読響定期(ブラームスとラフマニノフ)
2024 OCT 12 6:06:13 am by 東 賢太郎

先日、神山先生に会うや「東さん、頭が疲れてるね、胃と脾臓が動いてない。朝晩に蜂蜜をスプーン1杯食べなさい。それで戻るよ、でも純蜂蜜はだめだよ砂糖入りがあるからね100%と書いてあるのにしなさい」といわれた。たしかにそういう感じがあるが、なぜ顔を見ただけでわかるのか未だに不明である。
というわけで疲れてるのでこのプログラムを楽しみにしていた。
第642回定期演奏会
2024 10. 9〈水〉 19:00 サントリーホール
指揮=セバスティアン・ヴァイグレ
ヴァイオリン=クリスティアン・テツラフ
伊福部昭:舞踊曲「サロメ」から”7つのヴェールの踊り”
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 作品27
表現欲の塊のようなテツラフのヴァイオリンは壮絶だった。このホール、ソロの音がぬけないのか美音は犠牲になっても構わぬとばかり全身を揺らし、足を踏み鳴らし弓圧いっぱいの魂を込めた ff を弾ききる。Mov3はかつて知る最速のテンポで、指揮と競奏し齟齬やピッチが危険なほどだが、そうしたことを気にする演奏ではないのだ。こういうブラームスは初めてだがそれでも大きな感動が残ったのだから文句なし。Mov1、コーダ前のtranquilloのところ、第1主題を p で奏でるソロに pp のオケがそっと加わる痺れるようなあの場面、バスがcに下がってト長調になる壮麗な夕焼けを思わせる部分は数多あるコンチェルトでもラヴェルのト長調P協Mov2のフルートの入りの部分と双璧である2大奇跡的音楽だが、テツラフの高音はそこまでのアグレッシブな強奏があったものだから天上の調べのように響いた。tranquilの反対語がaggressiveであり、彼の表現はブラームスの意図の正鵠を射たものなのかもしれない。
それだけではない。アンコールのバッハを締めくくった柔らかいベルベットの感触の最弱音はブラームスの上記の部分の pp とは質がちがう。深く精神の奥底に沈静してゆくのだが、最強音でみせた弦も切れんばかりの緊張感と同じほどのエネルギーが乗っている感じがして耳が吸い寄せられ金縛りになる。同じ楽器から出たものと思われず、ヴァイオリンからこんな音を聴いたのは初めてだ。刮目すべきヴァイオリニスト。
疲れた時のラフマニノフS2番。これは我が定番だ。受験に失敗した時、目の前が真っ暗になったその日からしばらく記憶が完全に消えてしまっているが、これのレコードを落ちた当日に聴いていた記録をずっと後になって見つけた。そういう曲だったのだ。ところがそこまで好きなのにこれのライブを聴いたことがないと思っており、長女に「絶対一緒にきいてる、だって『2番ってP協じゃないよ交響曲だよ』って言ってたもん、きいたから曲覚えてるんだから」と真正面から反論されカードを調べると、たしかに2001年に日フィル、ザンクト・ペテルブルグフィルと2度も聴いていた。ここまで間抜けなことも珍しい。分厚いスコアは持っているがP協2,3番には子細に行った楽曲分析めいたことをしようという気になったためしもないし、大事な恋人のようなものでそういう無粋なことをする対象ではない異例の曲と思う。
ヴァイグレがこれをやってくれたことに感謝しかない。読響も熱演だった。ひとつだけ注文があるとすると、Mov2のシンバルが鳴ってからの急速な弦楽合奏だ。僕は海外のオケの方を多くきいてきたせいかもっと音圧、切れが欲しい。CDでコンセルトヘボウ管、ベルリンフィルと比べるとわかる(単純に表現すれば同じ f を弾いても音の質量感が大きい、BPOのコントラバスの音量などド迫力である)。日本のオケ一般のことだがきれいな音を作る表現力はあるがこういう部分の凄みがあればさらに表現の幅が出ると思う。
おかげで疲れが吹っ飛んだ。音楽を聴いてきてよかった。
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