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プレゼンはパフォーミング・アートである

2023 JAN 20 23:23:18 pm by 東 賢太郎

幸い健康でいまでも丸一日仕事して平気であり、視力は1.2だし5キロは走れるし年齢記載欄にはうっかり57と書きそうになる。今年はコロナもインフルも無視でどんどん外に出ており、出れば出るほどリズムが戻り、発想からプレゼンまで現役である。WBCの選抜メンバーを見ると野球選手は35才あたりで峠を越えるようだがビジネスマンは足腰立たなくなるまでプレーヤーでいられる。

性分というのは変え難く、新しい地平が見えてくると突進したくなる。知らない景色が好きなのだ。僕にとって投資は金儲けでなく新開地だ。それが次々とインスパイア(inspire、鼓舞)してくれるから老けこむ暇はない。同類の人と出会うと、それがまたインスパイアになるから大事にする。同類ではないが薪をくべてそれを助けてくれる人もいる。これまた大変に貴重なご縁なのである。

社内であれ社外であれ人を説得しないと進まないからビジネスというのはプレゼンで成り立っているといってよい。ところが論旨明解で弁が立ってもお客様が買ってくれる(お金が動く)とは限らないところが面白い。相手を動かすのは自分がインスパイアされてるからで、その熱量が成否を握る。プレゼンの技術など考えたこともないが、相手に伝わる熱があることはそんなものの百倍も大事だ。

以前に「行動を促す情報がインテリジェンスだ」と書いた。熱量は情報でないからそれではない。つまり陳腐な情報を並べ立てるなど論外だが、立派なインテリジェンスをもってしてさえも「売れる」わけではない。熱量は感性に訴える。それが共感を呼んで行動を促す。これは音楽の名演奏がスタンディング・オベーションを引き起こすのと同じで、人間は理屈だけで動くわけではないのである。

つまりプレゼンは弁論大会ではなくパフォーミング・アートの一種なのだ。これをわかってない人があまりに多い。かつてのこと、部下が100ページもある詳細な資料を作ってプレゼンに臨み、目の前に並ぶお客の顔も見ず延々と読み上げたことがある。ふと見ると数人が舟をこいでいた。きみ、それ3ページでいいんだよ、相手の目を見てアドリブでやりなさいと教えたがその後どうなったか。

僕は音楽演奏は暗譜が望ましいと思う。現に歌手は3時間ものオペラをそうして歌っているのであって、それこそプロだ。ビジネスのプロでありたいならプレゼンごときは暗記してその場の雰囲気を読みながらやれよと言うしかない。それができないなら仮にインスパイアされても熱量が伝わるはずないのであって、つまり、物が売れなかったり社内で予算が付かなかったりしてむしろ当然だ。

スティーブ・ジョブズのプレゼンは静かだが自分が造った製品への愛と感動(インスパイア)がある。まねてる日本の経営者がいるが熱がなくド真面目なサラリーマンがカラオケでサザンを歌ってる感じだ。ハーバードのサンデル教授の講義など内なる熱量でよほどジョブズに近い。米国はビジネスマンはもちろん、学者ですらパフォーミング・アートだと心得ており、だからサンデルは人気なのだ。

僕は野村時代に日本各地の大学、オランダの大学で証券市場論の90分講義をたくさんしたが、ネタは同じなのに一度として同じ話になってない。学生が理解してるかどうか肌で感じながらアドリブでしたからだ。あれでフルトヴェングラーやミュンシュのライブ録音が毎度違う理由がよく分かった。何度ボレロを振っても同じタイムだったトスカニーニすらライブのブラームスは違ったのである。

大変な秀才であった100ページの彼はクラシックを知らないか教養と思ってるだろうが、僕が知るビジネスでトップクラスの人はみなそれなりにアート好きだ。プレゼンをしなくて良い超富裕層は大概がアートのコレクターである。

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Categories:若者に教えたいこと

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