、マケラの才能は技能、テクニックとしてそれをしている感じがなく、彼の人間性や人柄からその電気が流れ出て団員が自然にそうしたくなる所にあるのではないかという風に見えたのです。

ラヴェルのト長調コンチェルト。アリス=紗良・オットのピアノ、良かったです。ミュンシュ / パリ管と録音したニコル・アンリオ=シュヴァイツァーの演奏が僕は好きなんですが、それを軽く凌駕してしまいましたね。一ヶ所だけ注文すると、Mov1の例のトリルの所です。あそこはフランソワが凄いんです、まるで泣いてるようで心をかきむしられて。彼女はそんなエモーションは不似合いかもしれないが、たいていの人はあれを聴いちゃってるんでね、ちょっとあっさりに聞こえるかなと思いました。リズムの切れも指回りもgoodですが、彼女の真骨頂は深い陶酔の中を訥々と語りかけた絶美のMov2でしょう。ただの綺麗、中身なしの空虚が多いのですが、愛情をもって練り上げられた美で素晴らしい。これは忘れられません。Mov2はマケラに驚嘆した箇所もあります。イングリッシュ・ホルンが旋律を受け取り、ピアノをひっそりと包みこむような最弱音のオケの和音のカーテンです。この世のものとも思えぬ美しさ!あんな音はきいたことがない、サントリーホールの後ろの方の席であれというのは想像だにしておりませんでした。

カーテンコールの拍手を止めたアリスのスピーチが日本語でありました。一昨日に来日したところ、トラブルでステージ衣装がミュンヘンに行ってしまっていたそうです。最近は派手目の装束の女性ピアニストが多い中、彼女のはちょっとシックでなかなかいいなと思っておりましたがそういうことでしたか。でも、これ、海外では「あるある」で、僕は2度も目撃しています。最初はプレヴィン、2度目はカラヤン、で、3度目はアリスさん。大物ってことですね。ちなみに昨日は5時間もお店を歩いたが良い服がなかったので「今日のスカートはスタッフの方から借りました(笑)」とのこと。そうして弾かれたアンコールのペルト「アリーナのために」は静寂の中の詩情ですね。音が空間に風紋のように広がる感じがあり、本当に良い音楽を聴かせていただきました。

トリは「火の鳥」です。「王女たちのロンド」から静やかに流れる時間。触れれば壊れるようなクラリネットの極限のピアニッシモ。凄いですねえ、こんなの聞いたことない。前回のアンコールで感じたように、マケラの音楽はそうした部分で弛緩するどころか、魅力を増すのです。ラヴェルのMov2がまさにそれでしたが、真っ白なカンヴァスに繊細な絵を描いており、フォルテはその上に悠然と湧き起こり、音が消えると大ホールがただならぬ緊迫の静寂に包まれる。この無音、普通の演奏会にはありませんね、全聴衆が耳を研ぎ澄まさないと起らない。これもオケに伝播するのではないでしょうか。ホールの全部の空気と時間を支配できる人は天性の指揮者です。さて火の鳥ですが、これはアンセルメ(NPO盤)がレファレンスなのでやや心配していましたが、杞憂でありました。テンポも表情も凡そのところアンセルメと近く、まったく違和感なし。カッチェイの踊りなど速い部分のインパクトと切れ味は現代の若手指揮者ですが、たぶん全曲で2,3分速いぐらいではなかったでしょうか。

アンコールは彼が好きだというグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲。これは多くの人がムラヴィンスキーを思い出したのでは。そういえば、このご時勢、ロシアものがプログラムから遠ざけられていましたが、彼は2日でアンコールを入れて4曲もやってます。フィンランド人なのになぜと思いますがこの辺は聞いてみないと分かりませんね。僕は音楽におけるロシア忌避には反対なので彼の姿勢はすがすがしいです。ストラヴィンスキーやグリンカが戦争したわけではないし、音楽やバレエで縁の深いフランスとロシアでもあります。コロナで演奏できなかったこともあるんでしょうか、指揮者ばかりでなく団員の音楽への熱量にも圧倒されました。コンマスの千々岩さんのお力もあろうかと思います、日本人の誇りです。キャンセルした海外オケがいくつもある中、日本に来てくれた名門、パリ管弦楽団に心より感謝いたします。

 

 

 

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