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あなたの年代の男がいちばん危ないの

2024 AUG 28 0:00:25 am by 東 賢太郎

最近、夕食後に2~3キロ走っている。9~10時あたりだとそう暑くもなく、なにより暗くて人通りがなく、昼間の俗事を忘れて空っぽになれる。坂道が多いので汗をかく。時に全力疾走も入れてみたりするが心肺ともに問題なく、俺はまだまだいけると自信がわいてくる。

ところが昨日、その自信を粉々にする事件があった。多摩川台公園下まで何事もなく走り、公園脇の坂を登ろうか、それとも川辺の歩道に降りようかと迷った。べつにどっちでもいいのだが、たまたま伊藤貫さんのyoutubeを見ていたら西部邁さんと仲が良かったと語っていた。両氏とも思想的に割合近くて僕は敬意をもっており、西部さんが自裁されたのがそのあたりであったのでなんとなく手を合わせていこうという気持ちになった。

そこで、多摩堤通りの信号を横切って、3,4メートルの高さの堤防から川辺に下る土を削った階段を降りた。足元は暗い。数段を下ると思ったより急勾配であり、足が疲れてるせいかけっこう勢いがついてしまった。まずいと思ったがもう止まらず、前方は草むらでよく見えず、やむなく、この辺で地面だろうとぴょんと飛んだら全然そうでない。つまづいて前のめりになって砂利道に叩きつけられ、ぶざまにひっくり返ってズルズルと体側で路面をこすってやっと静止した。

要するに、半ズボンでヘッドスライディングしたわけで、左足の脛(すね)と左ひじを盛大に擦りむいた。電灯に照らすと血まみれ泥だらけである。電話して車で来てもらい、家内に応急処置をしてもらったが、まだずきずき痛い。おかしいなと田園調布病院に電話しておしかけ、「遅くにすいません、みっともないこって」と頭をかくと、若い医師とふたりの看護師さんがやさしく対応してくれ、ピンセットで線状の傷口にめりこんでいた小石を除去し、消毒ガーゼを貼ってぐるぐる巻きにし、念のためにと破傷風のワクチンまで打ってくれた。コロナのときの聖路加もそうだったが、日本の医療は実に安心だ。

楽しみだった週末の温泉は問答無用で没になった。家族は大騒ぎになり、箱根で一緒の予定だった従妹に電話して謝ると、旦那も何日か前に階段で落ちたらしい。「ね、ケンちゃんわかる?あなたの年代の男がいちばん危ないの、そうやってみんな過信して病院行きになるんだから」と懇々と説教された。

それはそれでありがたかった。僕は何事も前向きにしかとらない。能天気でも楽天家でもないが、とにかく後向きにはとらない。だからこの怪我もきっと良い予兆であるか、あるいは、凶事を避けられた、守られたんだと思えてしまう。医師が「骨は大丈夫ですか」と心配した傷だ、あの勢いで頭を打ってたら死んだかもしれないが、死んでないんだから良かったと思える。そうでない人も、この性格は無理してでも作るべきだ。なぜなら、本当に人生で得をするからだ。僕には思い出したくないたくさんの禍々しい失敗や不遇や凶事があった。しかし、後になってみると、実は、それがなければあのラッキーはなかったじゃないかということが非常に多いのだ。なぜかは知らない。たぶん、そういう風に生きていると勝手にそうなる。それがはた目にはツキがあるね、持ってるねということになる。

多くの国の多くの外国人と働き、どういう人たちかを知っている。断言するが、彼らを基準としてみれば日本人の9割は心配性であり、はっきり書くと、ビジネスの世界においてそれはうつ病や心神耗弱に近い。大きなリスクに対してなら結構だが、ちまちまとくだらないことに気をもんだり批判を気にする空気に負けて「石橋をたたいて渡らない」なんて寂しいことになってる。国中が国民的にそうであり、本来あまり気をもまなくていい国家がプライマリーバランスをたてに金を使わないと民間は委縮して失われた30年などとクソくだらない小言を垂れてる。その間に先端技術や半導体で世界に大きく後れをとってしまっても他人事のようにやばいと思わない民間の「石橋わたらない根性」というものは、棒で突っついても飛ばない死にかけのカラスみたいなもんで、こっちを誰も批判しないことの方も、世界の目線からすると病気である。株や土地を中国人が買い占めて怪しからんと騒ぐのが保守だなんてわけのわからんことを言ってる。経済安保とそれは全然違う。死にかけの獲物は簡単に捕獲できるからジャングルでは食われるのが当たり前であって、それが嫌なら彼らは江戸時代に戻って鎖国しろと主張すべきである。

食われんようにちゃんと経営して株価を上げろが世界の常識だ。実体価値より値段の高い株など犬も食わぬ。ビジネスのビの字も分かってない連中が馬鹿の一つ覚えみたいに財務省、日銀が悪いって、自由主義国家で役所が頑張って経済を成長させるべきだなどと言う議論は、国が女性の少子化担当大臣を任命すれば子供がたくさん生まれるというおバカな議論といい勝負だ。人間は平等にできていて、青い鳥は誰にも同じだけ飛んで来る。心配性の人は確実にぜんぶ取り逃がす。前向きな人は十回来れば九回は逃がしても一回ぐらいはつかまえる。人も国も、成功者になるかどうかはそれで決まると言ってまったく過言ではない。ユニクロの柳井さんが著書「一勝九敗」でおっしゃるのはそういうことだ。少数精鋭で経営しろとも語ってる。その通りだ。多数の馬鹿の空気と合議制でやってればいずれ全部のカラスが外資に食われる。

「あなたの年代の男がいちばん危ないの、みんな過信して病院行きになるんだから」。そうだけどビジネスマンに過信は大事なんだ。だって取れると思わないと鳥は取れない。危険だから取らなくていいと細く長く生きる人生と、取りに行ってすっころんで早死にするかもしれない人生なら、僕は後者を選ぶ。ただ、みんなに迷惑をかけないように、暗い階段を走るのだけはやめよう。

 

Categories:______日々のこと, ______経済書, 若者に教えたいこと

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