失われた30年は財務省のせいばかりではない
2025 APR 5 11:11:39 am by 東 賢太郎

「ガキが泣く姿を映す時間はない。私の意見が気に入らないのなら、次はもっとうまく投げろ。彼は怒るべきだし、何であれ対戦打者を葬り去る準備をすべきだ」
ドジャース佐々木朗希の“涙目”降板にこう言い放ったのは2度MLBオールスターに選出され、ダルビッシュの女房役だったジョナサン・ルクロイだ。この記事を見て、そうだ、その通りだとうなづいている自分は昭和の男だなあとつくづく思った。本当に泣いたかどうかは知らないが、そう見られたならどっちでも同じだ。
あえて「男」と書かせていただいたが、「男は泣くな」でも「女なら結構」でもない。僕はガキの頃から「男は人前で泣くな」と厳しく躾けられた。だから何があろうと外で泣いたことがない。妹はいわれてない。昨今の親は男の子にもそういわないのではないかと思うから、僕はシンプルに「昭和の男」なのだ。
ルクロイが言いたいのは「大舞台に立つ者は立つなりの理由がある。やることやれよ。やれないなら怒れ。できなきゃ去れ。泣くのはガキだ。そんなものをテレビで放映なんかするな」ということだろう。そうか、アメリカでもそういう風潮があるんだ、僕が最も反応したのは最後の部分なのだが。
大舞台でなくとも、あらゆる軍隊の最前線で司令官が飛ばす檄に最もふさわしいのはルクロイの言葉みたいなものだろう。軍には女性もいるだろうが、敵軍に立ち向かう最前線を占めるのは圧倒的に男であるはずで、撃った銃弾が相手に命中しませんなんて泣く奴はのっけから失格なのである。
ところが、そういうことを口にしようものなら「パワハラだ!」と攻撃される時代だ。では敵軍に立ち向かう最前線を占めるのが圧倒的に男だとセクハラなんだろうか。戦いに負けても人権は守るべきか。もちろんだ。だから戦争はいかんのだ。そんな禅問答をしてるうちにミサイルぶちこまれるのが戦争というものだ。
昨日紹介された台湾系米国人CEOは語った。「ドローンを撃ちこむ10分前にサイバー攻撃を仕掛けて敵地の通信手段を遮断して迎撃を絶つ。ウクライナで起きてる事です。そのため中国は台湾の海底ケーブルを日々切断してます。だから遮断できない衛星通信が奪い合いなのです」。戦争の最前線は宇宙に至っている。
クラウゼヴィッツは『戦争論』で語っている。ただ善良な気持ちから戦争について語るのは最悪である。
牛殺しの熊でも殺すな、熊にだって子供がいる。暗殺犯だがやむにやまれぬ家庭の事情があったのだ。昨今は「何事も屁理屈はつけられる」という意味であるはずの「盗人にも三分の理」なる諺が、盗っ人は生活が苦しいのだから三割は減刑しろみたいに語られる。なんだか世論が無気味に曲がってきていないだろうか。
楽天の監督だった星野仙一が「ノックアウトされて戻ってくるピッチャーに拍手しないでくれ」と仙台の観衆に苦情を述べ、優勝させた。昨日のこと、作戦でなく真面目に打ってボテボテのセカンドゴロだった打者を、走者は三塁に進んだというのでベンチがタッチで迎えるチームがあった。星野なら怒鳴ったろう。
そういう指導を昭和だパワハラだというなら、敵に攻め込まれて皆殺しにされても人権とジェンダーとLGBTは守りますという国に移住することをおすすめしたい。野球は戦争ではないが、泣く新人を擁護していればいずれエンタメのショービジネスになり、「とんねるずのリアル野球盤」とあまりかわらなくなる。
日本の失われた30年は財務省のせいばかりではない。1980年代に欧米の最前線で真剣勝負で戦った僕の眼からすれば企業風土がリアル野球盤になったことはもっと大きい。要はバブル後遺症でユルフンになってIT戦争に大敗し、世界でカネが稼げなくなったから国民的に貧しくなったのである。
「ガキが泣く姿を映す時間はない」。MLBのプライド高い世界トップの野球選手たちでこんな番組を作るのはライオンにチンチンの芸を仕込むより難しいだろう。「そんなものをテレビで放映なんかするな」。誠にごもっとも。こういう国のテレビ局だから恥ずべき事件が起き、見てる国民もユルフンになっていく。
僕はある有能な若手ヴァイオリニストにテレビには出ない方がいいよと進言したことがある。そうしないと野球盤の道だ。厳しいことを言うようだが僕はパワハラ支持者でも軍国主義者でもない。英語でそれをディシプリン(discipline)という。何であれ一流になり一流であり続けるには心の修養が必要と言っている。
だから一流を目ざさない人にまであれこれ言おうという趣味も暇もモチベーションも僕には微塵もない。つまりユーチューバーになってご高説を垂れるような人たちとはまったくの別人種である。なぜなら僕は社会に出てから今日の今日までいちプレーヤーであり、この仕事で絶対に負けない自負があるからだ。
佐々木朗希が泣いたのだとしても彼への僕の期待はかわらない。一流の自負がないと涙は出ない。それなしでなれると思わないから有資格者の証明であり、あとは心の修養だ。周囲など一切無視するんだね。それを無礼という連中を気遣ってもいいことはない。何が一流かわかってない人たちは真の支援者でないからだ。
Categories:______世相に思う, 野球

2 comments already | Leave your own comment
東 賢太郎
4/5/2025 | 11:43 PM Permalink
恥ずべき事件。興味ないからまったく知らないがこれってシンプルに犯罪で会社は幇助なんじゃないの。誰がクビになったなんて枝葉の話で。
東 賢太郎
4/8/2025 | 4:34 AM Permalink
幹部は「プライベートな男女間のトラブルと思っていた」ともっていきたいようだが「強制性交等罪」はプライベートどころか夫婦間ですら成立しますからね。第三者委員会に「性暴力」と指摘されちゃってますからどうしようもないですね。被害者女性を守るのが正義だろうと思います。