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WBCアメリカ戦(野球のことを少々)

2023 MAR 24 16:16:57 pm by 東 賢太郎

アメリカを完封しろと本気で願をかけていたが見事だった。出会い頭の本塁打2発だけに抑え込んだからだ。以前なら5点は覚悟という感じだったろう。大谷、佐々木だけじゃない、日本のエースと讃えられる山本がそう話題にならないぐらい投手陣は異次元のレベルに達してることがわかった。しかも若い。ハタチの髙橋宏斗がビビりのカケラもなく1回を2三振。余計なもの見せちゃったな、これからたくさんメジャーに持っていかれるんだろうなと心配になるほどだ。栗山監督、よくぞ大会運営側と交渉してこのメンバーを選び集めてくれた。

今回の米国打線はオールメジャーリーガーの**王、MVPだらけで本気モードだった。だから抑え込んだことの価値は計り知れない。ショートの6番ターナーが大会新の5号を左翼上段に打ち込んで1点先取され、重い空気が漂う。それを村上が強烈パンチで木っ端みじんに粉砕した。何という痛快!ただのホームランじゃない、相手をビビらせる一発である。満塁でインハイをどん詰まりだがゲッツーにせず2点目をもぎとったヌートバーも偉かった。そして何食わぬ顔でレフトに叩き込んだ岡本の平常心、あれもかつて日本になかった不気味な静けさだったろう。結局4回のあの3点目が勝負を決めたのだから値千金の1発だった。

先発・今永は本塁打以外は危なげなし。クールに投げ込む右打者のインハイはまったく打たれる気配なし。戸郷はコントロールがやや乱れ、2連続四球で本塁打を打っている絶好調のターナーを迎えてしまった。嫌だな。息詰まる決戦だった。そこでよくぞ投じたインローに曲がり落ちる球で空振り三振。これは球場の空気を変えたろう。山田が2回塁に出て2回二盗を決めたこと。あれも相手に圧をかけた。しかし2回目は危なかった。ワンバウンドの投球をすくって不利な体勢から投げ、楽勝セーフと思いきや絶妙のワンバウンドであわやアウトという信じ難いシーンを見せてくれた捕手リアルミュートが圧を押し戻した。

5~9回の5インニングで日本は1安打の零点。何か手を打ったかといえば何もない。守備固めで1人変えただけで、結局この試合の打席には9人の先発メンバーしか立たなかった。ホームランを放った村上、岡本の5,6番は後半2打席はどちらも三振。打線のムードは下り坂である。結局、この試合、彼ら以外にヒットを打ったのは源田と大谷だけ、期待の近藤、吉田は3タコに押さえ込まれ、たったの4人しか打てなかった。でもそういう印象があまりない。その間の5~7回にマウンドに立った高橋、伊藤、大勢の堂々たる快投があったからだ。

その停滞感のなかで8回、ダルビッシュが被弾して1点差に迫られた。空気が重くなる。彼は試合後インタビューで、口にこそしなかったが、この1発が心にひっかかっていただろう。勝てば自分がどうあれ喜べる野手と、そういうものではない投手は人種が違う。しかし、米国を完封できるレベルの投手陣をここまで仕上げたのは彼だ。早々にWBC参加を宣言してチームを勇気づけ、宮崎キャンプから合流して若手に自信を授けてくれたダルビッシュだ。その若手が後半押され気味の試合を堂々と支えて勝ったのだから、彼こそが功労者だと僕は思う。

そして、しかし、こればかりはどうにもならない、最後はどうしたって大谷さんになるわけだ。投げて打つだけでひと騒動になってるが、バントも盗塁も声出しでも何でもやるのだからそれで驚かれては彼も困るだろう。この男がミーティングで全選手に「今日は憧れるのはやめましょう」と声をかけた。試合前に何か叫ぶなら Let’s do! が普通であって Don’t do. は言いにくい。でもこれは効いたのではないか、憧れの人がそう戒めたのだから。

164キロの速球が引っかかってワンバウンドになる。フルカウント。この大会の掉尾を飾るクライマックスである。トラウトを絶対に歩かせたくない、いや、空振り三振でシメたい。そう考えたに違いない、大谷さんもピッチャーだから。そして捕手の中村もその気脈が通じた一流選手だった。空振りを取っていた164キロの高めストレートでなくスライダー。それもストライクゾーンの!この瞬間に僕は何か叫んだ気がするが忘れてしまった。

ほぼオールスターのアメリカを決勝で倒した掛値なしの「世界一」。それもスモールベースボールではなく力で。それだけではない、もっと素晴らしいことがある。勝利の雄叫びをあげるのでなく、負けた相手に整列して礼をし、ゴミを拾って去っていく。日本人には当たり前のことだが、世界は驚嘆し、なんとクールな!と讃えている。傲慢でない勝者。謙虚という新しくてカッコいい強者の姿。大谷現象が彼だけでなく、実は日本人の姿だと外国人の目に焼きつけることができたなら、この優勝の意味は計り知れないものがある。

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Categories:若者に教えたいこと, 野球

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